第120話 派閥
アルジたちは進む。
町の外へ、山の方へ。
猟師たちの基地を目指して。
空はすっかり暗い。
道には灯りがあった。
ほぼ等間隔に1つ、また1つ。
木製の三脚の上。
球形の小さな光が灯っている。
アルジたちの行先をぼんやりと照らす。
その光は、魔術による光。
魔灯火だった。
いくつも、いくつも灯っている。
基地にたどり着くまで。
エミカ「この灯りは猟師の人たちが?」
リンスケ「そうだ。みんなで協力して立てた」
エミカ「みんなで…」
リンスケ「ああ。こんなことは滅多にない。
猟師というのは、基本的に群れることを嫌う。
自己主張がやたら強く、偏屈な者も多い。
だから、こんなことは滅多にない。
…ここから登るぞ」
坂道が続く。
道は細くなっていく。
いくつかの大きな岩を踏み越える。
さらに進む。
登り道が終わり、平坦な道が続く。
遠く向こうには基地へ向かう何人かの猟師たち。
後ろ姿が小さく見えている。
やがて開けた場所に出る。
大きな四角い建物が奥の方に見えた。
その手前側には、炎が上がっている。
猟師たちが大きなたき火をたいていた。
立ち止まるアルジたち。
アルジ「みんな猟師か」
エミカ「多いな」
リンスケ「懸賞金の話が持ち上がって、
また一段と人が集まった感じだな」
アルジ「力を出し合って魔獣と戦うわけか」
リンスケ「…どうだろう」
アルジ「?」
リンスケ「基地を建てたり道を整えたり
そういうことはうまくいってるが…」
エミカ「魔獣退治は?」
リンスケ「うまくいってるとは言えない」
エミカ「なぜだ?」
リンスケ「獲物を前にすると血が騒ぐんだろう。
連携だ協力だと多くの者はしきりに言うが、
いざ獲物を前にすると我先にと突っ走って、
単独行動をとる者があとを絶たないそうだ」
アルジ「猟師としての競争心か」
リンスケ「まあ、そんなものだ。
獲物を奪い合うこともある。
政府の懸賞金が…
この不協和に拍車をかけなければいいが」
アルジ&エミカ「………」
アルジたちは進んでいく。
大きなたき火の近くへ。
肉の焼ける匂いが漂っている。
何人かの猟師が集まって食事をしていた。
地面に横たわるのは巨大な獣。
死んでいてあらかた解体されていた。
その肉を小さく切って長い串に刺す。
そして、たき火で焼いて食べていた。
大声で馬鹿騒ぎする者たちの姿もある。
リンスケ「調子づきやがって…」
アルジ&エミカ「………」
アルジたちは大きな四角い建物へ向かう。
そこが猟師たちの基地。
簡素だが、丈夫にできていた。
壁も床も天井もしっかりしている。
雨も風も通さない。
基地を外から眺めるアルジたち。
多くの猟師たちが出入りする。
アルジ「こんなでかいのをわざわざ建てたのか」
リンスケ「ああ。
だが、新たに建てたってわけじゃない。
この建物はかつて山小屋として使われていた。
もう長いこと放置されてボロボロだったが、
猟師たちが集まって改装したそうだ。
ナクサの大工たちも手伝ってくれた。
ここがオレたちの基地。魔獣退治の拠点だ」
エミカ「ここから狩りが始まるわけか」
リンスケ「そうだ」
リンスケの返事には力がない。
エミカ「……?」
アルジ「さっき聞いたんだけど…」
リンスケ「…何を聞いた?」
アルジ「どうあがいても獲物にはありつけない」
リンスケ「…!?」
アルジ「南国首位猟師がさっき言ってた」
リンスケ「ああ…」
アルジ「基地へ行けばどういうことか分かる。
そんなことも言ってたな」
リンスケ「…そうだ。基地の中だ」
エミカ「基地の中…」
リンスケ「答えは基地の中。あの中にある。
入ってみればどういうことか。
君たちもよく分かるだろう」
アルジ&エミカ「………」
◆ 猟師の基地 ◆
アルジたちは基地に入る。
入るなり小柄な猟師が走ってくる。
そして、地図を3人に1枚ずつ渡す。
小柄な猟師「さあ、狩場の地図だ!
参加するなら受付をしてもらおう!」
基地の中には長い行列ができていた。
並ぶのは弓や槍を携えた者たち。
いずれも猟師。
奥にある受付台で何やら話している。
それから、腕輪をもらっている。
赤い腕輪か青い腕輪。
いずれかを猟師たちは受けとっていた。
エミカ「狩りに参加するためには…
あの腕輪がいるのか?」
リンスケ「そうだ」
アルジ「赤と青の違いはなんだ?」
リンスケ「………」
リンスケの顔が険しくなる。
リンスケ「地図を見てくれ」
アルジ&エミカ「………」
さっき渡されたのは近くの山野の地図。
その中央には赤く塗られた領域。
そして、地図の下部には注意書き。
「タキマイ狩猟会の非会員は、
赤い領域内での狩りを禁ずる」
アルジもエミカも首を傾げる。
リンスケ「こういうことだ」
アルジ「タキマイ狩猟会?」
リンスケ「一大勢力だ」
エミカ「派閥みたいなものか?」
リンスケ「そうだ。金を払えば入会できる。
だが、その金額はとんでもなく高額だ。
オレのような普通の猟師には
とても払えたもんじゃない」
アルジ「でも、この赤い部分にいるんだろ?
