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第十四話

 十二月、もうすぐクリスマスというある日、すみれは置いて行かれた。アカさんは一人で逝ってしまった。救急車を呼び、助けてくださいと泣き叫ぶ菫に、救急隊員は手遅れだと言った。「すでに亡くなっています」と。


 僭越せんえつなのは承知しながら、菫は仏事の手伝いを申し出た。何かしていなければ、頭がおかしくなりそうだった。手順は母の時で憶えたので様々なことを卒なくこなすことが出来て、今泉には感謝された。四十九日が終わり、それから暫くして、菫は今泉家をした。


 夕暮れの公園。滑り台の階段を菫は登っていた。勢いよく滑り降り、また階段を上る。そうしていれば、またアカさんが呼びかけてくれるのではないか。そんな気がした。

 インスタグラムにメッセージを送ったのは誰なのだろう。菫はSNSには、あまり強くない。以前のアカウントのものは時々見ていたが、メッセージまで見ることはなかったため、菫は全く知らなかった。アカさんを追い詰めた犯人を見付けたい、そう思ってはみても、そこから辿ることは出来なかった。

 メッセージの内容が薬の事なのであれば、アカさんが瓶をポケットに入れたのを知っていることになる。あの時もう一人誰かがいたのだろうか。いや、近くに居たのは菫だけだ。では、いったい誰が。思考は堂々巡りを繰り返した。

 アカさん、どこにいるの。早く迎えに来て。会いたい。会いたいよ。

 願いはあざけるように却下され、菫は際限さいげんなく風を切った。空気は冷たく、空には微かに白いものが舞っていた。

 あの時……。幾度となく繰り返した疑問が再び思考を支配する。ふと菫は顔を上げ、滑り台から立ち上がった。

『アカさん、どこですか』

 そんな声が脳裏のうりによみがえった。そうだ。あの時、誰かがアカさんを呼んだ。薬品庫を出た時、菫はその人を見ている筈だ。誰だっただろう。そしてもう一つ、大切なことを忘れている気がする。何だろう。どうして思い出せないんだろう。部分的に記憶が欠落けつらくしているようだった。浮かんで来るのは断片的な場景だけで、前後のつながりが無い。連続して物事を思い出せない。何故、どうして?

 再び滑り台の端に座り込んで、菫はポケットのファスナーを開けた。アカさんから取り上げた黒い瓶は、呪いのアイテムのように思えた。ゲームのようにリセットしてしまえたらいいのに。ふと、そんな風に思った。すべてを消し去ってしまいたい。もしそれが叶うなら。もう一度やり直せるなら。そしたら……。


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