第103話 逮捕
◆ 北土の魔術研究所 所長室 ◆
アヅミナは明かす。
裏行隊を壊滅させた魔術師の名前を。
アヅミナ「マスタス」
ホジタ「………」
アヅミナ「これがその魔術師の名前」
ホジタは目を見開き、頭を抱えた。
ホジタ「マスタス…!」
アヅミナ「………」
ホジタ「今確かに…マスタスと言ったな?」
アヅミナ「…ええ」
ホジタ「なんということだ…」
アヅミナ「………」
ホジタ「なぜだ…!なぜ、もっと早く…!」
アヅミナ「………」
ホジタ「名前を知っているのなら…もっと早く…
言ってほしかった!私に教えてほしかった…!
なぜだ…なぜ言ってくれないのだ!
私に…早く…!」
アヅミナ「………」
ホジタは床に視線を落とす。
そして、首を激しく左右に振る。
ホジタ「マスタス…ああ、マスタスが!
マスタス…!マスタス!マスタス!!」
アヅミナ「………」
前へ踏み出すホジタ。
秘書たちは脇に避ける。
アヅミナとホジタは向き合う。
闇の魔波がぶつかり合う。
ホジタ「よりによって…マスタスが…!
なんと罪深いことをしてくれたことか!」
アヅミナ「………」
ホジタ「…なんということだ。信じられん!
あいつがそんなことをするやつだったとは…」
アヅミナ「マスタスの居場所は?」
ホジタ「テノハという町にいる!
そんなに遠くない!
隣の町だ!
あいつは今そこで魔術学校を開いている」
アヅミナ「…本当?」
ホジタ「ああ、本当だ!断じて嘘ではない!
短い期間だが確かにマスタスという男はいた。
当研究所に在籍していた。
申し訳ない気持ちだ…。
政府のみなさんには迷惑をかけたようで…」
ガシマ「………」
アヅミナ「マスタスとはどういう関係?
…ただの知り合いってわけじゃないよね」
ホジタ「私は…彼の指導担当者だった」
アヅミナ「指導担当者?」
ホジタ「彼が入所した頃、私が彼を指導した。
彼が研究者として立派に成長できるように。
右も左も分からん新人研究員に教えるのだ。
何から始めて、どう進めていったらよいか。
魔術の研究法を初歩の初歩から教えるのだ。
課題も出すこともある。それが指導担当者。
あいつは…そんなふうには見えなかった…。
政府に逆らったり人を殺めたりする男には。
人付き合いが悪かったが、性根は真面目だ。
勤勉で同期入所の中でも屈指の実力だった。
あいつがそんなことをしたとは信じられん。
あいつが…!裏行隊を…!信じられん…!!
研究所長としても…指導担当者としても…
大変申し訳なく思う…」
アヅミナ「大遊説のことは?
知ってたんじゃないの?」
ホジタ「それは知らなかった。
今日初めて聞いた」
アヅミナと大前隊は話し合う。
ガシマ「どうだ?」
アヅミナ「マスタスの居場所は分かった」
オンダク「それだけでも収穫ありだな」
アヅミナ「でも、まだ何かある」
アヅミナは考える。
アヅミナ(まだ何かある。この男には何かある。
隠そうとしていても分かる。
表情、態度、身振り。
すべてに強い違和感)
ホジタは大声を上げる。
ホジタ「ああ!そうだ!」
アヅミナ「…?」
ホジタ「昨日のことだ」
アヅミナ「昨日?」
ホジタ「なんという偶然。なんという偶然だ!」
アヅミナ「昨日何があったの?」
ホジタ「訪問客だ。訪問客があったのだ。
この私に…」
アヅミナ「誰?」
ホジタ「かつての弟子だ。
研究所にいた魔術師だ」
アヅミナ「その人が何かしたの?」
ホジタ「マスタスに用事があると言っていた。
今どこにいるのか教えてほしいと」
アヅミナ「用件は?」
ホジタ「よく分からん。
だが、弟子たちと一緒に来ていて、
その中の1人が言っていた…」
アヅミナ「なんて?」
ホジタ「取り返すと」
アヅミナ「取り返す?」
ホジタ「安定の玉だ」
アヅミナ「安定の玉…」
ホジタ「なんでも…そいつの村の宝だそうだ。
それをマスタスに奪われたのだと…」
アヅミナ「村の宝…」
ホジタ「星の秘宝だと言っていた。
安定の玉も…星の秘宝の1つだと…。
なんのことか私にはよく分からなかったが」
アヅミナ「星の秘宝…」
ホジタ「さらにそいつは言っていた…。
安定の玉を…なんとしても奪いとると…」
アヅミナ「奪いとる…?」
ホジタ「マスタスを…殺してでも奪いとると!」
ガシマ「…なんだと?」
ホジタ「剣士らしい。強そうな男だった。
私には…あんたらと互角…
いや、それ以上に見えた」
オンダク「何…?」
ホジタ「あの発言は明らかに犯罪予告。
殺人予告だ。
大前隊の皆さん、早く捕まえてやってくれ!
