第100話 遺物
リネは言った。
後ろを振り返り、アルジたちに向かって。
はっきりと大きな声で。
リネ「外してくれる?」
アルジ&エミカ&ミリ「…!」
さっきエミカとミリは感知した。
マスタスの魔波を。
そして、彼女たちは確かに見た。
闇の魔力が暗球となって彼の左手に現れるのを。
しかし、同時にリネもまた感知した。
エミカとミリの魔波を。
警戒心により発せられた攻撃的な魔波を。
それは、心の揺らぎとともに自然と出たもの。
抑えさえようとして抑えられるものではない。
リネ「ねえ、ここから出ていってよ」
アルジ「リネ…」
リネ「ここから先は…私たちの話は…
個人的な話になりそうだから…」
エミカ「そんな…」
リネ「ねえ、私の言うことを聞いて」
ミリ「私たちは…」
リネ「聞いてよ」
ぱんと強く手を叩く音。
マスタスだった。
マスタス「いたいのなら、いてくれて構わない」
アルジ「………」
リネは目を丸くする。
マスタスはほほえんでいる。
マスタス「確かに個人的な話ではある。
でも、君たちに聞かれても別に嫌じゃない。
君たちも聞いて損をすることはないと思う」
リネ「…マスタス」
マスタス「さあ、こっちに来て座ってくれ」
マスタスは空いている席に座るよう促す。
普段は学生たちが座るその席に。
しかし、アルジたちは動かない。
アルジ「…ここでいい」
マスタス「そうか」
リネは1人歩いていく。
教壇の方へ。
そして、そっと椅子に腰掛けた。
彼女が選んだのは、左端の席。
その席は、マスタスに最も近い席。
マスタスとリネは向き合う。
マスタス「話を始めよう」
穏やかな声で言った。
柔らかな表情で。
そんな彼の態度にアルジは違和感を覚える。
アルジ(なんなんだ?
さっきから、あいつの余裕は。
オレたちはただの見学者じゃない。
分かっているはず。
オレたちから向けられている敵意も…
分かっているはず!
あいつは1人でこっちは4人。
リネを除いても3人だ!!
しかも、エミカもミリも並の使い手じゃない。
あいつも魔術師。当然分かっているはずだ…!
このままここで戦うのは明らかに不利だって!
なのに、なんであんなに落ち着いてるんだ!?
一体どうしてなんだ?…闇の魔術か?
闇の魔術に何か理由があるのか!?
あんなふうに冷静でいられる理由が。
闇の魔術には覆す力がある…
どんなに不利な状況も…
リネがそう言っていたように…!)
マスタスは話し始める。
マスタス「あれは、都に行ったときのことだ」
◆ 北土の魔術研究所 所長室 ◆
彼らは、所長室の中央に集まる。
椅子はあるが、誰も座らない。
ホジタもアヅミナも。
大前隊の隊員もホジタの秘書も。
立ったまま向かい合う。
最初に口を開いたのは、ホジタ。
ホジタ「聞かせてもらおうか」
アヅミナ「………」
ホジタ「話とはなんだね?
聞いてもらいたい話があると君は言ったね」
アヅミナ「………」
ホジタ「さあ、早く言いたまえ。
聞こうじゃないか」
アヅミナ「その前に1つ…」
ホジタ「なんだ?」
アヅミナ「問きたいことがある。
この問いはすぐに答えなくてもいいから」
ホジタ「なんだね?言ってみなさい」
アヅミナ「破壊の矛について」
ホジタ「………」
アヅミナ「破壊の矛をどこに隠した?」
部屋の中は静まり返る。
質問の意味が分からない大前隊の5人。
ガシマ(アヅミナ…一体何を言っている?
各地に現れる化け物の正体。
この研究所の仕業ではないのか。
それについて問いただす。
これが今回の任務のはず…)
オンダク(なぜ急にそんなことを?
