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アルジ往戦記  作者: roak
112/300

第112話 律儀

◆ 魔学校マス ◆

近づく足音。

アルジとエミカはそれに気づかない。

アルジは叫び、エミカは泣く。

教室に走ってくるガシマとオンダク。


アルジ「うおおおおお…!!」

エミカ「…うう…ううっ…」

ガシマ「…!?」

オンダク「…!!」


彼らの目に飛び込んできたもの。

黒く焼け焦げた3人の死体。

剣を手に叫ぶアルジ。

床に座り込み、泣くエミカ。

そこで何があったのか。

ガシマたちは状況を把握できない。

教室の出入口付近で立ち止まる。


オンダク「これはどういうことだ…?」

アルジ「おおおおおお…!!」

エミカ「ううっ…う…!」

ガシマ&オンダク「………」

アルジ「…!!」

エミカ「…あ…」


アルジとエミカはようやく気づく。

ガシマとオンダクが立っていることに。

オンダクは歩き出す。

アルジたちの方へ。


アルジ(あいつは…大前隊の…オンダク…!)

オンダク(こいつは…エオクシにケンカを売った…

 恥知らずな、命知らずなやつだと思っていたが…

 まだ生きていたとはな…)

アルジ(後ろにいるのは…ガシマ…!

 こんなときに…何しに来やがった…!!)

オンダク「マスタスという魔術師はどこにいる?」

アルジ「…あれだ」


焼け焦げた死体を指差す。


オンダク「…死んだのか」

アルジ「ああ…。マスタスは…死んだよ」

オンダク「………」


沈黙。

ガシマはオンダクの後ろで見ていた。

アルジとエミカ。

2人の姿を。

深刻な顔で。

彼の額にじっとりと汗が浮かぶ。


アルジ「大前隊が…何しに来た…?」

オンダク「質問するのはお前じゃない」

アルジ「………」

オンダク「ここで一体何があった?」


アルジはエミカのそばへ行く。

彼女の手をとり、そっと引き上げる。

立ち上がるエミカ。


オンダク「おい、お前。オレの質問に答えろ」

アルジ「うるせえ」

オンダク「…なんだと?」


エミカの目から涙が止まらない。

彼女の赤くなった頬を見つめ、アルジは言う。


アルジ「行こう。ここにはもう…」

エミカ「うう…えう…うっ…うえっ…!!」


彼女は激しく首を横に振る。

その態度にアルジは困る。


アルジ「エミカ…」


アルジはガシマとオンダクを見る。

勇ましい顔つきで。


アルジ「今…お前たちと話すことはない。

 ここから…出ていってくれ…」

オンダク「愚かな…」

アルジ「………」

オンダク「ここは現場。紛れもない殺人現場。

 オレたちは大前隊。悪を討つ。それこそが使命。

 この場で、オレたちに出ていけとは愚の骨頂。

 貴様は自分が今、どういう立場にいるのか

 分かっていない。まるで分かっていない。

 ここから先は、己の言動に気をつけろ。

 さもないと…分かるな?」

アルジ「………」


オンダクのその言葉を聞き、エミカは言う。

ひどく震えた声で。


エミカ「…アルジ…やっぱり…行こう…。

 ここには…もう…」

アルジ「ああ…!」


2人は歩き出す。

ガシマとオンダクの方へ。

教室から出ようとする。


オンダク「止まれぇぇえええええええ!!」

アルジ&エミカ「………」


落雷のような大声が教室に響く。

どっしりと立ち塞がるオンダク。

腰を落とし、長い槍を構えた。

アルジもエミカもその場に立ち止まる。


オンダク「逃さん」

アルジ「そこをどけ」

オンダク「…もう1度言ってみろ」

アルジ「そこをどけって言ってんだ!!」

オンダク「死にたいようだな」


オンダクのその一言で、アルジも剣を構える。


アルジ「どっちだろうな?」

オンダク「…何?」


体勢を低くするアルジ。

光り出す勇気の剣。


アルジ「オレとお前…これから死ぬのは…

 一体どっちだろうな…!!」

オンダク「…!!!」


オンダクは目を見開く。


オンダク(こいつ…このオレと戦うつもりか…?

 オレに真っ向から挑んでくる者など…いつ以来だ…?

 …愚か者が。格の違いを見せてやろう!

 …だが!…なんだ?こいつの…この圧力は。

 こいつの…この圧力の正体は…一体なんだ?)


ガシマが動く。

オンダクの横に立つ。

アルジとエミカを見て言った。


ガシマ「…行っていい」

アルジ&エミカ「………」

ガシマ「…通れ」

アルジ&エミカ「………」

ガシマ「この事件の検分は…オレたちだけでやる」

オンダク「!!…ガシマ…!」


ガシマの言動に動揺を隠せないオンダク。

ガシマはオンダクに向かって言う。


ガシマ「あいつらが…手を下した可能性は低い…」

オンダク「…何?」

ガシマ「この状況から言って…」

オンダク「…ガシマ…何を言ってる…。

 ……!!?」


鬼気迫るガシマの表情。

オンダクは思わず口を閉ざす。


ガシマ「分かるだろう…!オンダク…!!」

オンダク「…!?」

ガシマ「お前にも…!今の…!この状況が…!」

オンダク「…!!!」


長い沈黙。

それから、ガシマとオンダクは道を開けた。

無言のまま、力ない所作で。


アルジ「…じゃあな。大前隊」

エミカ「………」


教室から出ていくアルジとエミカ。

2人が去ったあとの教室でガシマは言う。


ガシマ「…これでいい」

オンダク「………」

ガシマ「これで…よかったんだ」

オンダク「ガシマ…!!貴様…!!

