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1週間が経ちました

 

 翌日の2限目、約束通りヴァンくんは私を迎えに来てくれた。

 迷いなく歩いてくるので、どこに私が居るのかわかっているようだ。

 これも、守護獣とその主人の契約による能力なのかな?


「あなたたちが召喚契約を終えてから1週間が経ちました。そろそろ仲も多少良くなってきたことでしょう」


 召喚術の先生が講義を始めた。


 だけど、教室のみんなはどうも私の隣に居るヴァンくんが気になるようで、すごく視線を感じる。

 講義中だというのにひそひそと何かを話す声も聞こえてくる。

 私とヴァンくんのことを話しているのではないか、と思うのは自意識過剰かしら。などと考えていると、ヴァンくんが私の頭をこつんと小突いた。

 集中しろ、という事だ。


 けれど、それを見たまわりが更に騒がしくなる。


「【魔王】が優しい……」

「小突く程度で済ませるなんて……」


 とうとう、講義をしていた先生が手を叩いて注意した。


「まったく、皆さんどうにも集中できないようですね。いいでしょう、折角ですからミーコ=フォーサイス、こちらへ」


 手招きされて、私は先生のいる教壇にあがった。


「守護獣と契約したその主人とには繋がりがあります。どこへいても守護獣は主人のいる場所を把握しており、実習では危険なので試しませんが、高位の守護獣になると怪我をしたり、危険状態になった事を察知する能力も有しています。守護獣との仲が深まると、最初は召喚するために魔法陣を使用していたのが、略式ですんだり、特定の呪文を紡ぐだけで現れたりすることが可能になります」


 ああ、それで小さい頃、私がヴァンくん遊びに来ないかなって思うといつもタイミングよく現れたのか。

 嬉しくて気にしてなかったけれど、あれは私がヴァンくんを勝手に呼び寄せていたのね。


 だとしたらかなりいい迷惑だったろうな……。


 申し訳ないと思いつつヴァンくんを見ると遠目でも鼻で笑われたのがわかった。


「では、ミーコ=フォーサイス。皆の例として試してみて下さい。略式でも構いませんし、まだ難しいとは思いますが自信があるのなら呪文だけで挑戦してみてもいいですよ」

「わかりました」


 私は頷いて、自分の右手をほんの少しだけ、軽く上げた。

 初めて意識して心の中でお願いするから、ちょっとドキドキする。

 

 ヴァンくん、お~い~で。


 瞬間、ヴァンくんが教室の隅の席から私の隣に現れた。

 ただでさえ注目されているのに、まわりに見せつけるようにひざまずくと、握っていた私の手の甲にキスを落とす。


 どこからか悲鳴があがった。

 私も必死に悲鳴がでそうになるのを押し込めた。


 そそそ、そこまでやって欲しいなんて思ってないっ!!


 皆がざわつく中、召喚術の先生までもが興奮していた。


「驚きました、ミーコ=フォーサイス。一言も発さずにどうやって呼んだのですか? そんなことができるなんて普通あり得ません……」

「は、はは。彼の才能のおかげじゃないですかね、たぶん……」


 興味津々というように身を乗り出す先生の攻撃をかわすため、適当な事を言った。

 けれど、先生はそれで納得したようだった。


「なるほど。さすがはレヴァン=マーティンですね。確かに彼は稀に見る天賦の才の持ち主……そのくらいできるのも不思議ではありません」


 わあい、だいたいヴァンくんのおかげって言っておけばなんとなかなりそう。


 本当は、昔からこうやって呼びつけては遊んでいたなんて知ったらどうなることやら。

 うまく誤魔化せたことだし、これ以上何か聞かれないうちにさっさと席に戻ろうっと。


「それでは皆さんもそれぞれやってみて下さい。守護獣はその場で待機させて、少し離れたところからやってみて。段階を踏んでみてどこまでできるか挑戦してみてください」


 あちこちで呪文や、略式の陣を使う魔法が放たれる。

 私とヴァンくんには、特に練習が必要なさそうだし、何より皆ヴァンくんに近づくのを恐れて距離をとるので隅の方で大人しく座っていることにする。


「どうして呪文なのかしら?」


 ふと疑問に思って声に出すと、ヴァンくんが胡乱な目でこちらを見た。


「名前を呼んで、こっちへ来てってお願いするのじゃだめなの?」

「守護獣に名前はあるのか?」

「えっ……あっ、そうだわ。守護獣に名前を与えるのは……」

「そう、禁足事項になっている。だから呼ぶにしても種族名称だ。あとはこうして一度に大勢に教える制度をとるうちに、呪文という形に統一されたんだろう」


 なるほど、だからちょっと弱いんだ。

 呪文を唱えて練習している人をみると、失敗が多い。たぶん守護獣がその呪文を「呼ばれている」と認識して覚えるまでに時間がかかるのだろう。



 授業が終わると、ヴァンくんはすぐに生徒会室に戻っていった。

 また仕事をするのだろう。講義なんて受けなくとも問題はないのだろうが、働き続けているのは問題だと思う。私は次の講義はおやすみだ。手伝いに行っても良いが、それよりもやりたいことがある。


 そのために職員室に行くと、担任を呼んだ。


「今トレンドのフォーサイスじゃないか。どうした?」


 トレンドの使い方間違ってると思う。

 だけど、そんなことを指摘していては話が進まなくなるのでスルー。


「生徒会のことについてなんですけど。仕事を手伝ってくれるような人っていませんか?」

「生徒会? どうして……ああ、マーティン関係か? 何故だ? 特に支障が出ているような様子はないみたいだが……」

「先生はレヴァン=マーティンがたった1人で実務をこなしているのをご存知ですか?」


 私がそう言うと、先生は驚いた顔をした。


「えっ?? 1人で??」

「はい。いくら彼が人並み外れた能力を持っているとしても、こなせる量には限界があります。だから、手伝いを頼みたいんです」

「そんな。生徒会には5、6人居たはずだが……いつから、そんな……。ちょっと待て、調べてみるから」


 調べた結果、生徒会には最初、ヴァンくんを含め6名が所属していた。

 いずれも所属のまま、辞めたことにはなっていない。


 先生はそのまま原因も探ってくれた。

 学校に棲みついている噂好きの精霊を呼べばすぐにわかる。

 この精霊は自由にしていい代わりにこうして協力をするという契約を交わしているらしい。



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