第112話 律儀
◆ 魔学校マス ◆
近づく足音。
アルジとエミカはそれに気づかない。
アルジは叫び、エミカは泣く。
教室に走ってくるガシマとオンダク。
アルジ「うおおおおお…!!」
エミカ「…うう…ううっ…」
ガシマ「…!?」
オンダク「…!!」
彼らの目に飛び込んできたもの。
黒く焼け焦げた3人の死体。
剣を手に叫ぶアルジ。
床に座り込み、泣くエミカ。
そこで何があったのか。
ガシマたちは状況を把握できない。
教室の出入口付近で立ち止まる。
オンダク「これはどういうことだ…?」
アルジ「おおおおおお…!!」
エミカ「ううっ…う…!」
ガシマ&オンダク「………」
アルジ「…!!」
エミカ「…あ…」
アルジとエミカはようやく気づく。
ガシマとオンダクが立っていることに。
オンダクは歩き出す。
アルジたちの方へ。
アルジ(あいつは…大前隊の…オンダク…!)
オンダク(こいつは…エオクシにケンカを売った…
恥知らずな、命知らずなやつだと思っていたが…
まだ生きていたとはな…)
アルジ(後ろにいるのは…ガシマ…!
こんなときに…何しに来やがった…!!)
オンダク「マスタスという魔術師はどこにいる?」
アルジ「…あれだ」
焼け焦げた死体を指差す。
オンダク「…死んだのか」
アルジ「ああ…。マスタスは…死んだよ」
オンダク「………」
沈黙。
ガシマはオンダクの後ろで見ていた。
アルジとエミカ。
2人の姿を。
深刻な顔で。
彼の額にじっとりと汗が浮かぶ。
アルジ「大前隊が…何しに来た…?」
オンダク「質問するのはお前じゃない」
アルジ「………」
オンダク「ここで一体何があった?」
アルジはエミカのそばへ行く。
彼女の手をとり、そっと引き上げる。
立ち上がるエミカ。
オンダク「おい、お前。オレの質問に答えろ」
アルジ「うるせえ」
オンダク「…なんだと?」
エミカの目から涙が止まらない。
彼女の赤くなった頬を見つめ、アルジは言う。
アルジ「行こう。ここにはもう…」
エミカ「うう…えう…うっ…うえっ…!!」
彼女は激しく首を横に振る。
その態度にアルジは困る。
アルジ「エミカ…」
アルジはガシマとオンダクを見る。
勇ましい顔つきで。
アルジ「今…お前たちと話すことはない。
ここから…出ていってくれ…」
オンダク「愚かな…」
アルジ「………」
オンダク「ここは現場。紛れもない殺人現場。
オレたちは大前隊。悪を討つ。それこそが使命。
この場で、オレたちに出ていけとは愚の骨頂。
貴様は自分が今、どういう立場にいるのか
分かっていない。まるで分かっていない。
ここから先は、己の言動に気をつけろ。
さもないと…分かるな?」
アルジ「………」
オンダクのその言葉を聞き、エミカは言う。
ひどく震えた声で。
エミカ「…アルジ…やっぱり…行こう…。
ここには…もう…」
アルジ「ああ…!」
2人は歩き出す。
ガシマとオンダクの方へ。
教室から出ようとする。
オンダク「止まれぇぇえええええええ!!」
アルジ&エミカ「………」
落雷のような大声が教室に響く。
どっしりと立ち塞がるオンダク。
腰を落とし、長い槍を構えた。
アルジもエミカもその場に立ち止まる。
オンダク「逃さん」
アルジ「そこをどけ」
オンダク「…もう1度言ってみろ」
アルジ「そこをどけって言ってんだ!!」
オンダク「死にたいようだな」
オンダクのその一言で、アルジも剣を構える。
アルジ「どっちだろうな?」
オンダク「…何?」
体勢を低くするアルジ。
光り出す勇気の剣。
アルジ「オレとお前…これから死ぬのは…
一体どっちだろうな…!!」
オンダク「…!!!」
オンダクは目を見開く。
オンダク(こいつ…このオレと戦うつもりか…?
オレに真っ向から挑んでくる者など…いつ以来だ…?
…愚か者が。格の違いを見せてやろう!
…だが!…なんだ?こいつの…この圧力は。
こいつの…この圧力の正体は…一体なんだ?)
