第111話 到着
リネは天界石の杖を握りしめる。
杖にはめこまれた石がキラリと光る。
それを見つめてリネは言う。
リネ「ミリ、ごめんね…」
◇ リネはミリの魔力を受け継いだ。
リネはマスタスを見る。
アルジの雷術に捕われた彼の姿を。
リネ(まだ…時間はある…!)
エミカ「先生!!」
呼びかけられてリネは振り返る。
そこにはミリのそばに立つエミカ。
リネ「先生じゃない。リネさんでしょ」
エミカ「リネさん…!ミリは…!もう…!」
リネ「…ええ。ミリはもう…ここにいない。
蘇生は…無理だから…。…分かるでしょ?
あなたもその姿を見たら、分かるでしょう」
エミカ「うう…!そんな…!
そんなことって…!!」
リネ「…エミカ」
エミカ「うう…」
リネ「…エミカ!!」
エミカ「…!!」
リネ「よく聞いて」
エミカ「………」
真剣な顔。
エミカは黙る。
リネはほほえむ。
リネ「あなたは…
あなたはね、最後まで旅を続けるの」
エミカ「最後まで…?」
リネ「アルジさんと一緒に」
エミカ「リネさんは?
リネさんも行きましょう!」
リネ「私もここでお別れ」
エミカ「どうして!!」
リネ「やっぱり私は責任を取らなきゃならない」
エミカ「責任ってなんですか!!」
リネ「いろんな…いろんな責任…。
変態魔術だけじゃない…暗黒獄焼術も…
あいつは…おそらく…」
エミカ「…え?なんですか?
どういうことですか!?」
リネ「あとで調べて、ゆっくり考えてよ。
きっと分かると思うから。あなたなら。
今まで…本当にありがとう…!」
エミカ「待ってください!!!」
リネ「待てない。もう時間がない。分かって…」
リネの頬を涙が伝う。
それを見てエミカは黙る。
リネはそっと差し出した。
天界石の杖を。
エミカは両手でそれを受け取る。
エミカ「…リネさん?」
リネ「その杖、あなたに上げる」
エミカ「これは…リネさんの…大切な…!」
リネ「私の魔力を受け継いで。
それで、あなたは旅を続けるの」
エミカ「受け継ぐって…私が…?そんな…!
そんなこと…!私が…!」
リネ「大丈夫。あなたなら、きっとできる」
エミカ「で…できません…!」
リネ「いいえ、できる。…これも上げる」
袋を差し出す。
エミカは受け取る。
薬とラアムとナアムの入った袋だった。
エミカ「先生…何を…!何をするんですか!!
待ってください!!行かないでください!!」
リネ「また会いましょう。機会があれば…」
エミカ「どういうことですか!!嫌です!!
先生には!!まだ教えてもらいたいことが!
たくさん…!たくさん!あるんですから!!」
リネ「大丈夫。あなたはもう大丈夫だから。
あなたも…ミリも…大好き。
あなたたち2人に出会えて本当によかった。
あなたたち2人が…私の弟子になってくれて…
あなたたちは…私の…最高の弟子だから…。
だから…だから…ね…」
涙声に変わる。
リネはエミカに背を向ける。
そして、アルジとマスタスの方を見る。
リネ「もう…時間はないみたいね…」
歩き出すリネ。
マスタスの方へ。
1歩、また1歩。
歩みを速めながら。
エミカ「先生!!」
リネは振り返らない。
リネ「エミカ!!アルジさんに伝えておいて!!
最後の最後で…魔術師リネは正気に戻ったと!
本当の心を取り戻したと!!」
エミカ「先生!!!!」
歩きながらリネは思う。
リネ(…アルジさん、ありがとう。
今まで本当にありがとう。
これで…お別れです。私たちは…これで…。
…さっきは…ごめんなさい。
ひどいことを言いました。
あなたにも出会えてよかった。
本当によかった。
あなたはいつも…誰かのために…
一生懸命で…)
すぐ近くでリネは見つめる。
五感を失っても戦おうとするアルジの姿を。
歯を食いしばり、肩を震わせるその姿を。
剣を振り上げ続ける彼の姿を。
視線を移して、見つめる。
恐怖に怯えるマスタスを。
アルジの雷術で動けないマスタスを。
それでも魔術を繰り出そうとする彼の姿を。
再びリネはアルジを見つめる。
マスタス「リネ…!!!おい!!」
リネ(アルジさん。…素晴らしい雷術です。
昨夜、あなたに魔術を教えてよかった。
ああして最後にエミカと話すこともできた。
あなたが私たちにくれた時間、感謝します。
あなたもきっと大丈夫。
もっと、もっと強くなる。
どこまで強くなってくれるのか。
見てみたい気持ちもあるけれど…。
私たちはここでお別れです。
エミカのことを…よろしくお願いします。
そして、宝子を…魔真体を…あなたの手で…
止めてやって…。エミカとともに…)
アルジの雷術は切れかけていた。
マスタスの体が自由に動くようになる。
その瞬間、リネがマスタスに背後から抱きついた。
マスタス「リネ!!おい!!
どういうつもりだ!!」
リネ「この距離なら…できないでしょ。
暗黒獄焼術…。使えないでしょ。
あなた自身も焼けちゃうもんね。
そもそもこの体勢だと精神操作も難しい。
暗球は、背後には飛ばせないものね」
マスタス「放せ!!放せぇぇぇええ!!!」
リネ「もう放さない…!」
マスタス「…何をする!!何をする気だ!!」
リネ「…分からない?」
マスタス「放せっ!!放せぇぇぇええ!!!」
マスタスは激しく体を揺らす。
それでもリネは離れない。
リネ「…分かってた。私は分かってた!!
