封印された真実
「お初にお目に掛かります、殿下...」
その男は恭しく跪き、柔和な面に微笑みを浮かべながら言った。じっと見つめる瞳は琥珀の緑...すなわち、父ユリウスと自分と同じ色だ。
「誰...?」
ブラドルは問うた。七歳になったばかりの王子に「警戒心」はなく、父によく似た若者の顔を見上げる...
「私の名はネメシス。国王陛下の弟にして、貴方の伯父です。.」
「...伯父上?」
「いかにも。」
ブラドルはすぐに笑顔を浮かべた。初めて会うにしても、相手は父の弟、伯父となればきちんと挨拶をしなければならない。
「初めまして伯父上、第一王子のブラドルです。」
王子は軽く膝を折って名乗った。王子としての教育はすでに受けており、挨拶は基本中の基本だった。
「丁寧なご挨拶、光栄の至り…」
子供の目には、伯父と名乗るこの人物の腰の低さが何の不自然にも感じられなかった。ネメシスの眼差しは凛としていて、口調も穏やかであり、とても優しく見えたからだ。
「ブラドル!」
背後で大きな声が聞こえた直後、いきなり手を掴まれた。大きな身体が立ちはだかり、後ろに追いやられる...
「何故ここに居る...ネメシス!」
それが父であり、すぐ後ろに妹を抱いた母が立っているのに気づいて、ブラドルは二人を交互に見やった。父の表情は見えないが、母は怯み、明らかに狼狽えている...抱かれているシュナーベルが、目を丸めて母にしがみついていた。
「これは兄上...」
ネメシスは穏やかな口調で告げた。
「メルトワの太陽にして尊きお方よ。その問いはあまりに愚問...偉大なる父の訃報を知り、葬儀に際して、一眼だけでも拝顔を賜りたいと存じ、急ぎ駆けつけた次第...」
「拝顔?」
ユリウスは返した。
「そちとは血族の縁を切った…追放されし者にその資格があると思うか?父上がそれを受け入れ、お許しになると?」
ブラドルは父と伯父が対峙する様子を不思議な気持ちで見つめた。今日は長く病に伏していた祖父の葬儀の日…「旅立つおじいさまを静かに見送って差し上げよう」と父は言っていたのに…
「そちの参列など私は断じて許さぬ…今すぐ城を出て行け!二度と我が前に姿を見せるな!」
ユリウスは冷徹に命じた。ブラドルの周囲を駆けつけた近衞騎士がとり囲む…不穏な雰囲気を感じたのか、母に抱かれたシュナーベルが泣き出した。ブラドルはシュナーベルに駆け寄り、小さな手を握って言った。
「泣かないでシュノー、僕がついてるよ…」
「ブラドル…」
クロウディアはブラドルを片手で抱き寄せ、優しく手を握り締めた。
「行きましょう...」
母に手を引かれ、大勢の護衛に守られてブラドルはその場を後にする…何一つ理解できないままだったが、一度だけ振り返ったその目に、伯父と名乗ったネメシスの哀しげな微笑みが映った。
「...弟君?」
ブラストの問いに、ブラドルは頷いた。
「うむ...先王には三人の子がいたが、ネメシスだけは婚外子で、母親は平民だった。それゆえ王位継承からは外され、王都から遠い場所で育ったのだ。長子である父はその事実を先王より告げられてはいたが、次弟には伏せていた...何故なら、伯父上は病弱で心が弱く、事実を受け止められるほどの器をお持ちではなかったからだ...」
…弟君とは、クレーデス伯のことか…
ブラストは記憶をたどり、その事実を思い出した。かつて父ガライド・オーガナイトがメルトワに赴いたおり、第二王子の姿を拝見したが、生まれつきの難病のため王位継承は無理である...と。
「若くして逝去した伯父上の死に関して、父上は多くを語らない…だが、祖父とネメシスの間に何らかの諍いが生じ、その事がきっかけとなったことは明らかだ…その実、あの男を国外へと追放したのだから...」
そこまで話すと、ブラドルの表情が苦渋に歪んだ。瞼を閉じ、唇を噛み締める…
「...だが、あの男は再び現れた。先の王が崩御し、父がいよいよ王となるその日に...」
ユリウスが戴冠の儀を終えメルトワの王となった翌日...
