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口は出さないが手は貸す

 

 林を抜けると、すぐに街の店の多い通りに出られる。


「それで、どこへ行くんだ?」

「必要なのは主に食料なんですけど、先にいくと荷物が重くなってしまうので先に遊びたいです!」

「わかった、冒険者ギルドの隣の店だな」


 お洒落なカフェや雑貨屋さんがある通りを指さす私の手を掴んで、ヴァンくんはギルドのある方へと歩き出す。指さした方向とは正反対の道だ。


「ぐぬぬ……」


 抵抗するが、叶う筈もなくずるずると引き摺られていく。わーん容赦ないよー!

 しかし、着いてしまったものは仕方ない。店の中へ放り込まれたので、大人しく買い出しをすませてしまおう。と、思ったが私を置いてヴァンくんは1人で店の外へ出て行こうとする。


「ちょっとちょっと、一緒にみて下さいよ」


 引き留める手は、無残にも払われた。


「俺は口は出さない。お前が判断しないと意味がない」

「それでいいです、一緒にいるだけでいいですから!」


 じゃないと一緒に来た意味がないでしょうが!

 あまりにも塩対応すぎて悲しくなってきた。契約したから仕方なく最低限の付き合いをしているようにしか見えない。


「お嬢さん、学園の生徒さんかな?」


 ふてくされた顔で商品をみる私に、店主が話しかけてきた。


「あ、はい」

「初めて見る顔だから、1年生かな。この時期はダンジョンに挑戦する実習でみんなよく買いに来るんだよね。大目に入荷してはいるんだけど、ギルドの人たちと必要なものが重なるとあっという間に売り切れになる。お嬢さんは早めにきて正解だよ」

「へえ……」

「特に学生さんはね、お嬢さんみたいに真面目な子ばっかりじゃないからね。ちょっと街で遊びたい年頃だろ?飯くったりぶらぶらしたりしてウチに来るのが昼過ぎになるともう遅いのよ。酷いときゃすっからかんで、店を閉めちまうこともある」


 うっ。心当たりがありすぎる。ちらりとヴァンくんを見ると、私とは反対の方向を向いている。明らかにわざとらしい態度だ。

 口を出さないと言いながら、しっかり助けてくれてるんじゃない。


「それで、どんなものを選びに来たんだい?」

「ええと、本当に初めてで、見てから決めようと思っていて。おすすめはありますか?」

「うぅん……そうだな~~」


 店主は少し考えて、棚から3種類の携帯食料を取り出した。


「1つ目は乾燥タイプ。水か湯でふやかしてから食べる。湯だと早いが、水だと少し時間がかかる。味はこいつが一番うまい」


 1食分ずつパックになっていて、お椀さえあれば簡単に食べることが出来そうだ。湯だと5分で暖かい食事がとれるのはとても魅力的に感じる。味の種類も多く、書いてある説明を見る限り本当に美味しそうだ。


「2つ目は圧縮タイプ。栓を抜くと膨らむ。持ち運びが簡単な上に、お腹いっぱい食べられる。冒険者にも人気だ。欠点は少々値が張ることくらいだな」


 ぺちゃんこに見えるが、一体どのくらい膨らむのだろう。店主に聞くと、これくらいだな、と両手で丸の形を作ってくれた。結構大きい。運動量の多い冒険者の為に、高エネルギーで栄養バランスも考えられている。


「3つ目はバリューセットだ。干し肉に干し芋、ナッツ、ドライベリー、塩飴の5点セット。正直味は保証できないし、他のものよりも嵩張る。けど値段は安いぜ」


 どん、と台に広げられたバリューセットの中身はかなり多かった。2日かかるとして、6食分を荷物に詰めて持っていくと結構邪魔になるだろう。それに、毎日このメニューで過ごすのかと思うと今からげんなりする。


「うーん、うーん……」


 どれがいいかな。確か、匂いの強いものは避けた方がいいと書いてあったから、乾燥タイプはやめておいた方がよさそうだ。温かい食事は魅力的だけど、匂いも周りに充満する。


「よし、決めた。バリューセットを4セットください。それと、ゼリー系のものとかってありませんか?」

「あるよ。普通の食事用と、ブースト用のやつどっちがいい?」

「普通のでいいです。それも4つください」

「あいよ。守護獣用のはいいのかい?」


 守護獣の食料を用意するのも勿論契約者の役目だ。ヴァンくんの分もきちんと計算にいれてある。


「ええ、私の守護獣は人間と同じものを食べるので」

「ほう。嬢ちゃんなかなかの実力者なんだな」


 代金を支払い、商品を受け取って店の外に出る。終始無言だったヴァンくんに対してお礼を言った。


「ヴァンくんのおかげで、売り切れになる前に選べました」

「……ふん」


 ヴァンくんは、鼻で笑うと私の荷物に手をかけた。


「持ってくれるの?」

「口は出さないが、手は貸す。お前の守護獣だからな」

「ありがとうございます」

「他に必要なものはあるか?」


 買うものリストを見るが、食料以外は特に書いていない。戦闘アイテムはさいあく学園内でも購入することができるし、今日はこれでいいだろう。私は首を横に振った。


「では、俺の用事にも付き合ってもらおう」

「ヴァンくんの用事!いいですよ!」


 買い出しが終わればすぐに帰路についてしまいかねないと思っていたので、ちょっと嬉しい。

 ヴァンくんの後ろについて来た道を引き返して、最初に街にたどり着いた地点のところまで戻ってきた。

 そこから更に歩いて、まだ進む。


「どこへ行くんですか?」


 このまま進むと、私がさっき行きたいと言っていたカフェのある方向だ。もしかしたら一緒に入ってくれるのかな?それとも雑貨屋さんに用事があったりして、私も商品を眺めるチャンスがあるかも。


「本屋だ」


 本屋!そういえば、よく本を読んでいる姿を見かける。好きな本がわかれば、話題にしやすいかも……。

 知らなかったが、目的の本屋はカフェの2階にあった。店舗の横にある階段をあがれば、直接入店できる。古めかしい扉をあけて中に入れば、紙とインクのいい匂いがしている。


「いらっしゃい」

「レヴァン=マーティンだ」

「はい、はい。少々お待ちくださいませ」


 入口近くのカウンターに座っていた老人は、ヴァンくんの名前を聞くとゆっくりと杖を振った。杖から光ふふわりと漂って、店の中を駆けていく。しばらくすると、本が1冊すうっと引き寄せられてきてカウンターの上に着地した。


「こちらでようございますか」

「ああ」


 本をちらりと見ると、経済学の本だった。うわあ、絶対話題にできないやつ。






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