第113話 仲間
◆ テノハ ◆
昼を過ぎた頃。
アルジとエミカは茶屋を訪れる。
老年の店主が迎える。
店主「いらっしゃ…って、あんたらは…!」
アルジ「金を払わず出てしまった。
…すまなかった」
店主「いや…」
店主は金額をアルジに告げる。
アルジは金を出す。
受け取る店主。
ほかに客はいなかった。
店の中は静かだった。
店主「あんたら、随分疲れてるようだ」
アルジ「…分かるか」
店主「少し休んでいきなさい。
1杯、飲んでいくといい。
温かいお茶を出そう」
アルジ「…頼む」
エミカ「………」
店の奥の席にアルジたちは座った。
店主「それにしても…朝来たときと同じ人か?」
アルジ「は…?」
店主「あんたら…感じが変わった気がする。
顔を見れば、朝の客だと分かるんだが…」
アルジ「そうか…?」
店主「ああ」
アルジ「…そうか」
店主「ほかのお連れさんは?
あと2人…女の方が…」
アルジ「…別れた」
店主「…そうか。旅の別れ…か」
アルジ「…そんなところだ」
店主「寂しかろう」
アルジ&エミカ「………」
2人の目に涙が浮かぶ。
店主「いや、失礼した。聞いてしまって。
町の外から来る人はあまりいないものだから。
来るのは常連ばかりで。つい気になってな…」
アルジ&エミカ「………」
店主「…さあ…どうぞ」
アルジ「…ありがとう」
熱い茶が出される。
アルジとエミカは湯飲みに口をつけた。
それから、店主の話を聞いた。
彼の話はほとんどが昔話。
かつてテノハの町はどうだったのか。
いつこの店を開いたのか。
妻と出会い、死別したこと。
離れて暮らす娘たちのこと。
店主は語った。
アルジたちは茶を飲みながら黙って聞いた。
新たな客はない。
時間は穏やかに流れていた。
店主「ところで、あんたら…
昨日はカキタナ屋に泊まったのかい?」
アルジ「カキタナ屋…」
店主「ここからずっと歩いて行ったところの…
ちょっとおんぼろの古い宿だ」
アルジ「町の外れにある…」
店主「そうだ」
アルジ「ああ…泊まったぜ。
オレたちは昨日、そこに泊まった」
店主「そうか!」
アルジ「どうしたんだ?そこの宿が」
店主「なんでも…忘れ物があったらしい」
アルジ「忘れ物?」
店主「部屋の隅に…立派な衣装があったそうだ。
魔術師さんが着るような…」
アルジ「魔術師が着るような…」
店主「泊まっていったお客が今どこにいるのか。
若旦那があちこち聞いて探してるようだ。
忘れ物を届けたいんだろう。
その若旦那…うちの店にも来たもんでな。
もしかしたら…と思ったのさ」
アルジはエミカを見る。
エミカは小さく首を傾げた。
アルジ「…行ってみるか?」
エミカ「…うん。ごちそうさまでした」
アルジ「…いくらだ?」
店主「いいんだ。お代はいいから」
アルジ「…いいのか?」
店主「昔話を聞いてくれたお礼だ」
エミカ「…ありがとう」
店を出る。
町を歩く。
宿屋が見えてきた。
入っていくアルジとエミカ。
若旦那「いらっしゃい。あ…!!」
アルジ「忘れ物があったって聞いたんだけど…」
若旦那「ちょっと待っててくれ!」
若旦那は慌てた様子で奥へ消えていった。
しばらくして戻ってくる。
手には、1着の魔術衣。
若旦那「あなた方が泊まった部屋に…これが」
エミカ「え…?」
その服はアルジもエミカも見たことがない。
エミカ(綺麗だ…すごく綺麗に作られてる…。
少し見ただけで分かる…。
これは…魔術師のために作られた服…!)
若旦那「さあ…お返しします」
エミカ「え!?」
手渡される。
受け取り、戸惑うエミカ。
エミカ(すごい…!これ…すごい!!
触れてるだけで魔力が高まるのを感じる…!)