生半可な魔術では…今のあなたは倒せない!
だからこうする!これしかないと思うから!!
これから私が何をするか…分かる?」
マスタス「…おい!ふざけるなよ!!」
2人の足元を分厚い岩の壁が覆う。
リネの岩術だった。
リネ「岩術を使えなくても分かるでしょう」
マスタス「リネ!!おい!!ふざけるな!!」
岩壁は2人の体を覆っていく。
腰の高さまで。
マスタス「おい!!!やめろっ!!!!」
リネ「やめない!!!」
岩は一気に2人の全身を覆う。
五感を失ったアルジは剣を振り上げ続けていた。
歯を食いしばり、うめきながら。
岩の塊の前で。
その岩の中。
真っ暗な狭い空間の中。
リネはマスタスを強く抱きしめる。
エミカ「先生…!!先生…!!」
エミカは歩いていく。
リネとマスタスを包んだ岩の塊の方へ。
ふらりふらりと頼りない足取りで。
エミカ「…もう…これは…だめだ…」
岩を前に力なく両膝を床につけた。
エミカ(なんて…堅そうな岩なんだろう…。
こんなの…もう誰も破れない…。
何をしても…割れるわけない…。
先生の…決意が…覚悟が…あの岩に…。
ああ…もう先生は…もう…先生は…)
エミカの目から涙。
たくさんの熱い涙。
暗闇の中、リネは思う。
リネ(一体、何を悔やんだらいいんだろう?
あなたに…蘇生魔術を見せたこと?
あなたに…創造の杖について話したこと?
それとも…複合魔術の研究をしたこと?
それとも…それとも…研究所で…初めて…
あなたに…この人に…声をかけたこと…?
よく…分からない。
でも…もう考えるのは終わり。
これですべてが…終わるから)
岩壁が小さくなっていく。
ギシギシと音を立てて、押し潰していく。
中にいるマスタスとリネの体を。
マスタス「ああ!!痛い!!痛いよ!!!
嫌だ!!嫌だ!!恐いよ!!助けて!!
恐いよ!!苦しいよ!!」
リネ「…静かに…して…」
意識が薄れる中、リネは言葉を発する。
突然、炎が上がる。
マスタスの全身から。
岩の中、彼の体は激しく燃える。
その炎はリネの体も焼いていく。
マスタスの火術。
その魔術は反射的なもの。
マスタスは抑えられなかった。
経験したことのない危機的状況の中。
魔力を高め、魔術を繰り出す。
その衝動を。
◇ マスタスに4827のダメージ。
(HP2553→0)
◇ マスタスは死んだ。
◇ リネに7271のダメージ。(HP1011→0)
◇ リネは死んだ。
◇ アルジたちは戦いに勝利した。
◇ アルジは雷動を習得した。
リネの死とともに岩が消える。
黒く焼け焦げた2人の体が残される。
アルジ「…ラァアア!!!」
アルジは剣を振り下ろす。
その刃はむなしく空を斬った。
アルジ「!!!?……はぁっ!!はぁっ!!!
はぁっ…!!はぁっ…!!はぁっ…!!!」
かけられていた闇魔術が解除される。
精神操作も。
五感鈍化も。
術者であるマスタスの死によって。
アルジの視覚が、聴覚が、すべての感覚が戻る。
アルジ「はぁっ…!!はぁっ…!!はぁっ…!!
……なんだ…!!何が…!!一体…何が!!」
目の前には、焼け焦げて床に横たわる2人の姿。
何が起きたのかアルジには分からない。
視線を移す。
見つける。
へたり込んでむせび泣くエミカの姿を。
アルジ「…エミカ!!」
エミカ「…アル…ジ…」
アルジ「…何が…あった…?」
エミカ「…し…死んだ…みんな…」
アルジ「…!」
エミカ「ミリも…リネさんも…みんな…
マスタスも…みんな死んだ…」
アルジ「…!!!」
そのとき、アルジは見た。
エミカの手に握られた天界石の杖。
それにはめ込まれた石が光るのを。
◇ エミカはリネの魔力を受け継いだ。
アルジ「そんな…!!ミリも…!!リネも…!!
うああ…!!うああああああ…!!!」
エミカ「う…うう…ううう!!」
アルジ「うあああああああああああ!!!」
叫ぶアルジ。
勇気の剣は一層強く光る。
◆ テノハ ◆
ガシマとオンダクが到着する。
魔学校マスの前に。
雨はすっかり上がっていた。
ガシマ「ここか。意外と早く着いたな」
オンダク「ああ。アヅミナの魔力のおかげだ」
ガシマ「さっき、中から叫び声が聞こえたが…」
オンダク「何かあったな…」
ガシマ「とにかく行くぜ」
オンダク「おう」
2人は勢いよく戸を開けて中へ入っていく。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 23
◇ HP 2277/2277
◇ 攻撃
44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 防御
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
41★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★
◇ 魔力
29★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 19
◇ HP 1452/1452
◇ 攻撃 9★★★★★★★★★
◇ 防御 12★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
35★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、深紅の魔道衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 20
◇◇ 敵ステータス ◇◇
◇ ガシマ ◇
◇ レベル 33
◇ HP 2178/2178
◇ 攻撃
36★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
27★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 素早さ
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 魔力 10★★★★★★★★★★
◇ 装備 練磨の大斧、金剛武道着
◇ 技 激旋回斬、大火炎車
◇ 魔術 火弾、火砲
◇ オンダク ◇
◇ レベル 35
◇ HP 2841/2841
◇ 攻撃
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 防御
39★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力 9★★★★★★★★★
◇ 装備 竜牙の長槍、超重装甲
◇ 技 竜牙貫通撃、岩撃槍
◇ 魔術 岩弾、岩壁