…あいつらはもうテノハにいるはずだ!!
大前隊の皆さん、殺人事件を阻止してくれ!」
ガシマ「………」
アヅミナは考える。
アヅミナ(どうする…?
マスタスのところへ行く?
でも、ホジタにはまだ…まだ何か…)
ガシマ「アヅミナ」
アヅミナ「………」
アヅミナはガシマの顔を見る。
目が合う。
無言でガシマはうなずいた。
それから、彼はホジタを見て言った。
ガシマ「逮捕だ」
あっけにとられるホジタ。
ホジタ「…は?」
ガシマ「研究所長ホジタ。貴様を逮捕する。
ここで…」
ホジタ「なんだと!?なぜだ…!!」
ガシマ「まだ何か隠している。
貴様はそんな雰囲気だ」
ホジタ「おい!!ふざけるな!雰囲気だと!?
雰囲気で人を逮捕するんか!!貴様らは!!
許されん!!許されんぞ!!そんなことは!!
私は何も…!!」
ガシマ「黙れ!!!!!」
ホジタの脇にいた秘書が前へ出てくる。
逮捕を阻止しようと。
3人の秘書は魔波を高め、戦う準備をする。
だが、次の瞬間。
秘書たち「…!!」
突き刺さる。
3人の秘書、それぞれの腹部に。
ユイの剣が、シンモクの槍が、スゲチの剣が。
刺された3人は倒れ込む。
ユイ「遅い遅い」
シンモク「魔術師と戦うときの鉄則は…」
スゲチ「魔術を使う前に倒せ」
ホジタは後退りする。
壁の方へじりじりと。
詰め寄っていくアヅミナ、ガシマ、オンダク。
アヅミナ「観念して」
ホジタ「く…!」
ホジタは考える。
ホジタ(くそ…!!逮捕だと!?
ここで…逮捕だと!?
なぜ私が…!!なぜこの私が…!!
せっかくここまで…!
せっかくここまで築き上げてきたのに…!
せっかく…せっかく…ここまで…
この…この…研究所を!!
…いや!!私の…私のこの城を…!!
せっかくここまで…
築き上げてきたというのに…!!
こんなことで…!!!
こんなことで失うのか…!!
こんなくだらんことで!!
失わなければならないのか…!!)
アヅミナ「あなたはあたしたちに逮捕されて…
それから、すべてを打ち明けることになる。
審理院の調査は…生半可なものではない…。
どんなことをされるかは想像できるでしょ」
ホジタ(精神操作か!!
精神操作を使った調査か!!
だとしたら…何もかも…明るみに…!
私の…計画…考えが…思いが…!
抗えない…!!
精神操作を使われてしまえば…!
抗えない…!!)
オンダク「さあ、来い!!」
ホジタの背中が壁につく。
もはや逃げ場はない。
ホジタ(使うか!?ここで!!ここで使うか!?
あれを!!ここで使うか!?今ここで!!
使うか!?…八射銅鑼暗黒演舞を!!
