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仲良くってどうやって

 

 最初こそひっきりになしに喋っていたロニー=ロッツオだったが、1週間もすればようやく満足したのかそれなりに静かになった。ヴァンくんネタが尽きたのかもしれない。

 おかげ様で、この調子でいけばダンジョン探索実習のために予定を空けることができそうだ。

 心に余裕を持って事前授業に参加できる。


「では、ダンジョン探索の実習訓練について書かれた冊子を配ります」


 私は隣のフランから回ってきた資料冊子を受け取った。今日はヴァンくんはいない。

 まあ、普通の守護獣だったら先生の話なんて聞いてもわからないだろうしね。誰も連れてきていない。


「みなさん、初めてのダンジョン挑戦になるので、持ち物参考リストの欄を記載しています。この中から自分が必要だと思うもの、守護獣の能力によっては不必要だと思うものを選別して準備するといいでしょう。絶対に必要なものもあるのできちんと確認しておくように」


 1年生が挑むダンジョンは、学園内にある人工的に作られたものだ。10階層まであるらしいが、初めての訓練では第3層までしか使わない。この3層までの間に採取できる、授業で使う材料をとってくるのが課題だ。

 資料冊子には、その素材の名称だけが書かれており、今日からダンジョンに実際に潜るまでの2週間の間にどのような物質なのかを調べておかなければならない。うう、生徒会の仕事もあるのに図書室に調べに行く暇、あるかな……。


 それに、第3層までといっても結構広い。早い人は日帰りで済むだろうが、なかなか見つけられないと1泊する可能性もある。万が一を考えるとどうしても荷物は多くなる。必要なものを休みのうちに準備しないと。


「いいですか、ダンジョンの中にはもちろん魔物がいます。罠もあります。万が一これ以上の訓練ができないと思うような怪我や状態になった場合は、資料一番後ろに描いてある魔法陣を起動してください。すぐに起動できるように、魔法陣を複製して服に縫い付けたりするのがお勧めですよ」


 先生に言われてチェックした魔法陣は転送の呪文がこめられている。使えば、ダンジョン内からすぐに脱出できるのだろう。


「何か質問はありますか?」

「はい! 何人かで協力するのはありですか?」

「ああ、いわゆるパーティーを組むということですね。残念ですが、今回の目的には守護獣との訓練も入っています。原則個人でダンジョンに挑むようにしてください。頼れるのは自分と守護獣だけです」

「ダンジョン内で偶然出会ったりしたら……? 目的の採取物がかぶって、喧嘩になるかもしれません」

「出発する時間をずらす予定ですから、早々出会う事はない筈です。もし争うような事態になった場合、生徒同士で危害を加えあうようなことは今回は認めていません。コイントスで公平に勝者を決めてください」



 それ以外にも、いくつか注意事項の確認や質疑応答がされて、講義の時間が終了した。昼休憩に入ったので、そのままフランと食堂へ向かう。


「その後【魔王】とはどうなの? うまくやれてる?」

「あ、うん。生徒会の仕事を手伝ったりしてるよ」


 ヴァンくんとどうして契約したか、ということはフランには言えないでいた。話せばヴァンくんが人間ではないことも言う事になる。それは、あまり人には知られないほうがいい事のようで、口止めをされていた。