魔獣は」
リンスケ「ああ。そうだ!
特に懸賞金が懸けられた魔獣の親玉は、
この赤い領域の真ん中にいると聞く」
エミカ「なら、みんなで行くべきじゃないか」
リンスケ「それができない。
立ち入った者には矢が放たれる
タキマイ一派が容赦なく矢を放ってくる」
アルジ「同じ猟師なのにか?」
リンスケ「ああ」
アルジ「おかしいだろ」
リンスケ「もともとこ
の一帯はタキマイ一派の狩場だ。
縄張りを荒らされたくないって
ことなんだろう」
エミカ「非常時なのに…
そんなことにこだわるのか」
リンスケ「あいつらには力がある。
だから、ほとんど誰も逆らえない。
悔しいが、これが現実だ。
さあ、オレたちも列に並ぼう」
列の最後尾に並ぶアルジたち。
何人もの猟師たちが前に並んでいる。
受付の順番が来るまで時間がかかりそうだった。
アルジ「昨日もこうやって受付したのか?」
リンスケ「そうだ。昨日も一昨日もそうだ。
今日よりはもっと人は少なかったが、
こうして並んで腕輪をもらった。
タキマイ一派に属している者には赤の腕輪。
属していない者には青の腕輪が渡される。
1日の狩りが終わったら受付台に返却する」
エミカ「青の腕輪の猟師は
地図の赤い領域に入ったら矢を放たれると」
リンスケ「そうだ。
だが、赤い領域に踏み込まなければ
ろくな成果は得られない。
外にいるのは小物ばかりだ。
大物はタキマイ一派がほぼ独占している」
アルジ「ひどい話だな」
リンスケ「ああ、まったくだ。
オレは今日、迷ってしまったんだ。
深い霧の中、林の中を歩いていたら。
それで気がついたら赤い領域の中にいた」
エミカ「タキマイ一派に襲われなかったのか?」
リンスケ「大丈夫だった」
エミカ「なぜだ?」
リンスケ「南国首位猟師だ。
彼らと偶然そこで出会った。
おかげでオレは矢を放たれずに済んだんだ」
アルジ「一緒に狩りをしたって言ってたな」
リンスケ「ああ」
エミカ「南国首位猟師たちはタキマイ派なのか?」
リンスケ「いや、違う」
アルジ「じゃあ、なんで…」
リンスケ「あれは本当に痛快だった!」
アルジ&エミカ「………」
リンスケ「怖くて近寄れなかった狩場。
そこで彼らは堂々と獲物を狩りまくっていた!
力を出し合い、でかい魔獣を次々と…。
圧倒的な実力だった。オレは感動した。本当に。
心の底から…ああなりたいと思った」
アルジ「タキマイ一派は…」
リンスケ「…察しのとおり。
あいつら強い猟師は攻撃しない。
南国首位猟師たちの反撃が怖かったから、
領域内での狩りを黙認したんだろう」
エミカ「魔獣の親玉のところは?
行かなかったのか?」
リンスケ「さすがにそれは無理ってもんだ。
南国首位猟師といえども」
アルジ「なぜだ?」
リンスケ「奥の方にはタキマイがいる。
タキマイ狩猟会の代表だ」
アルジ「強いのか?」
リンスケ「ああ、強いなんてもんじゃない。
恐ろしい…本当に恐ろしい猟師だ」
エミカ「南国首位猟師もさすがに手を出せない
…ってことか」
リンスケ「そうだ。そんなわけだから、
『どうあがいても獲物にはありつけない』。
ギンタロウさんの言葉はそういうことだ」
新たにやってきた猟師たち。
アルジたちの後ろに並ぶ。
受付台では猟師たちが何か言い合っている。
列はなかなか進まない。
リンスケ「タキマイ一派について話しておこう。
オレが知っている範囲で」
アルジ&エミカ「………」
リンスケ「狩りに参加するのなら
知っておいた方がいい。
あいつらはこの数十年の間に
狩猟界の最大勢力となった。
なぜこうなったのか。
ある程度知っておいた方がいい。
この狩りに参加する前に」
アルジ「ああ。聞かせてくれ」
リンスケは語り始める。
タキマイ一派が力を持った経緯について。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 23
◇ HP 2277/2277
◇ 攻撃
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 素早さ
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力 5★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 19
◇ HP 1452/1452
◇ 攻撃 9★★★★★★★★★
◇ 防御
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 素早さ
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
39★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ リンスケ ◇
◇ レベル 14
◇ HP 441/441
◇ 攻撃 9★★★★★★★★★★
◇ 防御 7★★★★★★★
◇ 素早さ 9★★★★★★★★★★
◇ 魔力
◇ 装備 木の長槍、軽量弓、革の猟師服
◇ 技 草木払い、離れ撃ち
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 20