馬車に揺られ、初めて城門の外に連れ出されたブラドルの心は躍っていた。シュナーベルも一緒であったし、何より大好きな世話係のメイがいるのが嬉しかったからだ。
「お出かけしましょう」
昼寝の前の時間に合わせてメイは告げた。
「おやつをたくさんお持ちしますよ。」
「どこに行くの?」
「ポントワの湖です。湖畔でおやつを食べましょう。」
その言葉にブラドルは疑問を感じなかった。城には大勢の人々が集まっており、父母は多忙を極めてここ数日は会うことすら儘ならなかった。メイは年若い子守役だったが、いつでも王子と王女の寂しさを理解してくれる、とても気の利く女官なのだった。
「お菓子をどうぞ...殿下」
対面の席に座るメイは、いつもの優しい笑みを浮かべながら焼きたての菓子を差し出した。フワフワに膨らんだ焼き菓子はいい香りがして、とても美味しそうだった。
「シュノーも...」
大人しく座っていたシュナーベルが手を差し出した。席を降りて、メイの隣へと移動する。
「危ないですよ、シュナーベル様...」
メイはすぐにシュナーベルを抱き留め、膝の上に乗せた。
お菓子を貰ってご機嫌な妹を見ながら菓子を口にする…
窓の景色が移ろい視界が開けていた…涼しい風が頬を凪いでいて、
それが爽やかで心地よかった。
「果実水もありますよ。」
メイは革袋に飲み口がついたものをブラドルに進めた。直に口をつけて飲むのは初めてで、何だか大人になった様な気分になる...
甘くて美味しい果実の水…たくさん飲んだところでシュナーベルにも飲ませる…そのあとメイと楽しくお喋りをしていたが、瞼がゆっくりと下がって行った…
鳴き声が聞こえる...
とても眠いのに、鳴き声が気になって眠れない...
「うるさい...」
訴えてみたが、声は一向に止まなかった。
瞼が重い。眠気に負け、再び微睡んでしまう..夢の中に入ろうとした…その時だった。
「そいつを黙らせろ!」
怒鳴り声に目が覚めた。同時に泣き喚くシュナーベルの姿が視界に飛び込んで来る...メイが血相を変えてシュナーベルを押さえつけ、長い布を口に巻きつけているところだった。
「シュノー...」
ブラドルは口を開いた。驚きで心臓が激しく脈打つ...何が何だか理解できず、自分が冷たい床に寝ている事にさえ気づかなかった。
「やめて、メイ...」
訴えながら、怠い身体を動かそうとした。シュナーベルが泣いている...メイに叩かれ、悲鳴をあげながら...
「起きたか...ブラドル。」
耳もとで声が聞こえた。
「ずいぶんと長く眠っていたな…お前が寝てる間に状況は一変したぞ...館は軍に包囲され、もはや陥落寸前だが、それでもお前という切り札がいれば問題はない。」
いきなり髪を掴まれ、ブラドルは痛みに悲鳴を上げた。そのまま引き上げられ立たされる。
「さあ歩け…ちゃんと歩かねば髪が引きちぎれるぞ!」
声の主は容赦なく言った。それが誰であるのかは分からない...痛みと恐怖で震えが止まらず、涙に濡れて泣きじゃくった。
部屋を出て引きずられるように廊下を歩いた。激しく泣いていたシュナーベルの泣き声はもう聞こえない...後ろを振り返ろうにも、そんな自由さえ与えられなかった。幼い王子には、妹の身を案じるより、これから自分がどうなるかのほうが不安だった。
見知らぬ館のエントランスに着くと、そこには大男が待ち受けていた。今までブラドルが目にしてきた大人とは違い、面貌からして、恐ろしい形相の厳つい武具を身につけた兵士….手には長剣を携えており、野蛮な眼差しでブラドルを凝視していた。
「...跪け。」
背後から命じられたブラドルが、無抵抗に床に膝を落として跪く…兵士が背後に回り、後ろ手に手首を縛り拘束した。
「国王の軍は?」
背後の声が言った。
「対岸でこちらを睨んでいます…相当な数だ。」
「兄上は来ているか?」
「無論です。流石に顔色を失っていますがね…」
武装した男は口を曲げて笑いつつ、蔑むように王子を見やった。
「ほう、この王子は先の王にそっくりですな。なかなかの美丈夫だ…」
「父親よりも...な」
男は低く嗤った。
「世継ぎの王子が次々と夭折し、ブラドルだけが残された...王子はユリウスの宝...メルトワの希望だよ。」
そこまで話すと、背後の男はブラドルの前へと回り込み、膝を着いて顔を近づけた。見上げた先に翡翠色の瞳が見える...眼差しは酷く冷たい光を宿しているものの、その顔は間違いなく「ネメシス」と名乗った伯父のものだった。
「お前に役割を与える。」
ネメシスは低い声で言った。
「扉の向こうにお前の父が待っている...誘拐されたお前を救うため、危険を承知で迎えに来たのだ。」
「...父上?」
ブラドルはベソをかきながら尋ねた。
「そうだ...私の言う通りにすれば、すぐに城へ帰れる...今から何を言えばいいか教えるから、父にそれを請うのだ。」
ブラドルは震えながら頷いた。優しい父が迎えに来ている..早く一緒に帰りたい...