ガシマが動く。
オンダクの横に立つ。
アルジとエミカを見て言った。
ガシマ「…行っていい」
アルジ&エミカ「………」
ガシマ「…通れ」
アルジ&エミカ「………」
ガシマ「この事件の検分は…オレたちだけでやる」
オンダク「!!…ガシマ…!」
ガシマの言動に動揺を隠せないオンダク。
ガシマはオンダクに向かって言う。
ガシマ「あいつらが…手を下した可能性は低い…」
オンダク「…何?」
ガシマ「この状況から言って…」
オンダク「…ガシマ…何を言ってる…。
……!!?」
鬼気迫るガシマの表情。
オンダクは思わず口を閉ざす。
ガシマ「分かるだろう…!オンダク…!!」
オンダク「…!?」
ガシマ「お前にも…!今の…!この状況が…!」
オンダク「…!!!」
長い沈黙。
それから、ガシマとオンダクは道を開けた。
無言のまま、力ない所作で。
アルジ「…じゃあな。大前隊」
エミカ「………」
教室から出ていくアルジとエミカ。
2人が去ったあとの教室でガシマは言う。
ガシマ「…これでいい」
オンダク「………」
ガシマ「これで…よかったんだ」
オンダク「ガシマ…!!貴様…!!
殺人事件の容疑者を…!!見逃して…!!
これでいいとは…!!どういう了見だ…!!」
ガシマは言う。
悲しげな目をしながら。
ガシマ「オンダク、お前も分かっていただろ。
当然…お前も分かっていたはずだ!」
オンダク「………」
ガシマ「分かっていたが、認めたくない。
なぜか。当ててやる」
オンダク「………」
ガシマ「自分が大前隊であること、
しかも、その中の三頭であること、
当代最強と謳われる戦士の1人であること、
その自負が邪魔するんだろう。
この状況を認めることを…」
オンダク「………」
ガシマ「オレだってそうだ。認めたくなかった。
だが、これは認めざるを得ない。
ここへ来て、あいつらを見て、オレは思った。
すぐに分かった。理性は拒否したが。
本能は!オレの本能は!そのことを…!
あっさり受け入れていた…!」
オンダク「………」
ガシマ「お前も…分かっていただろ…!!」
オンダク「…!!」
ガシマ「…勝てない」
オンダク「………」
ガシマ「オレたちじゃ…!あいつらに勝てない…!
だから、ここであいつらと戦っちゃならない…!
あいつらを通したのは…そういうことだ!!」
オンダク「…くっ…!」
ガシマは目を細めて眺める。
マスタスとリネの死体を。
折り重なって床に倒れた黒焦げの死体を。
それから、うわ言のように彼は言った。
ガシマ「いかなる処分も受けよう…。
あいつらを逃したことが…明るみになったときは…。
だがな、はっきり言っておく…。
ここであいつらを見逃したことは…
あいつらとの戦いを避けたことは…正しいことだ。
オレはそう思う。強く…そう信じている」
オンダク「ガシマ…」
アルジとエミカは並んで歩く。
テノハの町を。
アルジ「…はは…」
エミカ「…どうした?」
アルジ「やっちまった」
エミカ「…?」
アルジ「オレは大前隊をどかした」
エミカ「ああ」
アルジ「オレは脅してどかした。大前隊の連中を」
エミカ「そうだな」
アルジ「そんなことをするやつは悪党じゃないか」
エミカ「悪党だな」
アルジ「これでオレたちはお尋ね者の仲間入りだ」
エミカ「仲間入りかもな」
アルジ「…ははは…」
エミカ「………」
アルジ「はははは…ははは…ははは」
偶然近くを通りかかった老夫。
笑っているアルジの顔を見る。
怪しんでそそくさと去っていく。
アルジ「エミカも笑おうぜ。悪党らしく」
エミカ「笑えない。今は」
アルジ「ははっ!!はははははははははははっ!」
エミカ「アルジ…」
近くにいた何人もの町民がちらりと見て不審がる。
アルジたちは歩いてそのまま町の外へ出た。
どこへ行くかも決めないまま。
エミカ「………」
アルジ「ああ…なんて気分だ…」
しんみりとアルジは言う。
アルジ「思ってなかった…」
エミカ「………」
アルジ「こんなことに…なるなんて…」
アルジは立ち止まり、うつむいた。
目から涙が止まらない。
ぽたりぽたりと地面に落ちた。
エミカも立ち止まる。
彼女の目からも涙がこぼれる。
そのまま一頻り泣く。
そのあと、アルジは声を上げた。
アルジ「あ…」
エミカ「…どうした?」
アルジ「思い出した」
エミカ「何を?」
アルジ「朝、店に行っただろ。4人でお茶を飲んだ店」
エミカ「あの店がどうした?」
アルジ「金を払ってなかったな」
エミカ「ああ…」
アルジ「な、払いにいこうぜ」
エミカ「…律儀な悪党だ」
2人は涙をふいて、町の中へ引き返す。
そして、店へ向かった。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 23
◇ HP 2277/2277
◇ 攻撃
42★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★
◇ 防御
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
42★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★
◇ 魔力
29★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 19
◇ HP 1452/1452
◇ 攻撃 9★★★★★★★★★
◇ 防御 12★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
35★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、深紅の魔道衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 20