第109話 転倒
驚き、固まるリネ。
思いがけない出来事に彼女は混乱した。
リネ「…!!?」
アルジ(なんだ…?リネの様子がおかしい!)
エミカ(何か…さっきマスタスは何かした!
リネさんに…!見えなかったけど…)
マスタスは杖を懐にしまう。
マスタス「新魔術の名前は、
微細暗球型精神操作…」
リネ「精神操作…?闇の…魔術…?」
マスタス「そうだ。
だが、ただの精神操作とは一味違う」
リネ「微細…暗球型って…?」
リネははっきり思い出していた。
誕生日にマスタスと過ごしたことを。
豪華な料理を食べて歌を歌ったあの日のことを。
あまりに急に思い出したため、彼女は戸惑う。
リネ「どうして…?どうして…!?」
頭を抱え、うろたえる。
ミリが駆け寄る。
ミリ「リネさん!」
リネ「あ…ああ…うう…」
リネは顔を手で覆い、前屈みになる。
そして、首を激しく左右に振る。
マスタスは口を開く。
マスタス「リネ、そんなに取り乱さないでくれ。
解除したんだ。新魔術を。
それだけのことだから。
君にかけていた魔術をさっき解除したんだよ。
新魔術はうまくいった。自分でも驚くほど。
君にかけていた魔術は役目を終えたんだ。
これで論文は完成する。
新魔術を正式に発表できる。
素晴らしい成果を上げられた。ありがとう。
素晴らしい論文ができそうだ。
本当にありがとう。
君も祝ってくれるなら…」
アルジ「何をした!!!!」
静まり返る教室。
マスタス「………」
アルジ「リネに何をしたんだ!!お前!!!」
マスタス「………」
エミカ「精神操作…。闇の魔術で操っていた…。
リネさんの…心を…。多分…そういうこと…」
アルジ「…!!!」
マスタス「そうだ。あの日の夜…」
リネを見てマスタスは語る。
マスタス「君が眠ったあと、オレは使った。
試してみた。新魔術を。
小さな暗球を指先に生み出した。
本当に小さな、小さな暗球だ。
砂粒ほどの大きさだ。
それが、微細暗球型精神操作。
眠っている君にオレはその魔術を使った」
リネ「一体…私に…何をしたの…?」
マスタス「オレはそれを放った。
そっと、君の耳の穴へ」
リネ「…!!」
マスタス「そして、頭の奥深いところに置いた。
奥の、奥の、深いところに。
その暗球を潜り込ませた。
かなり時間がかかった。
でも、それはうまくいった。
君の無意識の領域。
そういう部分にその暗球を取りつけた。
成功した。取りつけることができたんだ」
アルジ&エミカ&ミリ「…!!?」
リネ「それ…で?それで…私に…何をさせたの…?
どんな…精神操作を…したっていうの…?」
マスタス「暗球に込めた命令は3つ。
創造の杖をオレに渡すこと。
あの日の誕生日の出来事を忘れること。
そして、最後の1つは…」
リネ「何?」
マスタスは静かにリネの目を見つめる。
微細暗球型精神操作を解除した彼女の目を。
マスタス(そうか。君はもう…)
小さなため息をつく。
マスタス「オレを愛しいと思い続けることだ」
リネ「…そんな気がしてた」
アルジは前へ出る。
アルジ「てめえ!!なんてことしやがる!!」
マスタス「………」
エミカ「お前は…!お前は…!!
人としてやってはならないことをした!!」
マスタス「………」
ミリ「最低だ!!最悪だ!!」
マスタス「………」
リネ「ねえ、マスタス…」
マスタス「………」
リネ「どうして…?
