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第六話

 職場で新留香織と話をする事が多くなった。他の職員と一緒にだがランチに誘われる事も増え、スミレの弁当は残業用の夕飯に回るようになった。どうしても当日中にこなさなければいけない仕事があるわけではない。罪悪感に苛まれながらも、聡司は遅くまでパソコンに向かった。


 スミレから職場に電話があったのは、クリスマスも近い十二月のある日だった。

「今泉さん、アカさんが!」

 スミレは半狂乱だった。話をしても全く要領を得ない。とにかく家に戻るからと電話を切った聡司は、急いで仕事を引きつぎ、車で家に向かった。途中で、サイレンを鳴らしていない救急車とすれ違った。

 マンションの入口にパトカーが停まっていた。自宅のある階でエレベーターを降りて廊下の角を曲がった途端、開け放たれた玄関の扉と、その前に立つ警官の姿が目に入った。身分証明書の提示を求められ、ようやく部屋に入れた聡司が見たのは、放心したように床に座り込んでいるスミレと、その前で手帳を広げる警官の姿だった。

「ご主人ですか」

 警官にそう問われ、聡司は頷いた。

「妻に何かあったんでしょうか」

 尋ねた聡司を気の毒そうに見た後、警官は聡司を寝室へと誘導した。

 頭までシーツを掛けられた人型があった。警官の了解を得てシーツを捲った聡司は、変わり果てた妻の姿を見て声も出せずにその場に座り込んだ。

「さっき検死が終わったところです。お手伝いさんが救急車を呼ばれたのですが、残念ながら既に亡くなった後でした。自殺と思われます。ご愁傷さまです」

 警官の言葉が、意味をなさない呪文のように通り過ぎて行った。

 茜が、死んだ。


 葬式から四十九日まで、慌ただしく時間は流れて行った。節分を過ぎた頃になって、ようやく一息ついた聡司は、台所にいる小柄な後ろ姿に目をやった。

 ショックで頭が働かない聡司に代わって、スミレは実務のすべてを担ってくれた。葬儀会社とのやりとり、役所関係の手続き、親戚への連絡、食事や返礼品の手配まで。

「母の時に経験済みですから。それに私も忙しい方がいいので」

 そう言って悲し気な笑顔を見せるスミレに、聡司は精神的にも大いに助けられた。

「桐谷さん」

 呼びかけた聡司を振り向き、スミレは「はい」と返事をしてタオルで手を拭った。

「お茶でも入れましょうか」

 言われて、少々小腹が空いたのに気づき、聡司はお供えに貰ったクッキーの箱を取り出した。

 良い匂いのする紅茶とクッキーを仏壇に供え、スミレはりんを鳴らした。そのまま座り込んでいるスミレに声を掛け、二人分の紅茶を入れてもらった聡司は、向かいに座ったスミレに頭を下げた。

「桐谷さん、本当にありがとう。君が居なければ、僕は何一つ出来なかった。感謝してる」

「いえ、そんな。勿体ないです」

 そう言って畏まるスミレに向かって、聡司は再び頭を下げた。

「勝手なお願いだけれど、もうしばらく来てもらえるかな。春になれば、僕も自立できると思うから」

 男の一人暮らしに家政婦は贅沢だ。それに、このままスミレに来てもらうことは何となく茜に申し訳ないような気がした。

「はい」

 小さくそう言って、スミレは頭を下げた。

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