アルジ「着てみたらどうだ?」
エミカ「…ああ」
若旦那「お部屋を貸しましょう」
数分後、エミカは着替えて戻ってくる。
新しい魔術衣を着て。
エミカ「どうだ?」
アルジ「綺麗だ」
言ってからアルジは照れてうつむいた。
エミカも顔を赤らめる。
若旦那「お見事…。これは見事なお召し物だ」
興奮する若旦那。
エミカ「だけど…これ…」
アルジ「リネじゃないのか…?」
エミカ「…!」
アルジ「リネがこっそり遺していった…。
そういうことじゃないか?」
エミカ「リネ…さん…」
エミカは泣いた。
ポロポロと涙を流す。
その涙の1粒1粒が魔術衣を点々と濡らした。
若旦那「何かあったようですね」
アルジ「死んだんだ」
若旦那「…はい?」
アルジ「仲間がさっき…死んだ」
若旦那「それは…どういう…!」
アルジ「言葉のとおりだ。4人で旅してた。
でもそのうちの2人が死んだ。
敵と戦って、死んだ…」
若旦那「すまない…!余計なことを…」
アルジ「いいんだ。
オレたちは…受け入れることにした。
仲間は死んだ。もう戻ってこない。
それは悲しいことだけど…まだやることがある。
オレたちにはやることがあるんだ。
戦うべき敵がいる。取り返すべき宝がある。
だから…進む。進んでいこうと思う。
悲しむのは…ほどほどにして…」
エミカ「…アルジ…」
アルジ「エミカ。そうだよな。それでいいよな?」
エミカ「ああ。進もう。私たちは進んでいこう」
アルジ「おう」
エミカの顔に少し元気が戻る。
若旦那に礼を言って、宿を出る。
そして、そのまま歩いて町を出た。
エミカ「これから…どうする?」
アルジ「遠くまで行かないか?」
エミカ「遠く…どこへ…?」
アルジ「手がかりはない。
ラグアも…ロニも…
どこにいるのか分からない」
エミカ「ああ」
アルジ「それはつまり…
どこへ行ったっていいってことだ。
オレは…そう思う」
エミカ「………」
アルジ「遠くへ、とにかく遠くへ行ってみよう。
ここから離れて遠い場所へ。ナキ村じゃない。
ワノエでもない。北土の魔術研究所でもない。
どこでもない、遠い場所へ。
それが…今は一番いい気がする」
エミカ「面白い…」
アルジ「だろ」
エミカ「なら、走ろうか」
アルジ「いいぜ」
エミカ「ヘトヘトになるまで!」
アルジ「それ…いいな!」
エミカ「疲れたら…そこで休む。
…というのは?」
アルジ「ああ。そうしようぜ」
エミカはほほえむ。
そして、袋からラアムを出した。
取り出すとき、落ちる。
1枚の小さく折られた紙が。
エミカ「…?」
アルジ「なんだ…?」
エミカは拾い上げて、広げる。
彼女の目に飛び込んできたのはリネの字。
リネの字で、たった1行。
したためられていた。
リネの手紙「宿屋にとっておきの魔術衣、
『濃色魔術衣』を置いてきた」
エミカは涙を流しながら小さく笑った。
エミカ「もう…着ています…!」
アルジ「リネからの…手紙か」
ラアムを巨大化させる。
エミカ「さあ、これで走ろう」
アルジ(そっか。リネから譲り受けたのか。
そうだよな。さすがに普通に走らないよな)
アルジは笑う。
エミカ「どうした…?何かおかしいか?」
アルジ「いや…
これなら本当に遠くまで行けると思った」
エミカ「任せろ。私が前に乗る」
アルジ「疲れたらいつでも交替しろよ」
エミカ「大丈夫。どこまでも行ける」
アルジ「頼もしいぜ」
エミカ「…そんな気がしてる」
アルジ「オレもだ。オレもそんな気がする」
ラアムに乗る直前。
エミカは気になって袋の中をのぞき込む。
リネがくれた袋の中を。
エミカ「まだ何か…」
袋の中には、ナアムもいる。
薬もある。
リネが遺してくれた旅銭も。
そして、もう1枚。
もう1枚の紙が彼女の目に入る。
袋の底。
ひっそりとそれは入っていた。
「エミカへ」
紙に書かれたリネの文字。
それは、エミカに宛てられた手紙。
エミカ(私への…手紙?リネさん…。
何を書いてくれたんだろう…?
気になるけど…
今、これを読んでしまったら…)
アルジ「…どうした?」
エミカ「いや、なんでもない。行こう!」
アルジ「ああ」
アルジとエミカはラアムに乗った。
ラアムは歩き出す。
まだ行ったことのない新たな地へ向かって。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 23
◇ HP 2277/2277
◇ 攻撃
42★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★
◇ 防御
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
42★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★
◇ 魔力
29★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 19
◇ HP 1452/1452
◇ 攻撃 9★★★★★★★★★
◇ 防御
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 素早さ
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
39★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 20