最終話
「綺麗ですね」
一面に咲く彼岸花を眺め、スミレはそう言った。
墓参りの帰り道、河川敷を埋め尽くすように咲く真っ赤な彼岸花。聡司はふと既視感を覚え、足を止めた。
スミレは先日、安田薬局長の紹介で近くの調剤薬局に就職が決まった。黒いフォーマルのワンピースを着たスミレは去年より少し大人びて見え、隣で微笑んでいた妻はもう居ない。乗り越えなくてはいけない。忘れることは無くとも、優しい記憶として思い出すことが出来るように、残された者は強くならなくては。
「桐谷さん」
呼びかけた聡司を見上げ、スミレは「はい」と言って首を傾げた。
「君から見て、僕はおじさんかな」
「まさか。とんでもない」
勢いよく否定するスミレを見て、聡司は少し笑った。
「何故そんな事を?」
不思議そうに尋ねるスミレの視線を受けて、聡司は頭を掻いた。やはり、からめ手は不得手だ。向いていない。
「正直に言うよ。ある男から、きみの好みを訊いて欲しいと言われた。好きな食べ物とか、男性のタイプとか」
「誰ですか?」
「名前は言えないけど君の知ってる人だ。好きな花なら分かるが花束には向かないと言っておいた」
聡司は早口で言った後、また小さく笑った。
「とても良い奴なんだ」
スミレはふと、恥ずかし気に目を伏せた。
「そんな、私なんか」
微かに頬を染めるスミレを見ながら、聡司は心の中で茜に語り掛けた。
心配ないよ。僕らの妹は、きっと幸せになる。
赤い海が風に揺らめく。
「あ、白い彼岸花を見付けました」
スミレが指をさす。
「アカさんに見せてあげよう」
スマートフォンを取り出したスミレは、可憐に咲く純白の花を写真に納めた。
終わり