ここで使うか!!!?)
八射銅鑼暗黒演舞は、闇の上級魔術。
精神操作と五感鈍化を組み合わせたもの。
長年の研究を経て、ホジタが開発した。
その魔術は、円盤状の暗球を飛ばす。
最大8個まで同時に飛ばすことができる。
その暗球に触れた者は強制的に熟睡する。
熟睡させたのちに氷術で凍死させる。
それがホジタの得意戦法。
その戦法で彼は何人もの好敵手を消してきた。
それにより彼は所長の地位にまで上り詰めた。
アヅミナ「!!」
ホジタの体を濃い魔波が覆う。
暗球が今まさに飛び出そうというとき。
ホジタ「う…!!」
彼の頭部を暗球が包む。
アヅミナの精神操作だった。
ホジタは脱力し、倒れ込む。
部屋の中は静まり返る。
アヅミナ「無理だよ…」
ガシマ&オンダク&ユイ&スゲチ&シンモク
「………」
アヅミナ「速さであたしと勝負しようなんて…」
それから、アヅミナは縄で縛り上げる。
ホジタの体を厳重に。
その縄は、魔封縄。
縛った者の魔力を奪う特殊な縄。
アヅミナ「このままカルスで連れていこう」
ガシマ「ああ。秘書も…」
オンダク「全員逮捕だな」
腹部を刺され、倒れている3人。
全員意識を失っていた。
シンモク「これじゃ都まで持たないか。
…回復させてやる」
シンモクの治療魔術。
柔らかな光が秘書たちの体を包む。
傷が少しずつ治っていく。
シンモク「死なない程度にな!」
ユイとスゲチが手際よく3人を縛り上げた。
ホジタと同じように魔封縄で。
ガシマ「オレとオンダクはテノハへ行こう」
アヅミナ「………」
オンダク「心配いらない。
オレたちにも魔力はある。
ホジタは間違いなく重要人物だ。
速やかに運べ。
これは、お前の大事な任務だ」
アヅミナ「だけど…」
ガシマ「マスタスとやらはオレたちが倒す」
アヅミナ「………」
ガシマ「マスタスも
ホジタが言ってた剣士とやらも
まとめて逮捕できたらいいが…
本気で戦うことになれば、
生かしたまま捕まえるのは
厳しいかもしれねえな!」
アヅミナ「マスタスの魔術には気をつけて」
ガシマ「心配するな。オレとオンダクは三頭。
やられるなんてことはまずねえ」
アヅミナ「………」
オンダク「どんな魔術を使う?」
アヅミナ「闇の魔術。凶悪な闇の魔術…。
黒い高熱の球が高速で放たれて広がる。
それに当たった者は、焼け焦げて死ぬ。
それはただの火傷なんてものではない。
体の細胞が、組織が、黒く固まって死ぬ。
一瞬で。強い闇の魔力で。私にも分からない。
あんな魔術をどうやって習得したのか」
ガシマ&オンダク「………」
アヅミナ「あの日、あたしともう1人いた。
駆けつけたときには、もう遅かった…。
隊員たちが無残な姿に変えられていった」
オンダク「戦ったことがあるんだな?
マスタスってやつと…」
アヅミナ「1度だけ。そのときは逃げられた」
ガシマ「アヅミナ。お前はやはり…」
アヅミナ「あたしは裏行隊の隊員だった」
オンダク「お前以外は?全員やられたのか?」
アヅミナは首を横に振る。
アヅミナ「もう1人いる。
生き残っている元隊員が」
ガシマ「誰だ?」
アヅミナ「大前隊にいる」
オンダク「大前隊…」
アヅミナ「彼は裏行隊にいたときは二隊員。
隊が解散してから、彼は一隊に上がった」
ガシマ「一隊の隊員…」
アヅミナ「隊員で生き残ったのは2人だけ。
彼とあたしだけが生き残った」
オンダク「彼っていうのは…」
ガシマ「…エオクシか」
アヅミナ「うん。あの日、あたしたちは決めた。
大遊説の3人を倒すと。でも…」
オンダク「どうした?」
アヅミナ「3人の活動はパタリとやんだ。
行方もまるで分からなくなった。
残された手がかりは、彼らが着ていた魔術衣。
最近、大陸各地で起きている怪物の出現も
3人が再び動き出す兆候のような気がして」
ガシマ「ヤマエノモグラモン…。
作られた魔獣…か」
アヅミナ「ええ。
この研究所の黒い噂は聞いていた。
魔術で魔獣を作る実験を成功させたとか」
スゲチ「魔獣を作るだと?