マスタス「………」
リネ「ねえ…どうして…こんなことしたの…?」
マスタス「………」
リネは涙を流しながら問いかけた。
マスタスはちらりと庭に目をやってから話す。
マスタス「分かってくれなくてもいい。
許してくれなくてもいい。
ただならない事情があったんだ」
リネ「なんなの?」
マスタス「候補者がいたんだ。オレのほかにも」
リネ「候補者って…?」
マスタス「大遊説に参加する者だ。
宝子とともに大遊説を行う者。
一族の中から選ばれるのは、たった1人。
オレのほかにも候補がいたんだよ。
宝子に付き添い、支える役。その候補が。
オレのほかに3人いたんだ」
リネ「………」
マスタス「オレはどうしても勝ちたかった。
ほかの候補者たちに。最後は勝てたわけだが。
ノイ評議会。族長を頂点とする特別な組織。
そこで選ばれなければならなかったんだ。
本当に厳しい競争だった」
リネ「………」
マスタス「ほかの3人もかなり強かった。
候補者として選ばれるくらいだから。
強いだけじゃない。とても賢かった。
博識で理知的で人間性も優れていた。
オレは負けるかもしれないと思った。
だが…オレはなんとしても…
そいつらを出し抜く必要があった。
大遊説にどうしても参加したかったんだ。
歴史の大転換の目撃者になれるわけだから。
観客席の最前列で。だからオレは…
ノイ評議会で正式に選ばれるため、
切り札を用意しなければならない。
ほかの候補者を出し抜くために。
そう思った。手元には、2枚の手札。
1枚は、オレが闇の魔術師であること。
もう1枚は、星の秘宝のことだ。
君から…創造の杖について聞いたこと。
この2枚の手札。
これらからとっておきの切り札を生み出せる。
その切り札でほかの候補者を出し抜ける。
オレはそう確信していた。
切り札を生み出す…
そのために必要だったのが新魔術…
微細暗球型精神操作だ。
その構想は以前からあった。
あとは開発と習得に向けて努力するだけ。
そこで、まずオレは秘術を習得しようとした。
新魔術に秘術習得はどうしても必要だった」
リネ「………」
マスタス「さまざまな人を訪ね歩いた。
そして、出会う。秘術使いの師匠に。
彼はほとんど表に出ない。変わり者だった。
山奥でひっそりと暮らしていた。
人嫌いで、最初はオレのことも拒絶した。
だが、微細暗球型精神操作の習得のために…」
リネ「…さい…」
マスタス「…?」
リネ「うるさい!!!!」
マスタス「…!」
リネは顔を真っ赤にして肩で息をしていた。
マスタス「リネ?」
リネ「聞きたくない!!そんな話!!」
マスタス「リネ…どうして…だって、君が…」
リネ「どうしてこんなことをしたの!!
どうしてこんなにひどいことができるの!!
マスタス「だから…大遊説で…」
リネ「大遊説なんかどうでもいい!!!
あなたは一体!!どんな気持ちで!!
こんなことをしたの!!?」
マスタス「気持ちか。そうだな…なんだろうな。
いろいろある。なんだろう。あえて言えば…」
リネ「嫌だ!!あなたの顔も見たくない!!」
マスタス「そんな…。リネ…落ち着いて。
落ち着いてくれよ。
オレの話を…最後まで聞いてくれ。
そうしたら…きっと分かるから…」
リネ「分からない!!分かりたくもない!!
永久に分からなくていい!!」
そして、リネは泣いた。
彼女の頬を伝い、ポロポロと涙が床に落ちる。
マスタス「リネ…」
リネ「ひどい!!ひどすぎる!!
あなたは…あなたは…!!」
マスタス「ごめんな」
リネ「嫌だ…。もう…嫌だ…」
泣き崩れそうなリネ。
ミリが寄り添い、支える。
ミリ「リネさん…」
微細暗球型精神操作。
秘術を組み合わせた闇の魔術。
小さな暗球を対象者の頭の中に設置する。
そして、対象者は術者の命令したとおりに動く。
精神操作されていると気づかずに。
自分の意志でそうしていると錯覚して。
その効果は時間と空間を超える。
17年。
リネの頭の中にその暗球はあり続けた。
彼女の行動を操り続けていた。
密かに、気づかれないように。
ミリ「リネさん…リネさん!」
ミリはリネの背中をなでる。
優しく、何度も。
リネは泣き続けた。
ミリの目にも涙が浮かび、こぼれた。
リネ「う…うううう…!!」
リネは歩き出す。
マスタスに向かって。
力強い足取りで。
リネ「許さない!!」
マスタス「リネ…」
リネ「私はあなたを許さない!!」
マスタス「許さない?それでどうする?
