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マジで、守護獣みたい


「それでは実際に守護獣とコミュニケーションをとってみましょう。いろんなことを試して、その子が好きなものや得意な事を知ってあげることが大切ですよ」


 ぽん、と先生が手をたたいて合図すると、まわりの生徒は各々の守護獣とボール遊びをしたり、どの花が好きか並べてみたりと動き出した。

 横に座るレヴァン=マーティンはと言えば、マイペースに本を読んでいる。


 どうしよう、話しかけたら邪魔にならないかしら。

 

 召喚してしまったことはどうやら怒っていないらしいが、一体全体何を考えているのかさっぱりだ。

 人間だからコミュニケーションがとりやすい筈だと言うのに、会話らしい会話さえろくに出来ていない。


 私が諦めてレヴァン=マーティンから目を逸らし、自分も読書して時間を潰そうかと思って鞄を漁っていると、ひやりと冷えた空気が漂ってきた。


 この冷たさは不機嫌になりはじめたかと思い慌てて様子を見ると、冷気はピタリととまる。

 気のせいだったかと思い見るのをやめると冷気がまた一筋チクリと肌を刺してくる。


 これは、もしかして?


 ……と思ったが、私はすぐに考え直した。

 レヴァン=マーティンが構って欲しそうにしているような気がする、だなんてまさかそんな。

 あり得ないでしょ。


 しかし目を逸らしていると徐々に冷気が増すので、私は仕方なくレヴァン=マーティンの読書姿を眺めた。


 本、好きなのかな。なんの本を読んでいるんだろう。

 タイトルの金文字は小さい上に少し掠れている。よく見ようと本の方に顔を近づけると、その本がぱたんと閉じられた。


「あ……」


 まずい。

 話しかけてはいないけれど、これ、邪魔したことになっちゃうかも。

 凍らされてしまわないかビクビクする私に、レヴァン=マーティンが無感情な瞳で「紅茶」と告げた。


「ストレート」


 聞き間違いではないようだ。


「飲みたいってことですか? 種類は色々あるようですけど、どんなものがお好きですか?」


 教室には飲み物を好むかもしれない守護獣の為にずらりと並べられている。

 読書を邪魔したわけではなさそうだ。ほっとして、私はレヴァン=マーティンの返答を待った。

 もし特に希望がなければ、とりあえず2種類淹れて持ってきて、好きな方を選ばせよう。

 残りを私が飲めばいいし。


 しかし、レヴァン=マーティンは首を横に振った。


「あそこにはない」


 それは困った。

 あそこにないものだとすると食堂まで取りにいくか、もしくは、鞄の中にいれて持ってきている水筒に入れているものだけだ。

 水筒には、おばあちゃんから仕送りされている茶葉で作った、お気に入りのオリジナルブレンドティーが入っている。

 間違いなくおいしいと思うけど、でも紅茶にうるさい人だったら水筒にいれたお茶なんて飲むかな……?やっぱり、食堂までないか見に行った方がいいかもしれない。


「それをもらおう」

「えっ……こ、これですか?」


 私が水筒を持って悩んでいたので、中に紅茶が入っているのを察したのか、さすがに食堂までいかなければ手に入らないとなると待てないから諦めたのかはわからないが、レヴァン=マーティンは私の水筒を受け取るとそのまま口をつけて一口飲んだ。


「この味は好きだ」


 そうでしょうそうでしょう、おばあちゃんの茶葉で淹れた紅茶は少し冷めても時間がたっても美味しいのだ。

 私は嬉しくなって、相手がレヴァン=マーティンだということを忘れて自慢した。


 どうやって育てているのかとか、どんなふうに混ぜているのだとかを語るうちに、いつの間にか終了のチャイムがなって、はっと我にかえる。


 レヴァン=マーティンは私が話をしている間、ただ静かに聞いてくれていた。

 そうして授業が終わると、席を立ち1人で勝手に帰っていく。ぽつんと取り残されたが、召喚の時とは違ってあまり悪い感じはしなかった。むしろ何だか、暖かい気分。


【魔王】、思っていたよりも怖くないのかもしれない。



◇◆◇




「そう思っているのはミーコだけよ」


 フランと一緒に昼食をとりながらコミュニケーション授業の話をすると、ため息をつかれた。


「……そうかな?」

「だってあたしは実際に凍った人見たことあるし。もともと凍らせた相手は、女生徒に手を出そうとしてた悪名高い教師だったんだけど、助けてもらった女生徒が【魔王】にお礼を言おうと近寄った瞬間その子の足元も凍らされて、しばらく動けなくなったんだよ。氷が溶けるまで2時間くらいそのままだったから結構目撃者もいたんじゃないかな~~」

「に、2時間?」

「そう。そんなの見たら、怖くてとてもじゃないけど近づけないよ。ミーコが無事で良かったよ~~」


 噂が噂をよんで、大袈裟にいっているだけかと思っていたけれど、フランが言うのなら信憑性が増す。

 それでも昨日は、授業にいくのに迎えに来てくれて、紅茶を飲む間私の話を聞いていた(少し怖いけれど)普通の男の人だった。私がそう言うと、フランは目を丸くして驚いた。


「うそぉ~~。ミーコの話じゃイケメンがエスコートしてデートしてくれたみたいに聞こえるんだけどぉ?」

「エスコートじゃなくて肩に担ぎあげられて荷物のように運ばれたんだけど……」

「その様子だとマジで【魔王】、守護獣みたいだね。良かったじゃん、慰謝料払わなくて済むかも」

「そう……思うよね?」


 良かった。

 レヴァン=マーティンが私との契約を自分の意思で承諾してるだなんて先生に言われても、私の気のせいかと思って不安だっだけれど、フランも同じ考えみたいだ。


 少なくとも怒って氷の標本にされることはなさそうという結論になったが、あたらしく疑問が湧く。


「でも、なんでミーコと契約したんだろうね?」

「それなんだよね……さっぱりわからない」

「一度ちゃんと話くらいしてみたら?ミーコの前じゃ普通の人間っぽいし」

「うん……」


 そうしたいのはやまやまだけれど、どうやって話かければいいんだろう。

 さっきはつい紅茶を気に入ってもらえたことが嬉しくてぺらぺらと喋ってしまったけれど、次の機会なんてどうやって作ったらいいのかな。


「あたしもこの後ゴーレムちゃんとコミュニケーション実践授業だから頑張ってくるわね」

「いいなあ、フランのゴーレムちゃんかわいくって……」


 小型のゴーレムは、フランの隣の椅子に腰かけて大人しく座っている。

 私が視線を送ると、きょとんとした顔でこちらを見返してくる様子がとても愛らしい。こんな守護獣だったら、授業以外でだって余裕でコミュニケーションとるよ。


「追い打ちをかけるようだけど、来月には守護獣と一緒にダンジョン探索するんだよ。普通は必要ないけど、相手が【魔王】……っていうか、人間なんだし、予定空けておいて欲しいくらいは言いに行かないと」

「確かに。あああ、どうしよう。」

「ミーコ、がんばれ!」


授業開始10分前の鐘が鳴る。

もんもんとした悩みを抱えたまま、私は食べた後の食器を片付けに行った。



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