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残念ながら、失敗ではありません



 眉目秀麗。容姿端麗。

 仙才鬼才。飛兎竜文。


 レヴァン=マーティンを讃える言葉はいくらでも思いつく。


 ただし、機嫌を損ねると、すべてを凍らせてしまうという。

 噂が噂を呼んだのか、どこまでが真実かはわからないが、皆恐れて【魔王】と呼んでいる。


 そのレヴァン=マーティンが、私と契約した守護獣……守護者?


 召喚され、契約の首輪を嵌められたはずなのに、当の本人であるレヴァン=マーティンは私を一瞥いちべつしてさっさと生徒会室に戻っていってしまった。

 慌てふためいたのは残された私ばかりである。


 さいしょは、何かの間違いか、おかしな夢かと思った。


 だけど、翌朝遠目に見かけたレヴァン=マーティンの首にはしっかりと、私の作ったピンクハートの首輪が嵌められていた。

 あまりにも似合わないその様子を、ざわざわと周りの人が遠巻きに噂しているのが聞こえてくる。


「あの【魔王】を召喚したってほんと?」

「なんかファンシーな首輪つけてるし、真実なんじゃないかしら。」

「どこの誰よ。そんな命知らず」

「フォーサイスっていう1年の子らしいわよ。人間を召喚ってありえないでしょ……1年生だし、失敗したとかじゃないの?」

「失敗で【魔王】を引き当てるなんて本当に運のない子ね、かわいそう」

「その子無事なの?氷の標本とかになってない?」


 幸いまだ標本にはなっていません。

 でも、これからなる予定がないとは言えません。


 私はその可能性に気付かされて冷や汗をだらだらと流した。

 まずいまずいよ、現実逃避して寝ている暇があったらとっとと何か対処法を考えるべきだったかもしれない。

 もしくはどこか遠くへ逃亡とか。


 気が遠くなっていくのを頭を振って持ち直す。

 氷の標本になってしまう前に、なんとかする術を見つけなければ。

 

 そうよ、人間が召喚されるなんて失敗したからに違いない。昨日使った魔法陣の紙は先生に預けたままだから、見せてもらってついでに何か対処法がないか聞こう。

 授業が始まるまでまだ時間はある。私は駆け足気味に先生のところへ急いでいった。



「ミーコ=フォーサイス。残念ながら、あれは失敗などではありません」


 私に尋ねられた先生は、こめかみを抑えながら首をゆるゆると横に振った。


「貴女の描いた魔法陣はきちんとよくできていました。手順も教えた通りでしたし、召喚されたものに契約の首輪も嵌まっている。結果だけ見ても間違いなく成功です。……人間が召喚された例はわたくしも初めてですが」

「それじゃあ先生、契約を破棄することって……」

「フォーサイス、貴女は普段から優等生です。授業で習った事を忘れてはいないでしょう?1度契約した守護獣は、どちらかが死ぬまで解除はされません。ふつう、守護獣は召喚される際に契約の意思を自分で決めます。おかしな話ですが、レヴァン=マーティンは自らの意思であなたの守護獣になることを承諾したと考えるのが普通でしょう」


 そんなまさか。

 まともに顔を合わせて喋ったこともないのに?


 信じられないという気持ちを前面に出す私に、先生も困った顔をする。


「わたくしにもこれ以上は説明しようがありません。わかるのは、召喚された本人だけです」


 つまり、本人に聞くしかない?

 そんなことできるわけない。

 うっかり顔を合わせただけで氷の標本になってしまうかもしれないのに!


 もう逃げるしか道は残されていないかもしれないと思い始めた私に、先生からさらなる爆弾が投下された。


「フォーサイス。まもなく次の授業ですが、召喚できた生徒は守護獣と仲を深める為のコミュニケーションをとる実践を行う予定ですので、レヴァン=マーティンをその……連れてきてくださいね」

「そ、そんなぁあ……」


 無理無理無理。


 完全につんだといっていい。


 おばあちゃんごめんなさい、せっかく通わせてくれた学園だったけど私田舎に帰ります。

 おばあちゃんのいる森なら、あまり人は来ないし、いくらレヴァン=マーティンが博識で捜索するための莫大な資金をもつ貴族階級だとしても誤魔化しとおせるかもしれない。


 早々に荷物をまとめようと、授業には向かわずに寮に戻ろうとする私の目の前の地面に、特大のつららが突き刺さった。

 あっ……終わった。


「どこへ行く」


 昨日初めて聞いた、けれど忘れられるはずのない低い声が、私の背後から掛けられた。


 足はすくみ、息をのんで何を返せばよいかわからず黙ったままいる私に近づく気配がして、今度は耳元すぐそばで、もう1度低い声が話しかけてくる。


「授業はあちらの教室だろう」

「そ……」


 そうですね、となんとか絞り出そうとした声は発されることはなかった。


 ぐるりと世界が回転したかと思うと、私の返事を待たずに、レヴァン=マーティンは私を肩に担ぎあげたのだ。

 いつもの自分の目線より圧倒的に高く、地に足がつかない。


 状況についていけず、凍らされていないのに固まった私をそのままにレヴァン=マーティンはもくもくと廊下を進み始めた。


 そのまま教室に入ると、私を椅子に降ろしてその隣に座る。


 どうやら、氷の標本にはされないようだ。

 それどころか、レヴァン=マーティンは守護獣とコミュニケーションをとるための授業だと知っていて私と共に参加しているように思える。

 もしかして本当に私と契約することを承諾したの?

 ちらりと造り物かと思う程整った横顔を伺うが、冷えたワイン色の瞳は一切こちらを見ようともしない。


 聞くに聞けない雰囲気のまま、先生が教室に入ってきて授業の始まりを告げる鐘がなった。




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