第116話 言葉
エミカは語る。
公園を歩きながら。
あの日、リネが話したことについて。
エミカ「最初は私もよく分からなかった。
リネさんが何を考えてるのか」
アルジ「………」
◆◆ 5日前 ◆◆
◆ オケア ◆
早朝、宿の部屋の中。
リネが声をかける。
まだ眠っているエミカとミリに。
リネ「起きて」
エミカ「…ん…」
ミリ「…うーん…」
日の出前。
外はまだ薄暗い。
リネ「魔術衣に着替えて外に出て」
エミカ「…はい?」
リネ「大事な話があるから」
ミリ「んー…」
リネ「外で待ってるから。早く来て」
エミカ&ミリ「…はい」
部屋から出ていくリネ。
エミカとミリは着替える。
布団を畳んで外へ出た。
アルジは眠ったまま。
宿の外で集まる3人。
リネが話を始める。
リネ「エミカ、ミリ」
エミカ&ミリ「はい」
リネ「これから魔術の特訓をしましょう」
エミカ「何をするんですか?」
ミリ「こんな時間にですか?」
リネは真剣な顔。
リネ「私の魔術について教える」
エミカとミリはリネの話を聞く。
きょとんとした顔で。
リネ「まず、雷術は…」
リネは一方的に話した。
自分が魔術を使うときの感覚について。
丁寧に言葉を選んでエミカとミリに伝えた。
リネ「…って感じだから」
エミカ&ミリ「………」
雷術について話し終える。
次は岩術について話し始めた。
リネ「岩術は…」
エミカ「…リネさん」
リネ「何?」
エミカ「どうして先生の魔術を私たちに…?」
ミリ「私たち岩術も雷術も使えませんけど」
リネ「………」
リネはうなずいてから答える。
リネ「もしものときは…あなたたちに
私の魔術を受け継いでもらう」
エミカ「受け継ぐ…ですか?」
ミリ「…どういうことですか?」
リネ「前にも話したことあったでしょ。
天界石の杖のこと。この杖ならできる。
前の持ち主の魔力を受け継ぐことができる。
次の持ち主に自分の魔力を託したい。
そう願ったとき、この石に魔力が宿る。
そして、持ち主が命を失ったとき、
その魔力は次の杖の持ち主に受け継がれる。
私はそうやって親から魔術を受け継いだ。
雷術と…岩術を…」
ミリ「リネさんが負けるなんてありませんよ!」
エミカ「うん、もしものことなんて…」
リネ「ないとは言えないから言ってるの」
エミカ&ミリ「………」
リネ「この先、何があるか分からないから…。
こうして旅を始めてみて分かった。
この旅は思っていたよりずっと危険な旅。
ヤマエノモグラモンとの戦いを思い出して」
エミカ&ミリ「………」
リネ「最後はどうにかなったけど、
少し間違えたら、私たち全滅してたでしょ。
全員、あの化け物の餌になってたんだよ」
エミカ&ミリ「………」
リネ「だから、この先も何があるか分からないし、
伝えておかなきゃと思った。分かってくれる?」
エミカ&ミリ「はい…」
それから、リネは岩術について話した。
続いて、光術についても。
エミカとミリは黙ってただ彼女の話を聞いた。
教え終わると、リネは最後に忠告した。
リネ「最後に1つ聞いて」
エミカ「なんですか?」
リネ「王雷のこと」
ミリ「リネさんの究極の魔術ですね」
エミカ「王雷がどうしたんですか?」
リネ「王雷は最も強い魔術です。
大抵の人や獣はこれ1発で倒せます」
エミカ&ミリ「………」
リネ「だけど、注意して。
これはとても魔力を使う。
使ったら、ほかの魔術は何も使えないくらい。
使いどころを誤ると、
自分を追い込むことになる」
エミカ&ミリ「………」
リネ「だから、ここぞというときにだけ使ってね」
エミカ&ミリ「………」
リネ「……これから訓練しましょう。
私がさっき教えた方法で魔力を高めてみて。
雷術、岩術、光術。
それぞれに適した魔力の高め方。
やってみて。できてるかどうか見てあげる。
まずは…雷術から行きましょうか」
ミリ「リネさん」
リネ「何?」
そのとき、アルジが宿から出てきた。
アルジ「おはよう」
◆◆ 現在 ◆◆
◆ ナクサ ◆
池の周りを歩くアルジとエミカ。
アルジ「そうだったのか」
エミカ「それで私は受け継いだ。
リネさんの魔力を」
アルジ「リネの魔術が使えるってことか?」
エミカ「うん」
アルジ「すごいな」
エミカ「私は受け継いだだけ。
すごいのはリネさんの魔力だ。
受け継いでみてよく分かった。
雷術も岩術も光術も完成されている。