オレを…殺すのか?」
リネ「ええ…!!あなたのような人を!!
生かしておくわけにはいかない!!」
アルジ(リネ!!戦ってくれるのか!
そうだ!!オレたちが4人で戦えば…!
勝てる!!マスタスは確かに強い!!
だけど、オレたちが4人で力を合わせれば…!)
エミカ(まずい!!リネさんが…混乱してる!!
見えてない!周りが!こんな状態で戦っても!
どうする…!?ここは…逃げた方が…!
それで、作戦を立て直せば…!!冷静に…!
今度はみんなで…!!確実な作戦を…!!
リネさんも…最初から戦いに加わる形で!!
そうすれば…あいつにも…!!)
リネの魔波が強くなる。
アルジ&エミカ&ミリ「!!!!!」
マスタス(本気か…)
アルジも、エミカも、ミリも初めて触れた。
彼女のこれほどまでに怒りに満ちた魔波に。
叫びながらマスタスに近づいていくリネ。
彼女は完全に平常心を失っていた。
もはや何を叫んでいるのかも聞き取れない。
マスタスは大きく横に首を振る。
マスタス(この女にもう用はない…。
想像の杖は手に入れた。実験も終わった。
この辺で消しておくのがいいかもしれない。
心苦しいが、これも仕方ないことか…)
邪悪な暗球。
ぬっと浮かび上がる。
一瞬のうちに。
マスタスの左手に。
それを見抜いたのは1人だけ。
アルジ、エミカ、リネ、ミリ。
4人のうちミリだけ。
暗球が現れる。
その暗球で攻撃する。
リネを。
ミリ「だめだ!!!リネさん!!!」
リネ「…え!?」
ミリはリネを突き飛ばす。
床に転倒するリネ。
ミリはマスタスと向かい合う。
そして、彼女は杖を構えた。
アルジ「なっ!!」
エミカ「ミリ!!!?」
ミリは立ち向かった。
たった1人で。
つま先で床を一回蹴る。
そんな合図のことはもう彼女の頭にない。
最大限の冷気をその身にまとう。
ミリ(ここで私が倒してみせる!!
リネさんのために!!みんなのために!!)
マスタス(やる気か…)
マスタスとの戦いが始まった。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 23
◇ HP 2277/2277
◇ 攻撃
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 素早さ
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力 5★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ エミカ ◇
◇ レベル 19
◇ HP 1452/1452
◇ 攻撃 9★★★★★★★★★
◇ 防御 12★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
33★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔樹の杖、深紅の魔道衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
◇ ミリ ◇
◇ レベル 16
◇ HP 1008/1008
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御 7★★★★★★★
◇ 素早さ
17★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔石の杖、紺碧の魔道衣
◇ 魔術 氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
◇ リネ ◇
◇ レベル 27
◇ HP 1011/1011
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、創造の杖、聖星清衣
◇ 魔術 雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 20
◇◇ 敵ステータス ◇◇
◇ マスタス ◇
◇ レベル 38
◇ HP 2553
◇ 攻撃
11★★★★★★★★★★★
◇ 防御
39★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
38★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 秘力 7★★★★★★★
◇ 装備 極上魔獄杖、邪悪舞魔衣
◇ 魔術
火弾、火矢、火砲、火弦、火壁、火宴、王火
暗球、精神操作、五感鈍化、変態魔術
暗黒獄焼術
微細暗球型精神操作