破壊の矛とは古代の遺物…。
イゴウセ博物館に展示してあるだろう…)
怪しむ隊員たち。
アヅミナはそんな彼らに構わず話す。
アヅミナ「あとで答えてくれたらいい」
ホジタ「………」
アヅミナ「私が話したいことは、
その問いにつながる」
ホジタ(この娘も…知ってるようだな…)
アヅミナとホジタ。
両者の魔力がぶつかり合う。
アヅミナ「それは約2年前のこと」
彼女は話し始めた。
今まで表になってこなかった事実を。
◆ 魔学校マス ◆
マスタスは語る。
マスタス「あれは、都に行ったときのこと」
リネ「都…」
マスタス「オレたちが都へ行ったときのことだ。
魔生体の試作品に乗って出かけたときのこと」
リネ「懐かしい」
マスタス「魔術院、劇場、市場。
オレたちはいろいろ行ったね」
リネ「そうだったね」
マスタス「いい思い出だ」
リネ「私も。楽しかった」
マスタス「覚えてるか?」
リネ「何を?」
マスタス「博物館にも行った」
リネ「博物館」
マスタス「ああ、オレたちは博物館にも行った」
リネ「そうだったね。博物館の名前は…」
マスタス「イゴウセ博物館」
リネ「それだ」
マスタス「都で最大の博物館。
いろんなものが展示されてる。
1日で全部を見て回るのはほぼ不可能。
そんな博物館だ」
リネ「確か、旅行の最後の日に行った。
私たちはその日のうちに都を出る予定だった」
マスタス「そうだ。
だから、オレたちは急いで見て回った。
なるべくたくさんの展示品が見たい。
それが君の望みでオレはそれに賛成した」
リネ「忙しかったけどあれはあれで楽しかった」
マスタス「そうだな。挑戦だった。
本当に愉快な挑戦だった」
リネ「結局、全部は見て回れなかったけどね」
マスタス「ああ、そうだ。あれのせいで」
リネ「あれって…なんだっけ?」
マスタス「覚えてない?」
リネ「………」
マスタス「あのとき、君はオレを責めた」
リネ「そうだっけ…」
マスタス「ああ、責めたんだ。
なんであんなに立ち止まったのかと」
リネ「立ち止まった…」
マスタス「ああ、オレは立ち止まったんだ。
1点1点じっくり見る時間なんてない。
分かっていながら、オレは立ち止まった。
ある展示品の前で。
立ち止まらずにはいられなかった」
リネ「そんなこと、あったっけ…」
マスタス「ああ、あった」
リネ「…なんだっけ。
言われてみると、そんなことがあったような」
マスタス「思い出せる?1文字目は、『ほ』」
リネ「ほ?」
マスタス「2文字目は、『こ』」
リネ「え?ほこ…?ああ、そうだ。矛…!」
マスタス「そうだよ。矛だ」
リネ「破壊の矛」
マスタス「そうだ。破壊の矛」
リネ「…忘れてた。今まで」
マスタス「無理もない。
だって18年も前のことなんだから」
アルジは少し前のめりになった。
アルジ(破壊の矛…安定の玉と同じ星の秘宝。
都の博物館にあったのか…。
あいつは一体何を話すつもりなんだ…?)
マスタス「あのとき、オレは疑問に思った。
君は早く次の展示室に行こうと急かした」
リネ「そうだった気がする」
マスタス「強い疑問を抱いていた。
あのときのオレは。あの場であの矛を見て」
リネ「どんな疑問を抱いてたの?」
マスタス「それこそが契機だったんだ」
リネ「契機?」
マスタス「オレが研究所を去る契機だ」
リネ「どんな疑問を抱いていたの?」」
マスタスは悲しげな顔で沈黙する。
それから、ゆっくり口を開ける。
マスタス「その疑問は単純なものだ。
単純でとても不可解なものだった。
この矛はこの世に1本しかない古代の遺物。
展示室の解説文には、そう記されていた。
それを読んで、オレは思った。単純な疑問」
マスタスは首を左右に振ってから言う。
マスタス「なぜあれとまったく同じものが
オレの生まれた町にもあるんだろう?と」
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 23
◇ HP 2277/2277
◇ 攻撃
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 素早さ
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力 5★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ エミカ ◇
◇ レベル 19
◇ HP 1452/1452
◇ 攻撃 9★★★★★★★★★
◇ 防御 12★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
33★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔樹の杖、深紅の魔道衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
◇ ミリ ◇
◇ レベル 16
◇ HP 1008/1008
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御 7★★★★★★★
◇ 素早さ
17★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔石の杖、紺碧の魔道衣
◇ 魔術 氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
◇ リネ ◇
◇ レベル 27
◇ HP 1011/1011
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、創造の杖、聖星清衣
◇ 魔術 雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 20