今までリネさんが磨いてきたおかげだ。
私もうまく使えるように練習しないとって思う」
アルジ「そっか。オレも魔術を練習しよう」
エミカ「昨日の雷術、すごくよかった」
アルジ「そうかな」
エミカ「アルジの雷術のおかげだ。
生き残れたのは。
アルジの魔術が止めたんだ。
マスタスの攻撃を。
それでリネさんも私も助けられた。
…ありがとう」
アルジ「いいんだぜ…。自分でも驚いてる。
突然使えるようになって。
昨日はなんだか…力があふれてた。
魔力も高まって…。自分じゃないみたいで。
この剣が与えてくれたんだと思う。
オレに…力を…」
エミカ「魔力を与える剣…。不思議だ。
…昨日だけじゃない。
剣が光るとアルジは強くなる。
その剣は一体…」
アルジ「勇気の剣。村に伝わる宝だ。
どういうことがあってこれができたのか
村の誰も詳しいことは知らないんだけど。
とにかく大昔からある大事な剣らしい。
リネも…よく分からないって言ってた。
この剣のことは」
エミカ「そうか」
アルジは遠い空を見上げる。
アルジ「とにかく昨日は必死だった。
なんとかしてあいつの闇魔術を止めなきゃ。
その一心でオレは魔術を使おうとした。
リネから教わったことを思い出して。
周りが見えてなかったし、
音も聞こえてなかった。
でも、あのとき自分でも分かった。
オレは今、雷術を使ってるって。
オレの魔術が、あいつの左手を封じてる。
静かで深い闇の中それは分かった」
エミカ「アルジの強い願いに…
その剣が応えてくれたのかも」
アルジ「そういうことかもしれないな」
池の周りを1周する。
1匹の魚が跳ねた。
アルジとエミカはもう1周歩くことにする。
日が沈みかける。
空が暗くなっていく。
公園から人の姿が消えていく。
エミカ「今朝、試してみたんだ」
アルジ「何を?」
エミカ「リネさんから受け継いだ魔術を。
自分が本当に使えるのかどうか」
アルジ「そっか。使えたのか?」
エミカ「使えた。それと…」
アルジ「それと?」
エミカ「試してみて、はっきり分かった」
アルジ「なんだ?」
エミカは自分の手のひらを見る。
エミカ「ミリの魔力も受け継いだみたいだ」
アルジ「…なんだって?」
エミカ「今朝、リネさんの魔術を出してみた。
まだぎこちないけど、なんとか形にできた。
受け継いだ魔術を一応ちゃんと使えたんだ」
アルジ「よかったな」
エミカ「ああ。そのとき、気づいた。
昨日からなんとなくそんな気はしてたけど。
3種類の魔術を試してみたとき分かった。
まだあるって…」
アルジ「………」
歩きながら顔を見合うアルジとエミカ。
アルジ「まだある…」
エミカ「…うん」
それぞれ前を向き、池の周りを歩く。
エミカ「私の中にもう1つ別な力がある。
そのことがはっきり分かったんだ」
アルジ「別な力」
エミカ「そうだ。別な力。別な魔力が。
リネさんのものでも、私のものでもない。
別な魔力がもう1つ、私の中にあるって」
アルジ「………」
エミカ「それがミリの魔力だった」
アルジ「使えたのか?」
エミカ「使えた。氷術も」
アルジ「ミリの魔力も受け継いだわけか」
エミカ「そうだ。そうなんだけど…分からない。
分からないんだ。どうしてミリの魔術まで…」
アルジとエミカは黙って歩き続ける。
公園内に人の姿はもう見えない。
2周目も半分を回ろうというとき。
アルジは1つのことに思い当たる。
それは、あの日の朝の出来事。
リネがひどく取り乱していたあの朝のこと。
アルジ「エミカ」
エミカ「どうした?」
アルジ「………」
エミカ「……?」
町に明かりが灯り始める。
アルジ(これは…確かなことじゃない。
そうだ…。確かなことじゃないんだ。
オレがそう思うだけ。
そういうことじゃないかって気がするだけ。
リネもミリもいない今、
それをオレが言うのは違う気がする。
オレの口から、オレの言葉で、
エミカに伝えることじゃない。
そんな気がする。
だから、やっぱり言うのはやめておこう)
エミカ「アルジ?」
アルジ「…ああ」
◆◆ 4日前 ◆◆
◆ ガヒノ ◆
森からタジヤを救い出したその翌朝。
リネはミリを連れ出した。
高宿の外に。
町をぶらりと散歩して、旅館に戻る。
小さな木の下で立ち止まる。
そこは高宿の裏庭。
リネはミリに提案した。
リネ「ミリ、魔術院に行ってみない?」
ミリ「魔術院ですか?」
リネ「そう!
