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とにかくよく喋る


 翌日も、ロニー=ロッツォは生徒会にやってきた。


「最初はさ〜、僕もレヴァンに勝とうと努力したんだよねぇ。小さい頃から天才天才って言われてて、ようやく現れたライバル。乗り越えるべき壁! そういうのって、自分が成長できるチャンスじゃん?」

「そうですね」

「でもさぁ、成長しても成長しても、追いつけないワケ。僕がテストで全教科満点をとったら、レヴァンは問題の間違いを指摘して、その上で新しい回答を導き出して満点以上をとってる。僕が実技大会で優勝したら、レヴァンはその大会中すべての魔法を結界で受け止める役を担ってた」


 しかし、ロニー=ロッツォはよく喋る。喋りながらも手はきちんと書類をこなすので注意もできない。正直とても助かっている。出来れば私の方の集中力が途切れるので、話しかけないで欲しいが。


「レヴァンの守護獣は何か知ってる?」

「いえ」

「あの時は凄かったなぁ。魔法陣から出るわ出るわ。銀色のペガサスに、三つ目の巨人族、極め付けに黒いドラゴン!あり得ないでしょ? 次に召喚した僕の不死鳥なんて誰も見てなかったよ」


 不満を口にしているはずなのに、ロニー=ロッツォは嬉しそうに思い出話を語る。まるであこがれの人の、武勇伝を口にしているかのよう。

 昨日はヴァンくんの悔しがる顔をみたいとか言っていたから、嫌っているのかもしれないと思っていた。

 だけど割とけっこう……いや、めちゃくちゃヴァンくんのこと大好きなのでは??


「ミーコちゃんはどうやってレヴァンのこと召喚できたの??」

「え? えぇーと、なんででしょうね……?」

「見た感じミーコちゃんって別に魔力が多いわけでもないよね? 不細工でもないけど、目が覚めるような美人って訳でもないし。うーん……何か特殊な能力でも持っているのかな?」

「そんなのありませんよ」


 そんなにヴァンくんの事が好きなら、ヴァンくんの隣の席に座ればいいのに、ロニー=ロッツオはわざわざ私の隣に机をくっつけている。


「そんな素っ気ない態度とらないでよ~~。いいじゃん、心当たりくらい教えてよぉ」


 そういってわたしの方に身を乗り出してきた瞬間、ロニー=ロッツオは私との間にできた氷の壁にべちんと弾かれて「うぉああ!?」と叫びながらバランスを崩し床に沈んでいった。

 言わずもがな、ヴァンくんの仕業である。


「うるさい」

「も~。急に吃驚するじゃん」


 椅子から落ちたら結構な痛さだと思うのだが、ロニー=ロッツオはピンピンしている。

 守護獣の不死鳥のおかげだ。ちょっとやそっとの事では傷つかないし病気もしない。

 おかげでヴァンくんがいくら凍らせようとも平気で溶かしてくる。


 その上メンタルが強すぎて、普通だったら怖がるようなヴァンくんの脅しもまったく効かない。

 ロニー=ロッツオを本気で撃退したいなら、学園ごと凍らせるくらいを意識しなければできないだろう。

 ほんと、こんなに()()()人に声をかけてごめん。


 危害を加えられたというのに、ロニー=ロッツオは嬉しそうに「なるほど、レヴァンはミーコちゃんが大事なんだね~~」と言った。

 ヴァンくんの方は特に反応なし。

 照れたり怒ったりも、否定したりもしない。

 まぁ、期待はしてなかったけど。



 本日の業務が終わり、また書類を持って帰ろうとするヴァンくんに対して、ロニー=ロッツオがストップをかけた。


「あ~ダメダメ。レヴァンが仕事を持って帰るなら、寮でも部屋に押し掛けて手伝っちゃうよ~?」


 これにはさすがのヴァンくんも動きを止めた。

 ひくり、と形の良い眉が顰められる。


 私がやんわり止めても聞かない、書類を奪い取ろうとしても高い位置にやられ届かないでどうしようもなかったのだ。

 にっこりと笑うロニー=ロッツオを睨みながら、ヴァンくんはしぶしぶ書類から手を離した。

 おおお、ロニー=ロッツォすごい。



 生徒会室の電気を消す前に、今日もヴァンくんが無言で私に手を差し出してきた。

 ロニー=ロッツオもいる中手を繋いで帰るのはちょっと恥ずかしい。だけど、暗闇の中1人で歩ける自信もない。


 手をとろうとしたその時、先に廊下にでていたロニー=ロッツオが「うっわ、真っ暗」と声をあげて呪文を唱え、不死鳥を呼んだ。


 不死鳥は身体が炎で出来ている。炎は明るい。

 おかげで、真っ暗だった廊下がさっと照らされて見えるようになった。

 繋ぐ必要のなくなった手を、私ははっとしてひっこめた。


「ふふんふーん。僕って優秀~~」


 自慢気に胸を張るロニー=ロッツオを無視して、ヴァンくんが先に帰り始めた。

 私も慌ててついていく。

 視界が明るいから、いつもよりもとても歩きやすく、時間もさほどかからずに寮に到着した。


「今日はありがとうございました。ロッツオさん、助かりました」

「いいよぉ。結構楽しかったしね。まだしばらく手伝いにいくからね~」


 ひらひらと手を振って、ロニー=ロッツオは帰っていった。しかし、ヴァンくんは帰るそぶりを見せず、じっと私を見てくる。

 なんだろう、と私もヴァンくんを見返す。

 

 そっと、頭を撫でられた。


「……助かった」


 それだけ言うと、すぐに離れてヴァンくんも男子寮の方へ踵を返した。


 ……良かった。

 ロニー=ロッツオは確かに優秀で、仕事の片付くスピードは速くなった。

 だけど、ヴァンくんはめちゃくちゃ嫌がっている様子だったから、どうしようと思っていたのだ。


 私が呼び寄せたものだから、余計な事をした私に責任はある。

 仕事量が減って、ヴァンくんの体調がよくなったとしても、ストレスが溜まるようじゃ意味がない。

 せっかく手伝ってくれたロニー=ロッツオにも悪いけど、数日見て、ヴァンくんがずっと迷惑そうなら私から来ないように説得して、ごめんなさいした方がいいかな?と考えていた。

 だけど、助かったってことは、良かったってことなんだよね、多分。


「……えへへ」


 良かった。私の自己満足で終わらなくて。






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