「どっちが使役されてるんだか。【魔王】がどうしてミーコの召喚に応じたか、結局わかんないんでしょ?」

「う、うん」


 ちょっと気まずい。ごめんね、フラン。


「まあ、貴女がレヴァン=マーティンの契約者なの?」


 突然上から声が降ってきた。私たちが食事をとっている机の横に女の人が立っている。


「失礼。話を聞きたいと思っていたの。お隣宜しいかしら?」

「え? ええ……」


 反射的に了承してしまったが、完全に初対面の人だ。

 制服のラインの色がヴァンくんやロニー=ロッツオと同じだから、上級生だろう。美しい藤色の髪をたっぷりと後ろに流した美人だ。長い睫毛には、マッチ棒がのりそう。


「噂を聞いて、探してもなかなか見つからないんだもの。……特に目立つような方ではないようだし」


 美人は私の姿を上から下まで眺めてからそう言った。確かにね、私は平々凡々ですけども。なんだかちょっと言い方に棘があるような。


「一体どこがレヴァン=マーティンのお気に召したのかしら?」

「さぁ……?」


 変な人に絡まれてしまったようだ。速く食べちゃおう、とフランに目配せする。通じたようで、二人とも頼んだBランチを書き込むように食べ始めた。美味しい。

 私達が急ぎ始めたのを感じたのか、美人の方も勢いを強めてぐいぐい攻めてくる。


「まさか彼の弱みを握ったりしているのではないわよね?」

「してませんよ、そんなこと」

「例えば命に関わるような事とか。大事なものを隠しているとか」

「……」


 否定しても、聞き入れてもらえなさそうなので返事をするのをやめた。その分、黙々と咀嚼する。


「だってどう考えたってつり合っていないもの。容姿も、能力も」


 完全にけなされている。美人の目的はわからないが、こういうのは言い返したら負けなのだ。上級生だし、爪や毛の一本一本まで手入れしていそうなので、もしかしたら貴族かもしれない。挑発には乗らず、スルーするに限る。


「心配して損したわ。どうやって契約したかはわからないけれど、好かれていなさそうだものね。噂じゃ事故みたいなもののようだし。契約者として認められているか怪しいものだわ」


 スルーする、と決めているがイライラするものはする。

 カラトリーを置く手に力が入り、カチャンと強めに音がなった。


「まあ、粗暴ね。出自が知れるわ」

「失礼。大変結構なお話をありがとうございました。参考にさせて頂きますね」

「あら、まだ話は途中よ」

「申し訳ないのですが、()()()()()が会いたいって念派を送ってきたので。もう行かないと。心配して向こうから迎えにきてしまうかもしれませんから」


 勿論真っ赤な嘘だ。念派なんて送れるのかも知らないわ。

 けれど、美人は信じたのか一瞬ひるんだ。その隙にフランと共に立ち上がる。荷物を抱えたまま食器を戻しに行って、そのまま食堂を後にした。


「ごめんねフラン。せっかくの食事時間が台無し」

「ミーコのせいじゃないわよ。はあ、でも言われたい放題でむかつくわね」

「うん……」

「やだ、言われた事気にしてるんじゃないでしょうね? いい? ああいうのは気にしたら負けなんだから」


 その通りだ。わかってはいる。だけど、言われたことはあながち間違っていないのでかなり心に刺さってしまう。

 ヴァンくんは死にかけで無理矢理私に契約を結ばれて。

 容姿も能力も釣り合っていない。

 仕方なしに守護獣を勤めてはいるものの、本心では私を契約者だと認めてはいないだろう。

 そんな相手に、好印象を抱くこともあるはずもない。


 ああ、間違っていないどころか、さっき美人が言った通りそのままではないか。


「もう、ミーコ! 最初の契約が事故みたいなものでも、結果仲良くなればいいのよ。ね?」

「仲良く……どうやったらいいのかしら」


 ヴァンくんとは、いつも生徒会室でもくもくと仕事をしているだけ。

 会話らしい会話をするわけもなく、休憩時間に紅茶を飲む時だって、ロニー=ロッツオがだいたい1人で盛り上がっている。


「そうね、仕事しているだけじゃ仲は深まらないわよ。遊びにいかないと。一緒にお出かけなさいな、明日は休みなんだし」

「えっ、そんな急に……大丈夫かな」

「大丈夫でしょ。【魔王】が既に誰かとの予定なんて組んでるように見えないし。万が一断られても、空いている日を聞いてその日に約束すればいいんだから。もし誘いにくいなら、ダンジョン用の買い出しについてきて欲しいとでも頼めばいいわ」

「あっ、それならなんとか……言えるかも」


 決まりね。頑張るのよ。そう言ってフランは気合を入れるようにパシリと私の背中を叩いた。

 ありがとうフラン。ちょっとだけ元気出たかも。



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