第102話 懇願
◆ 魔学校マス ◆
マスタスはリネに聞かせる。
彼が研究所を去った経緯について。
マスタス「旅行を終えて研究所に戻ったあと、
オレは1度、故郷へ帰ることにした。
破壊の矛。1本しかない古代の遺物。
それがなぜ2本あるのか。故郷で調べた。
故郷っていうのはノイ地方にあって、
オレは…」
リネ「ノイ民…でしょ?」
マスタス「………」
リネ「所長から聞いた」
マスタス「なら、話は早い」
アルジは剣を握りしめる。
エミカとミリは警戒し続ける。
マスタス「族長から聞かされたよ。いろいろと」
リネ「族長?」
マスタス「ノイ民の指導者だ」
リネ「ノイ府の人?」
マスタス「いや、そうじゃない。
政府とは関係ない」
リネ「なんなの?」
マスタス「ほかに指導者がいるんだ。
ノイ民には。
誰がふさわしいか。
ノイ民が集まって独自に決める。
政府とは関係ない。
だけど、強い権力を持っている。
オレは魔力に優れていたから
目をかけてもらっていた。
族長から、特別に。子どもの頃からだ」
リネ「…そうなんだ」
マスタス「ああ。族長はオレに教えてくれた。
もうそろそろ教えてもいいだろうと言って。
わざわざオレをお屋敷に呼んで。
1つ1つ丁寧に。
それで、ノイ民がかつて建てた古代王国の話、
星の秘宝のこと、魔真体のこと、
オレは聞かされた。
そして、古代王国が滅ぼされたことも。
国家が滅び、文字が失われた。
だが、伝えられていたんだ。
人から人へ。世代から世代へ。
物語は伝えられていたんだ。
最初は本当のことだと思えなかった。
信じ難かった。
だが、破壊の矛の魔力は物語っていた。
言葉よりも、強く。力がある。
力がここにある、と。
その矛が持っている魔力が
オレに訴えかけてきたんだ。
村に大切に保管されたその矛に触れて、
オレは確信した。族長の話は本当だと。
そして、聞かされる。ある計画について。
ノイ民復興のための秘密の計画を。
古代王国再興までの筋書きを。
忌まわしき過去。
王国を滅ぼされ荒涼とした地に追われた過去。
ノイ民の国家を再興する筋書き。
族長の口から、直々に。
あの日、オレは聞かされた」
リネ「それが魔真体を復活させること…?」
マスタス「そうだ!魔真体の復活。
3つの秘宝を集め、魔真体を呼び覚ます。
簡単に言えば、そういう筋書きだ。
だが、それだけじゃない」
マスタスは立ち上がる。
校庭にちらりと目をやってからリネの方を向く。
マスタス「あのとき君は言った」
リネ「…え?」
マスタス「都へ旅をしたとき。
博物館へ行ったとき。
破壊の矛にオレが目を奪われているときだ。
君は言った。それをオレは今でも覚えている。
はっきりと。そう、はっきりと覚えてる」
リネ「なんか…言ったっけ?」
マスタス「星の秘宝のこと」
リネ「………」
マスタス「創造の杖のこと。
あのとき君は言ったんだ。
遠くを見るような目でオレに教えてくれた。
オレはそのことを覚えていたんだ。ずっと。
旅行を終えてからも…ずっと。
覚えていないか?」
リネ「………」
マスタス「君は言った。
家に昔から伝わる宝があると。
破壊の矛を見ながら。
矛に似た秘宝が家にもあると。
創造の杖。
なあ、今もそいつを持っているんだろ?」
リネ「………」
マスタス「くれよ。オレに」
リネ「え…?あ……」
アルジ(…なぜ分かった?
創造の杖を持ってると…?
まぁいい…。リネ!!
そんなバカな要求は断れ…!)
エミカ(創造の杖…
あれが…マスタスの手に渡ったら…!)
