第七話
茜の携帯を解約するのを忘れていたのに気づいたのは、ひな祭りが過ぎた頃だった。解約していいかどうか、茜に訊いてみないとな。何故かそんな事を思った後、その必要はないのだと気づいて、改めて悲しさが押し寄せた。
ふと茜がしていたというインスタグラムを見てみたくなって、聡司は多少の後ろめたさを感じながら電源を入れた。パスワードは知っている。お互いに隠し事は無しにしようと約束したのは、結婚式の前か後か。結局互いの携帯を見ることもなく時は過ぎた。信頼がどうとか、そんなことを言っている余裕などなかった。
インスタにアップされていたのは、白い彼岸花の写真一枚きりだった。フォロワーの表示が何人かと、看護師仲間からと思われるコメントが数件あった。写真を褒めているコメントばかりと思われたが、その中に一件おかしな内容のものがあることに聡司は気付いた。
『あなたの罪を知っている』
投稿者の名前は、はじめて見るものだった。
「何だこれは」
彼岸花の花言葉なのかと思ったが、それは違った。そして、この一枚で茜はインスタを止めている。もう一度コメントを眺め、投稿された日付を見て聡司は愕然とした。九月三十日。確か十月に入った途端、茜の心は急に不安定になった。このコメントと関係があるのか。
早くなる鼓動を感じながら、聡司はスマホをタップした。ラインもショートメッセージもほとんど消されており、茜が亡くなった後に届いた広告ばかりが目についた。
検索履歴を追い、インスタのフォロワーからも繋がりを辿る。時刻はいつの間にか深夜になっていた。
フォロワーのフォロワーを巡り、いい加減空しくなってきた頃、聡司は一つのインスタグラムに辿り着いた。写真の内容に見覚えがある。茜と一緒に行った事のあるレストラン。ベランダに咲くペチュニアに多肉植物。新婚旅行で見た海外の風景。決め手は新居に飾られたタペストリーだった。聡司の母親からプレゼントされた「さをり織り」。間違いない、これは茜のインスタグラムだ。
コメント欄を探し、先程と全く同じコメントを見付けた。コメントの日付は昨年の五月五日。忘れもしない、茜が流産した日だ。そして、その日を最後に茜はこのインスタグラムを止めてしまっている。
「何なんだ、いったい」
たった二件のコメント、それが茜を追い詰め、死に追いやったというのか。聡司はスマホを放り出し、頭を抱えた。




