第115話 西日
エミカの声が聞こえる。
エミカ「アルジ、起きろ」
アルジ「…うーん…」
アルジは体を起こす。
エミカが近くに立っている。
そこは広い部屋の中。
アルジは目をこする。
エミカ「もうすぐ出発だぞ」
アルジ「…出発?」
エミカ「今日はみんなでナキ村へ行く日だろ」
アルジ「ああ…。そうだっけ…?」
エミカ「案内するって言ってた」
アルジ「…そうだったな」
エミカは外へ出ていった。
アルジは立ち上がる。
着替えて出発の準備をする。
また1人。
部屋に入ってくる。
ミリ「アルジ!早くしなよ」
アルジ「ああ、今行くから…」
ミリ「私には早起きしろって言っといて、
自分が一番ゆっくり寝てるんだから。
もう船が出るよ」
アルジ「…船?」
ミリは駆けるように部屋から出ていった。
アルジ「よし!勇気の剣も持って…と!」
アルジは支度を終えて部屋を出る。
外にはエミカとリネが立っていた。
リネは不自然に遠く離れた場所にいる。
2人とも悲しげな顔。
ミリの姿が見えない。
アルジ「あれ…?ミリは?どこ行った?」
エミカ「ミリは一緒に行けなくなった」
アルジ「なんで?」
エミカ「………」
リネがアルジの方へ向かって歩いてくる。
リネ「ミリは…」
アルジ「ミリは?」
リネ「魔術院に行くことになった」
アルジ「ナキ村には行かないのか」
リネ「ミリは魔術院でいろいろやることがある。
だから、ナキ村は3人で行きましょう」
アルジ「…そっか」
エミカが空を指差す。
エミカ「来たみたいだ」
リネ「お迎えだね」
アルジ「お迎え…?」
アルジは空を見上げる。
黒い影。
こっちに向かってくる。
魔生体カルスだった。
大前隊が乗っている。
ガシマ、オンダク、エオクシの3人だった。
砂煙を起こしてカルスが着陸する。
ミリが突然物陰から姿を見せる。
ガシマが彼女の手を引き、カルスに乗せた。
ミリはアルジたちの方を振り向く。
そして、静かにほほえみかける。
アルジ「ミリ!!」
ミリ「………」
アルジ「そんなやつらと一緒に行くな!」
ミリ「………」
アルジ「ナキ村に行こうぜ!みんなで!」
ミリ「………」
アルジ「案内するから!
魔術院よりもきっと楽しいぜ!」
ミリは何も話さない。
ただアルジにほほえみかけていた。
エオクシがカルスから降りてくる。
剣を手にアルジの方へ向かってくる。
身構えるアルジ。
エオクシは立ち止まる。
剣の間合いに入ろうかという距離で。
エオクシ「おい!」
アルジ「な…なんだ!」
エオクシ「おめえ…
仲間を守れなかったんだってなぁ!」
アルジ「……!!」
エオクシ「無理していいとこ見せようとするからだ」
アルジ「ぐ…!そんなんじゃ…!!」
エオクシ「弱えくせに!」
アルジ「…くっ…!!」
ガシマがミリの頭に手を乗せる。
ミリはガシマの顔を見上げて嬉しそう。
そして、彼女はアルジに背を向けた。
アルジ「ミリ…!待ってくれ…!!」
アルジに剣の先を向けるエオクシ。
エオクシ「…おい」
アルジ「!!」
エオクシ「…魔術師と戦ったんだってな」
アルジ「なぜそのことを…!」
エオクシ「勝てると思ったのか?」
アルジ「オレは…やるしか…ないと思った」
エオクシ「その程度の力で…か」
アルジ「やるしか…やるしかないと思ったんだ!」
エオクシ「弱えくせに…」
アルジ「…!!」
エオクシ「弱えくせに…!」
アルジ「…やめろ!」
エオクシ「弱えくせに!!」
アルジ「うるせえ!!」
カルスの方からも声がする。
ガシマ「弱えくせに!!」
アルジ「…!!?」
オンダク「弱えくせに!!」
アルジ「…やめろっ!!」
アルジの目に涙が浮かぶ。
ガシマ&オンダク「弱えくせに!弱えくせに!!」
アルジ「やめてくれ…!!」
アルジはふとエミカの方を見る。
彼女の目にも涙。
歯を食いしばり、ふるふると体を震わせている。
アルジ「エミカ…!」
ガシマ&オンダク「弱えくせに!弱えくせに!」
アルジ「やめてくれ!!頼む!!言うな!!