ミリならきっと素晴らしい魔術師になる」
ミリ「そうですか?」
リネ「入るのに必要な推薦状は私が書くから。
今のあなたの実力なら十分通用する」
ミリ「そうですか…?」
リネ「ええ。魔術院に入ると、まず研修生として
魔術の基礎的な訓練、研究に励むことになる。
それから、正魔術師の試験を受けて合格して、
魔術師として本格的に活動をすることになる。
魔術の腕を磨いたり、新魔術を開発したり。
犯罪の捜査とか、魔獣を討伐することもある。
研究論文を書くだけが活動じゃないんだから」
ミリ「はい」
リネ「お給料もすごくいいと思うよ。
好きなだけおいしいものを食べたり、
遠くへ旅行したり、素敵な家に住んだり。
魔術院で活躍すれば、いい暮らしができる」
ミリ「はい」
リネ「どう?行きたくない?
行ってみたいでしょ?」
ミリ「えっと…」
リネ「どうしたの?遠慮してるの?
エミカのこと?それとも…」
ミリ「魔術院は…都にあるんですよね」
リネ「都にある。
才能豊かな魔術師たちがそこに集まる。
大陸中から。
とても刺激的な体験ができると思う。
それに、都暮らしもとても楽しいと思うよ」
ミリ「………」
リネ「ミリ、私はもったいないと思うんだ」
ミリ「もったいないですか?」
リネ「ミリくらい素質のある子なんていない。
今まで出会った大魔術師と比べても
あなたは全然負けてない」
ミリ「そうですか」
リネ「だから、もっといい環境にいてほしい。
もっともっとその力を高めてほしい。
優れた仲間たちと高め合ってほしい。
あなたには素質がある。
大魔術師になる素質が。
私には、はっきりそれが見えています」
ミリ「でも、私は…」
悲しげな顔でうつむくミリ。
リネ「…事件のこと?」
ミリ「………」
リネ「…学校で起こした事件が…気になるの?」
ミリ「はい。私は…」
リネ「大丈夫、大丈夫だから」
ミリ「………」
リネ「…大丈夫。私が…先生がなんとかする。
必要な手続を済ませれば名前は変えられる。
それに、あなたの顔や姿も魔術でいくらか…
あと、そうだ、なんと言っても都は遠いから。
遠いし、広い。ワノエと比べものにならない。
だから、あなたが誰か知ってる人なんて…」
ミリ「先生」
リネ「…何?」
ミリ「私、魔術院に行くよりも…
やりたいことがあります」
リネは少し困った表情を浮かべる。
ミリが何を言い出すか。
リネは薄々感じ取っていた。
リネ「…何?あなたのやりたいことって。
言ってみて」
ミリ「あの…昨日の朝、先生が言ってた…」
リネ「昨日の朝?なんの話?」
ミリ「魔力を受け継ぐ話です」
リネ「何?それがどうしたの?」
ミリ「私も…その…」
リネ「…何?何がしたいの?何を言いたいの?」
ミリ「私も、もしものときは、私も…その…」
リネ「え?何?え?よく分からないんだけど」
リネのとがめるような口調。
ミリは声を震わせながらも最後まで言った。
ミリ「私の身にも…もしものことがあったら、
受け継いでほしいんです。
エミカとリネさんに…私の魔力を…」
沈黙が訪れる。
弱い風が吹いて木の枝を揺らす。
リネ「何?今…なんて言ったの…?
よく聞こえない…。
なんか…よく聞こえなかった。…聞
こえなかったよ」
ミリ「私もリネさんの杖に魔力を…」
リネ「ふざけないでよ!!!」
ミリ「!!!」
リネは顔を赤くして言う。
リネ「ふざけたこと言わないで!!」
ミリ「リネさん」
その場から立ち去るリネ。
肩を怒らせ、拳を握りしめ、大股で歩く。
険しい顔でぐんぐん歩く。
そこにアルジが立っていた。
リネ「!!?アルジさん…!?」
アルジ「ああ」
2人は一瞬だけ目を合わせる。
リネは足早に去っていった。
アルジはミリの前に姿を現す。
アルジ「ミリ」
ミリ「アルジ…いたんだ」
◆◆ 現在 ◆◆
◆ ナクサ ◆
日が沈む。
アルジとエミカは池の周りを2周歩いた。
アルジ「腹が減ったな」
エミカ「さっき何を言おうとした?気になる」
アルジ「腹が減ったなって」
エミカ「うん…。そうだな。
どこかで食事にしよう」
アルジとエミカは公園を出る。
そして、町の中へ歩いていった。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 23
◇ HP 2277/2277
◇ 攻撃
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 素早さ
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力 5★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 19
◇ HP 1452/1452
◇ 攻撃 9★★★★★★★★★
◇ 防御
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 素早さ
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
39★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 20