そんな魔術があるのか」
アヅミナ「あるらしい」
ユイ&スゲチ&シンモク「………」
アヅミナ「前からこの研究所は怪しいと思ってた。
だけど、ホジタはなかなか口を割らなくて。
今日は本当にありがとう。とても助けられた」
ガシマ「大したことねえよ」
オンダク「任務はまだ終わってないぞ」
アヅミナ「ええ。今度は逃さない…」
アヅミナは懐から黒い物体を取り出す。
黒く、小さな四足獣の形をした物体を。
アヅミナ「ガシマさん、オンダクさん。
テノハまではこれで行くといいよ」
ガシマ「それは…」
アヅミナ「クウライっていう魔生体。
操作は簡単だから、すぐに慣れると思う」
魔生体を渡す。
手のひらにおさまるその黒い物体。
魔力を込めることで巨大化する。
黒く、細長い胴体と脚を持つ。
陸上を4本の足で駆ける。
アヅミナ「あたしの魔力を込めておいた。
少しの魔力でもかなり速く動けると思う。
隣町までなら走ってくれるでしょ」
ガシマ「助かるぜ」
アヅミナ「乗り心地は…
あんまりよくないかもしれないけど」
オンダク「そんなの気にするか」
そして、アヅミナたちは研究所をあとにした。
縛り上げたホジタと秘書たちを引きながら。
行き交う研究者たちから多くの視線を浴びて。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ ガシマ ◇
◇ レベル 33
◇ HP 2178/2178
◇ 攻撃
36★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
27★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 素早さ
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 魔力 10★★★★★★★★★★
◇ 装備 練磨の大斧、金剛武道着
◇ 技 激旋回斬、大火炎車
◇ 魔術 火弾、火砲
◇ オンダク ◇
◇ レベル 35
◇ HP 2841/2841
◇ 攻撃
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 防御
39★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力 9★★★★★★★★★
◇ 装備 竜牙の長槍、超重装甲
◇ 技 竜牙貫通撃、岩撃槍
◇ 魔術 岩弾、岩壁
◇ ユイ ◇
◇ レベル 33
◇ HP 1711/1711
◇ 攻撃
31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★
◇ 防御
24★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 素早さ
29★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 魔力
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 煌石剣、連花戦闘衣
◇ 技 千刺連撃、炎舞剣
◇ 魔術 火弾、火砲、火柱
◇ スゲチ ◇
◇ レベル 31
◇ HP 1933/1933
◇ 攻撃
31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★
◇ 防御
33★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
25★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 魔力
17★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 聖鋼の槍、白鋼の鎧
◇ 技 輝乱気嵐撃、嵐身乱心撃
◇ 魔術 氷弾、氷柱
雷弾、雷砲
◇ シンモク ◇
◇ レベル 34
◇ HP 1693/1693
◇ 攻撃
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
32★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
20★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔波集攻剣、魔布戦闘着
◇ 技 火炎剣、雷断剣、炎雷剣
◇ 魔術 火弾、火球
雷弾、雷砲、雷刃
光球、治療魔術
◇ アヅミナ ◇
◇ レベル 35
◇ HP 404/404
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 2★★
◇ 素早さ
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 装備 大法力の魔杖、漆黒の術衣
◇ 魔術
火弾、火矢、火球、火砲、火羅、火嵐、王火
氷弾、氷矢、氷球、氷刃、氷柱、氷舞、王氷
暗球、精神操作、五感鈍化、魔病感染、
酷死魔術