 殺人事件の容疑者を…!!見逃して…!!

 これでいいとは…!!どういう了見だ…!!」


ガシマは言う。

悲しげな目をしながら。


ガシマ「オンダク、お前も分かっていただろ。

 当然…お前も分かっていたはずだ!」

オンダク「………」

ガシマ「分かっていたが、認めたくない。

 なぜか。当ててやる」

オンダク「………」

ガシマ「自分が大前隊であること、

 しかも、その中の三頭であること、

 当代最強と謳われる戦士の1人であること、

 その自負が邪魔するんだろう。

 この状況を認めることを…」

オンダク「………」

ガシマ「オレだってそうだ。認めたくなかった。

 だが、これは認めざるを得ない。

 ここへ来て、あいつらを見て、オレは思った。

 すぐに分かった。理性は拒否したが。

 本能は!オレの本能は!そのことを…!

 あっさり受け入れていた…!」

オンダク「………」

ガシマ「お前も…分かっていただろ…!!」

オンダク「…!!」

ガシマ「…勝てない」

オンダク「………」

ガシマ「オレたちじゃ…!あいつらに勝てない…!

 だから、ここであいつらと戦っちゃならない…!

 あいつらを通したのは…そういうことだ!!」

オンダク「…くっ…!」


ガシマは目を細めて眺める。

マスタスとリネの死体を。

折り重なって床に倒れた黒焦げの死体を。

それから、うわ言のように彼は言った。


ガシマ「いかなる処分も受けよう…。

 あいつらを逃したことが…明るみになったときは…。

 だがな、はっきり言っておく…。

 ここであいつらを見逃したことは…

 あいつらとの戦いを避けたことは…正しいことだ。

 オレはそう思う。強く…そう信じている」

オンダク「ガシマ…」


アルジとエミカは並んで歩く。

テノハの町を。


アルジ「…はは…」

エミカ「…どうした?」

アルジ「やっちまった」

エミカ「…?」

アルジ「オレは大前隊をどかした」

エミカ「ああ」

アルジ「オレは脅してどかした。大前隊の連中を」

エミカ「そうだな」

アルジ「そんなことをするやつは悪党じゃないか」

エミカ「悪党だな」

アルジ「これでオレたちはお尋ね者の仲間入りだ」

エミカ「仲間入りかもな」

アルジ「…ははは…」

エミカ「………」

アルジ「はははは…ははは…ははは」


偶然近くを通りかかった老夫。

笑っているアルジの顔を見る。

怪しんでそそくさと去っていく。


アルジ「エミカも笑おうぜ。悪党らしく」

エミカ「笑えない。今は」

アルジ「ははっ!!はははははははははははっ!」

エミカ「アルジ…」


近くにいた何人もの町民がちらりと見て不審がる。

アルジたちは歩いてそのまま町の外へ出た。

どこへ行くかも決めないまま。


エミカ「………」

アルジ「ああ…なんて気分だ…」


しんみりとアルジは言う。


アルジ「思ってなかった…」

エミカ「………」

アルジ「こんなことに…なるなんて…」


アルジは立ち止まり、うつむいた。

目から涙が止まらない。

ぽたりぽたりと地面に落ちた。

エミカも立ち止まる。

彼女の目からも涙がこぼれる。

そのまま一頻り泣く。

そのあと、アルジは声を上げた。


アルジ「あ…」

エミカ「…どうした?」

アルジ「思い出した」

エミカ「何を?」

アルジ「朝、店に行っただろ。4人でお茶を飲んだ店」

エミカ「あの店がどうした?」

アルジ「金を払ってなかったな」

エミカ「ああ…」

アルジ「な、払いにいこうぜ」

エミカ「…律儀な悪党だ」


2人は涙をふいて、町の中へ引き返す。

そして、店へ向かった。



◇◇ ステータス ◇◇

◇ アルジ ◇

◇ レベル 23

◇ HP   2277/2277

◇ 攻撃

 42★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★

◇ 防御

  40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

 42★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★

◇ 魔力

 29★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★

◇ 装備  勇気の剣、雅繊維戦衣がせんいせんい

◇ 技   円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り

◇ 魔術  雷動


◇ エミカ ◇

◇ レベル 19

◇ HP   1452/1452

◇ 攻撃  9★★★★★★★★★

◇ 防御  12★★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

 18★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 魔力

 35★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 装備  天界石の杖、深紅の魔道衣

◇ 魔術  火球、火砲、火樹、火海、王火

      氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷

      雷弾、雷砲、雷柱、王雷

      岩弾、岩砲、岩壁、王岩

      光玉、治療魔術、再生魔術


◇ 持ち物 ◇

◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 20


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