もう!!言うな!!やめてくれ!!」
ガシマ&オンダク&エオクシ「弱えくせに!!
弱えくせに!!弱えくせに!!弱えくせに!!
弱えくせに!!」
やまない非難の声。
アルジはその場でひざまずき、うなだれた。
アルジ「…やめてくれ…もう…やめてくれ…!
頼むから…やめてくれ…!」
ガシマ&オンダク&エオクシ「弱えくせに!!
弱えくせに!!弱えくせに!!弱えくせに!!
弱えくせに!!弱えくせに!!」
アルジ「あー!!やめてくれー!!!」
目が覚める。
エミカが顔をのぞき込んでいた。
エミカ「アルジ」
アルジ「あ…夢…か…」
エミカ「大丈夫か?かなりうなされていたが…」
アルジ「…ああ。大丈夫…だ…」
アルジは体を起こして部屋の中を見回す。
そして、昨夜のことを思い出した。
アルジ(そうだ…昨日…オレは…
エミカと一緒に…)
彼女はもう布団から出ている。
魔術衣に着替え、床に座っていた。
アルジ「エミカ…昨日は…その…えっと…!」
エミカ「…!!」
エミカはそっぽを向いた。
アルジは部屋を見回す。
小さく開いた窓から日の光が差し込んでいる。
アルジ「もう…昼か…?」
エミカ「もうすぐ夕方だ」
アルジ「夕方…!?」
エミカ「ずっと起きなかったんだ。
声をかけても、体を揺すっても」
アルジ「………」
エミカ「もう起きないんじゃないかと思った」
アルジ「…そっか。悪かったな。それは」
エミカはほほえみ、小さく首を横に振る。
エミカ「目が覚めてよかった」
アルジ「………」
それから、部屋の出口へ歩いていく。
エミカ「外で待ってる。支度してきなよ」
アルジ「ああ…そうする」
エミカが部屋から出ていく。
戸の閉まる音が小さく響いた。
アルジはしばらく虚空を見つめた。
アルジ(ミリも…リネも…
昨日…死んだんだったな…)
立ち上がり、着替えて部屋を出る。
エミカが立って待っていた。
小さな声でアルジに言う。
エミカ「アルジのおかげでなんとか眠れた」
アルジ「…オレもよく眠れた」
エミカ「そうだろうな」
アルジ「夢を見たんだ。はっきり覚えてる」
エミカ「夢…?」
アルジ「ミリも、リネも生きてて…
それで、ナキ村へ行こうとしてた」
エミカ「そっか」
2人は並んで歩いていく。
女将がいる受付台へ。
アルジは鍵を返して宿泊代を支払おうとした。
女将が代金を告げる。
アルジはその金額に驚く。
アルジ「な!なんだその金額は!!」
普通の宿なら3泊できてもおかしくない。
そんな金額だった。
アルジの大声に女将は興奮して立ち上がる。
女将「あんた!!なんだとはなんだ!!