ミリ(リネさん…何か…様子がおかしい…。
どうしたの?リネさん…)
リネはおもむろに立ち上がる。
ふらつきながら。
倒れそうになりながら。
どうにか彼女は立ち上がる。
ゆらゆらと左右に揺れながら歩く。
そして、マスタスの前まで行く。
差し出した。
肌身離さず大切に持ち歩いていた、その秘宝を。
創造の杖をマスタスに渡した。
アルジ「バカヤロウ!!!!!!!!!」
リネ「…え…?」
マスタスは杖を受け取るなり窓の外へ投げた。
庭の方へ飛んでいく創造の杖。
上空を飛んでいた猛禽類が急降下。
それをくわえる。
そして、遠くへ飛び去っていった。
マスタス「………」
リネ「…?」
アルジもエミカもミリも呆然としている。
リネも理解できていない様子。
自分が何をしたのか。
彼女は慌てて振り返り、叫ぶように言う。
リネ「待って!!」
アルジ「……!」
リネ「これには…これには事情があるから!
待ってちょうだい!」
アルジ「なんで渡した!!!
大事なものだって分かってただろ!
なんで…!なんであんなことをした!!
リネ!!」
リネ「ごめんなさい…!ごめんなさい…!
許して!許して!!」
リネは懇願した。
床に崩れ、頬にはいくつも涙の粒。
静かに笑いながらその様子を眺めるマスタス。
アルジは教室に入っていく。
エミカとミリも彼に続く。
アルジ「てめえ!!どこへやった!!
創造の杖を…!どこにやった!!!」
マスタス「………」
リネはアルジにすがりつく。
リネ「だめ!お願い…!アルジさん!
ごめんなさい!
さっきのは…謝るから!!謝るから!!
だから…アルジさん!!待って…!
もう少し…待って!」
アルジ「…リネ…!なんだ…!なんだんだ!
一体…何が…どうなって…!!」
エミカとミリはひどく困惑した顔。
エミカ(一体…何があった!?)
ミリ(リネさん…どうしてあんなことを…!)
エミカ(もしや…精神操作か!?
闇の魔術…精神操作のせいなのか!?
だけど…!!)
ミリ(魔術は使ったように見えなかった…。
ずっと気をつけてあいつの魔波を見てた…。
魔術は使ってない!)
エミカ(どうして?…どうして?リネさん…!)
マスタスは静かに笑う。
アルジたちを見て、楽しんでいるかのように。
アルジ「安定の玉も…!どこにやった!
答えろ!!」
マスタス「………」
マスタスは椅子に腰掛ける。
魔波を強めながら。
マスタス「まだ…話は終わってない」
アルジ「なんだと?」
マスタス「オレの話はまだ終わってない。
聞いてくれよ」
アルジ「うるせえ!!」
マスタスは肩をすくめ、大きなため息をついた。
エミカが前へ出る。
アルジの横に立つ。
マスタスを見て、彼女は言う。
エミカ「聞こうじゃないか」
アルジ「エミカ」
エミカ「最後まで聞いてやろう」
アルジ「………」
エミカ「別にそれからでもいいだろ。
あいつを倒すのは」
アルジ「そうだな…」
マスタス「随分と威勢がいいんだな」
マスタスの魔波はさらに強くなる。
アルジたちはある感覚を覚える。
それは、胸の奥を押されるような感覚。
重みのある魔波によって。
それは、ホジタのものと似ていた。
リネ「だめ…戦うなんて…だめ…
彼と…戦っては…だめ…」
ミリはリネの元へ。
しゃがみこみ、彼女の背中をなでる。
ミリ「リネさん…」
リネ「だめ…戦っては…だめ…。だめだから…」
リネの声はもはや届かない。
アルジにもエミカにも。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 23
◇ HP 2277/2277
◇ 攻撃
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 素早さ
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力 5★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ エミカ ◇
◇ レベル 19
◇ HP 1452/1452
◇ 攻撃 9★★★★★★★★★
◇ 防御 12★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
33★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔樹の杖、深紅の魔道衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
◇ ミリ ◇
◇ レベル 16
◇ HP 1008/1008
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御 7★★★★★★★
◇ 素早さ
17★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔石の杖、紺碧の魔道衣
◇ 魔術 氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
◇ リネ ◇
◇ レベル 27
◇ HP 1011/1011
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、創造の杖、聖星清衣
◇ 魔術 雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 20