第118話 首位
次々と料理が運ばれる。
大きな楕円形の食卓へ。
勢いよく食べ始めるギンタロウと仲間たち。
ガチャガチャと食器の音が鳴る。
彼らは一言も発することなく黙々と食べる。
アルジ(行くか…)
アルジはおもむろに立ち上がった。
そんなアルジをエミカは見上げる。
エミカ「アルジ」
アルジ「任せろ。オレがあいつと話してくる」
エミカ「大丈夫か?」
アルジ「ああ。大丈夫だ。任せとけ。
彼らと行動すれば強い魔獣と出会えそうだ。
魔獣の討伐を手伝いたいと伝えよう。
懸賞金の話も気になるしな!」
エミカ「私も行く」
アルジ「そっか」
アルジはギンタロウの方を見る。
そのとき。
奥にいた男の客がギンタロウに近づく。
アルジ&エミカ「……」
客D「やあ、ギンタロウさん」
ギンタロウは食事の手を止めて振り向く。
ギンタロウ「よお、今日はお疲れ!」
ギンタロウの仲間たちも手を止める。
やってきた男の客を一斉に見る。
アルジ(知り合いなのか?)
客D「南国首位猟師、今日は見事な狩りだった」
ギンタロウ「なあに、大したことねえよ!」
客D「その手腕、近くで見せてもらって感動した。
観察、追跡、捕獲。どれも素晴らしい動きで…」
ギンタロウ「あんたこそいい援護射撃だった!
あんたの矢が当たってから状況が変わった!」
客D「そう言ってもらえるとありがたい。
オレはリンスケという者だ。猟師だ。
ウテナムの国、ワマの町から来た」
ギンタロウ「ほう、そうかい」
それは、今日の昼下がりのこと。
ギンタロウと仲間たちは森で狩りをしていた。
リンスケはそこに偶然居合わせる。
突然、何頭もの魔獣が現れた。
それぞれが強くて大きな魔獣たち。
ギンタロウたちは苦戦する。
そんな中、リンスケが意を決し、加勢。
得意の弓矢で援護射撃。
驚く魔獣たち。
隙が生まれる。
訪れた好機。
ギンタロウたちは逃さない。
仲間たちの猛攻。
最後はギンタロウが決める。
そして、彼らは獲物を仕留めた。
得られたのは良質な爪、牙、肉、毛皮。
華々しい戦果だった。
ギンタロウ「あの毛皮、高く売れただろ」
リンスケ「ああ、あんなに上等なものは初めてだ。
オレに譲ってくれるなんて…」
ギンタロウ「いいんだ、いいんだ。
手伝ってくれたことの当然の礼だ。
それよりも懸賞金だ。あんたも知ってるだろ」
リンスケ「ああ」
ギンタロウ「オレは基本的に金に執着はねえ。
だがよ、あんな金が懸けられてると思うとなぁ。
ちっとばかり心も動くってもんだな!」
仲間たちはくすくす笑う。
だが、リンスケは笑わない。
真剣な顔のままだった。
リンスケ「ギンタロウさん」
ギンタロウ「明日も頑張ろうぜ。じゃあな!」
ギンタロウは手を振った。
小さく、軽く、1回だけ。
そして、食事を再開しようとする。
リンスケは立ち去らない。
ギンタロウ「?」
リンスケ「ギンタロウさん」
ギンタロウ「なんだ!」
あからさまに不機嫌な態度になるギンタロウ。
笑っていた仲間たちは表情を曇らせる。
だが、リンスケはひるまない。
リンスケ「オレを!あんたの仲間に入れてくれ!」
ギンタロウ「………」
リンスケ「頼む!」
ギンタロウ「………」
リンスケ「頼む!!」
ギンタロウ「断る!」
リンスケ「!!!!!」
ギンタロウ「お前はだめだ。
仲間が欲しいなら、よそを当たれ」
リンスケ「………」
リンスケはがっくりとうなだれる。
その場から動こうとしない。
ギンタロウ「あっちへ行け!」
リンスケ「…ったんだ」
ギンタロウ「あ?」
リンスケ「思ったんだ」
ギンタロウ「何を思ったんだ?」
リンスケ「金じゃない。狩りの本当の喜びを…
あんたとなら…得られるかもしれない…。
手に入れることができるかもしれないって。
夢なんて…そうそう叶うもんじゃない。
分かってる。だが、あんたとなら…
あんたたちと狩りをすれば!!
狩りを続ければ…!オレは…!!」
ギンタロウ「………」
長い沈黙が訪れる。
アルジもエミカも黙って見ていた。
ギンタロウ「…分かった」
リンスケ「!!!」
ギンタロウ「おめえに強い意志があることはな」
リンスケ「………」
ギンタロウ「だが…
こっちにも仲間を選ぶ権利がある。
おめえさんの意志だけじゃ無理だ。
オレたちにはオレたちの意志がある!