払うもんはちゃんと払わんかい!!」
アルジ「…く!!」
エミカがアルジの肩を叩く。
アルジは振り向く。
エミカ「この宿は時間制なんだ。
退室する時間を過ぎた分は
高めの延長料金が発生するらしい。
女将の計算は間違ってない。
…仕方ないよ」
アルジ「…く…払おう…!」
女将「ふん!さっさと出しな!!」
渋々金を払うアルジ。
手元に残った金は1回分の食事代にもならない。
わだかまりを抱えたままアルジは宿を出た。
出てすぐにアルジは言う。
アルジ「がっぽり取られたぜ」
エミカ「リネさんが遺してくれたお金もある」
アルジ「ああ…そっか…」
エミカ「でも、旅を続けるなら、
何か仕事をしなきゃいけないかも」
アルジ「…そうだよな」
エミカは遠くを指差す。
エミカ「あっちの公園に行かないか?」
アルジ「公園?」
エミカ「綺麗な公園があるんだ。
大きな池もあって、なかなかいい場所だった。
歩きながらこれからどうするか考えないか?」
アルジ「ああ。行ってみよう」
エミカ「うん」
公園に向かって歩くアルジたち。
整備された遊歩道と美しい池が見えてくる。
アルジ「この公園のこと知ってたのか?」
エミカ「朝ちょっと散歩した」
アルジ「そっか」
エミカ「アルジはぐっすり寝てたから。
起こさないでおこうと思った」
アルジ「叩き起こしてくれてもよかったんだぜ。
とんでもない夢を見てたんだから」
エミカ「今度はそうする」
アルジとエミカは歩きながら池を見る。
西日を受けて池の水面は輝いていた。
アルジ(夢か…。
そう言えば、あの日の朝もオレは夢を見た。
マサとトアが出てきて…。
目が覚めて、窓から外を見たら…
真剣な顔でエミカたちが話し合ってて…)
前方から話し声。
賑やかに語らいながら歩いてくる家族連れ。
すれ違うと、近くに人の姿は見えなくなる。
数人の人影が遠くに見えるだけ。
アルジとエミカを束の間の静けさが包む。
アルジ「エミカ」
エミカ「なんだ?」
アルジ「温泉に泊まった日の朝、
どんな話をしてたんだ?」
エミカ「温泉…。オケアの町か」
アルジ「ああ、そうだ。オケアの町。
朝、オレが起きる前に話し合ってただろ。
旅館の外で。リネとミリと3人で。
真剣な顔で…。魔術の話って聞いたけど」
エミカ「ああ、あれは…」
◆◆ 5日前 ◆◆
◆ オケア ◆
ヤマエノモグラモンを倒した次の日の朝。
心清の湯の温泉宿でアルジは目を覚ます。
外から声が聞こえてくる。
アルジ(リネの声か?)
そっと窓を開け、外を見る。
エミカ、リネ、ミリの3人が立っている。
小さな声でリネが話している。
リネ「…何があるか…分からないから」
エミカ&ミリ「………」
アルジは着替えて、宿の外へ出る。
アルジ「おはよう」
エミカ「あ…」
ミリ「おはよう」
リネ「おはよう、アルジさん」
エミカ「おはよう。起きたか」
アルジ「どうしたんだ?なんか…深刻な話か?」
エミカ&ミリ「………」
リネ「魔術の話です」
アルジ「魔術の話か」
リネ「はい。ヤマエノモグラモンのように…
この先、どんな強敵が現れてもおかしくない。
そんな話をしてました」
アルジ「マスタスとも…戦うしな」
リネ「…はい」
◆◆ 現在 ◆◆
◆ ナクサ ◆
アルジはエミカに問いかける。
アルジ「あのとき…
リネは魔術の話って言ってたけど、
あれって一体どんな話だったんだ?」
エミカ「………」
アルジ「言いづらいこと…か?」
エミカ「いや。アルジには言わなきゃと思う。
今だから、言わなきゃって思う」
アルジ「今だから…」
エミカは語り始めた。
あの日の朝、どんな話をしていたのか。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 23
◇ HP 2277/2277
◇ 攻撃
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 素早さ
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力 5★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 19
◇ HP 1452/1452
◇ 攻撃 9★★★★★★★★★
◇ 防御
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 素早さ
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
39★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 20