それを無視すんな」
リンスケ「……」
ギンタロウは仲間の1人に目を向ける。
ギンタロウ「剛腕剣士、どう思う?」
立ち上がる剣士の男。
彼の名は、ワカオ。
南方の大国、クダツタでギンタロウと出会った。
ワカオ「力もない。速さもない。技もない。
お前は弱過ぎる。話にならん。以上」
リンスケ「…!!?」
剛腕剣士ワカオは座る。
ギンタロウ「罠の達人、お前はどうだ?」
立ち上がる罠使いの女。
彼女の名は、ムエナ。
西方の小国、ラクナンでギンタロウと出会った。
ムエナ「こいつは…罠をなめてる。
…軽んじている。
外見も…なんか好きじゃない。
一緒に仕事なんて無理」
リンスケ「…!!!!」
罠の達人ムエナは座る。
ギンタロウ「光の援護者。お前は?」
立ち上がる魔術師の女。
彼女の名は、スミレノ。
西方の大国、ハオサカヤでギンタロウと出会った。
スミレノ「あなた…魔術を使えないでしょう?」
リンスケ「…!!」
スミレノ「魔力を一切感じないからすぐ分かった。
武器の扱いに長けているならまだ許せるけど…
あなたぐらいの実力だったら…最低でも…
火弾か、岩弾くらいは使えないと…ねえ…?
頑張ろ…。私たちの仲間になるのは、無理かな…」
リンスケ「…うう!!」
リンスケは目に涙を浮かべて立ち尽くしていた。
ギンタロウ「闇の策士、どうだ?」
声をかけられた魔術師の男。
彼の名は、イサグモ。
マキエの隣国、デラでギンタロウと出会った。
彼は立ち上がろうとせず、座ったまま答える。
イサグモ「スミレノと同じ意見だ…」
エミカはじっと見ていた。
光術使いスミレノ、闇術使いイサグモ。
2人の魔術師を。
エミカ(あの2人の魔力が…特に強い…。
北土の魔術研究所でも
上級魔術師に相当する力がある…。
あれだけの魔力を持ちながら
猟師をやる人もいるのか)
5人の仲間のうち残るはスギヤ。
だが、ギンタロウは彼には声をかけなかった。
ギンタロウ「もう…いいだろう…」
リンスケ「………」
スギヤ(??オレの意見は…?)
ギンタロウ「分かったか?
これがオレたちの総意ってもんだ」
リンスケ「総意…」
ギンタロウ「お前はいらん。…そういうことだ。
仲間になりたいのなら、相応の力を持ってこい」
リンスケ「力…」
ギンタロウ「オレたちは補い合っている。
仲間たちはオレにない力を持っているし、
オレは仲間たちにない力を持っている。
集まって力を出し合って
完璧な狩りを目指している。
だが、あんたの力はどうだ。
ありとあらゆる面でオレたちに劣っている。
武術も魔術も罠も観察力も
オレたちには遠く及ばねえ。
残念だが、あんたはオレたちに必要ねえ。
そういうこった」
リンスケ「さっき…
オレの射撃をほめてくれたのは…?」
ギンタロウ「それも別にいらなかった」
リンスケ「え…?」
ギンタロウ「オレたちだけで十分やれた」
リンスケ「そんな…!そんな…!」
ギンタロウ「ちいとばかり、
てこずってたのは事実だが、
別に苦戦してたってほどでもねえ。
攻略は時間の問題だった。
そこにたまたまあんたがやってきて、
オレたちの獲物に勝手に矢を射ってきた。
ただそれだけだ」
リンスケ「………」
アルジ&エミカ「………」
リンスケは力なく笑う。
リンスケ「…はは…」
ギンタロウ「………」
リンスケ「オレが力不足なのは分かった…。
仲間になれないってことも分かった。だが…」
ギンタロウ「だが、なんだ?」
リンスケ「あんたらのことは応援させてくれ。
またどこかで偶然一緒になったときには
力になりたい」
ギンタロウ「………」
リンスケ「最後に1つ教えてくれ」
ギンタロウ「………」
リンスケ「そんなに強い仲間を集めて…
そんなに狩りの実力を高めて…
あんたは…何を目指しているんだ?
一体…何を手に入れようとしているんだ?
一体…何になろうとしているんだ?
教えてくれ…これだけでも…どうか…!」
ギンタロウはニンマリ笑う。
手元にあった大皿の煮汁を飲み干して言う。
店の外にまで聞こえるような大声で。
ギンタロウ「オレは南国首位猟師だ!!
大陸南端の小国から、強い獲物を追い求め、
北へ、北へと旅してやってきた!!」
リンスケ「………」
ギンタロウ「だが、この称号!!南国首位猟師!!
気に食わねえ!!全然満足しちゃいねえ!!」
リンスケ「…!!」
ギンタロウ「オレは大陸中にこの名を轟かす!
どんな魔獣もなぎ倒し!!前人未踏の功績を!!
この手でつかんでみせてやる!!」
リンスケ(ああ…この人は!そうだ…!
この人は…!まるで…!)
店員も料理人も彼の声に引きつけられる。
店の前を歩く通行人の何人かが足を止める。
ギンタロウ「オレたちが目指すのは最高の猟師!!
オレたちが欲しいのは最高の称号!!
猟師の頂点!!そうだ!!
オレは『大陸首位猟師』になる男だっ!!」
リンスケ(この人は…!まるで…!)
自信に満ちた仲間たちの笑み。
感動のあまりリンスケは震える。
リンスケ(この人はまるで…!
物語から…そのまま出てきたような…!
壮大な物語の…主人公のようだ…!!!)
アルジはただ見ていた。
猟師の頂点に立つ。
高らかに宣言するギンタロウの姿を。
エミカ「アルジ」
アルジ「ああ、あいつは…」
うまく言葉が出てこない。
アルジ(南国首位猟師か。
ここにもまた1人…強者が…!)
リンスケはギンタロウに礼を言う。
リンスケ「素晴らしい言葉を聞かせてもらった。
ありがとう、ギンタロウさん」
ギンタロウ「なんてこたねえよ。はっは」
リンスケ「オレも…もっと頑張らねばと思った。
なんだか…力が湧いてきた気がする。
あんたならなれる。きっと。
大陸首位猟師に…!」
ギンタロウ「おう!ありがとよ!!
またどっかで会ったときはよろしく頼むぜ!」
リンスケ「もちろんだ!!」
そして、リンスケは店を出ていく。
仲間に入れてもらえなかった悔しさ。
そんなものなどすっかり忘れたような顔で。
実に清々しい表情だった。
アルジ「………」
エミカ「アルジ、行くか?」
アルジ「ああ、行こう」
まさにそのとき。
ギンタロウの目はアルジに向けられた。
ギンタロウ「おい!!」
アルジ「………」
ギンタロウ「そこのお前!!」
アルジ「…なんだ?」
ギンタロウ「ちょっとこっちに来いよ」
にたりと笑うギンタロウ。
◇◇ ステータス ◇◇
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 23
◇ HP 2277/2277
◇ 攻撃
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 素早さ
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力 5★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 19
◇ HP 1452/1452
◇ 攻撃 9★★★★★★★★★
◇ 防御
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 素早さ
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
39★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 20
◇◇ 敵ステータス ◇◇
◇ ギンタロウ(南国首位猟師) ◇
◇ レベル 26
◇ HP 1600
◇ 攻撃
20★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
22★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★
◇ 素早さ
20★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
11★★★★★★★★★★★
◇ 装備
草緑槍、青天弓、狩猟王の短剣、南国式手斧、
硬毛武術衣
◇ 技
猛襲連撃、潜行探知、竜頭槍撃、蛇尾斧撃
◇ 魔術 岩弾、岩砲
◇ ワカオ(剛腕剣士) ◇
◇ レベル 23
◇ HP 1338
◇ 攻撃
31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★
◇ 防御 11★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力 4★★★★
◇ 装備 長刃猟剣、獣甲戦闘着
◇ 技 巨獣両断撃、甲殻破壊剣、狼牙連撃剣、返身天心斬
◇ 魔術 火弾
◇ ムエナ(罠の達人) ◇
◇ レベル 25
◇ HP 625
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御 12★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
29★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 魔力 9★★★★★★★★★
◇ 装備 精巧弓、裏装小刃、暗空猟衣
◇ 技 隠し刃のにわか雨
◇ 魔術 氷弾
◇ スミレノ(光の援護者) ◇
◇ レベル 23
◇ HP 544
◇ 攻撃 3★★★
◇ 防御 12★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
17★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
23★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★
◇ 装備 古世木の杖、心躍魔術衣
◇ 魔術 氷弾、氷刃、氷壁
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ イサグモ(闇の策士) ◇
◇ レベル 28
◇ HP 883
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
29★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 装備 黒水晶の杖、影想魔術衣
◇ 魔術 暗球、精神操作、五感鈍化、猛威減衰術
◇ スギヤ(歩く獣図鑑) ◇
◇ レベル 21
◇ HP 390
◇ 攻撃 8★★★★★★★★
◇ 防御 11★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力 10★★★★★★★★★★
◇ 装備 怪牙の小剣、硬鱗狩猟衣
◇ 魔術 岩弾、岩砲