僕は伯父の言葉に必死に耳を傾けた。
そうすれば、全てが解決すると思った───
扉が開かれると、大勢の兵を従えた父の姿が見えた。重騎兵が囲むその中心で、馬上からブラドルを見つめていた。
「父上…」
ブラドルは伯父に言われたとおり、必死に「懇願」した。教えられた言葉を口にし、泣きながら大声で訴えた。7歳の王子にその意味など解ろうはずもなく、只々、城に連れて帰って欲しいと願うだけだった。
「自分が何を言い願ったのか...それを知ったのは、ずっと後のことだ…」
ブラドルは暗い口調で言った。
「父上は僕の解放を条件に、ネメシスの要求を受け入れざるを得なかった...莫大な身代金を支払い、異国への逃亡を許し、メルトワからの永久的な追放をもって、僕の命を救おうとしたのだ。」
「身代金を...お支払いに?」
「そうだ。王座に着いて間もない父にとって、この事件を公にする事は極めて危険だった...伯父は強力な兵力を盾として保持していたし、何より、国の内乱をも誘発する恐れがあったからだ。」
…なんということだ。
ブラストは驚きのあまり、息を呑んだ。
王子の拉致誘拐事件は耳にしたこともなく、その衝撃は凄まじい。
「父上...否、陛下は全てを穏便に解決しようとお考えになったのだ。僕を救い出し、ネメシスを遠ざけさえすれば、この不祥事を封印できると…そのお陰で僕は解放され、今もこうして生き延びている...偉大な父の慈悲によって、愚かな王子は救い出されたのだ。」
ブラドルは俯き、ヘルムの上から額に手を当てた。それは悔恨と苦悩に満ちた、いかにも痛々しい姿だった。
「...僕は救われた...だが、悲劇は終わらなかったのだ…斜陽の騎士よ。」
「…悲劇?」
ブラストの問いかけに、ブラドルが顔を上げて視線を合わせる..その目には涙が浮かんでいた。
「殿下...」
「僕は自分を守るのが精一杯だった...妹...シュノーのことを慮ることが出来なかった...僕の命と引き換えに、あの子が犠牲になってしまった.,」
「...犠牲?」
「そうだとも。私がネメシスを憎み、何故この戦をしなければならないのか...それこそがシュナーベルのため、妹への贖罪なのだ。」
莫大な身代金を手にしたネメシスは、ブラドル王子を王のもとに還した。
それはユリウス王自身の財であり、父王から相続した財産であったが、王は多大な損失を被ってでも、王子が自分のもとに帰ってくることを望んだのだった。
晴れて開放され、父の腕に抱かれたブラドルは尋ねる。
「シュノーはどこ?」
問いに答えず、父はブラドルを強く抱きしめて告げた。
「シュノーの無事を祈ろう。」
見上げたその面は、苦悩の色に満ちていた…
ブラドルが主城に帰還した時、弟の身を案じていた三人の姉は泣いて喜びキスをした。
「怪我は?」
「酷い目に遭ったわね.,,」
「痛いところは無い?」
優しい姉達の介抱に、ブラドルの心が癒される...だが、そこに居るはずの母の姿はなく、ブラドルは姉に尋ねた。
「...母上は?」
「お母様は...少し具合がお悪いの...」
「ご病気?」
「ええ...そうよ。」
「母上に会いたい...」
姉は表情を曇らせた。二人の姉も、何故か同様に眉をひそめた。
ブラドルはその後も王妃と会うことを許されなかった。
シュナーベルのことも誰かれ構わずに何度も尋ね回ったが、皆、哀しげな表情を浮かべてく口を閉ざすのだった。
「シュノー...」
母への恋しさと、シュナーベルのいない不安で、ブラドルの情緒は不安定になった。夜毎にうなされ熱を出し、昼間も泣いてばかりになった。
見兼ねたユリウスが乗馬や競技大会を開いて励まそうとしたが、王子の心は沈んだまま、三月もの日々を過ごしたのだった。
八歳の誕生日を迎えたその日、ユリウスは祝いの言葉とともに、嬉しい報告をした。
「今日はお前の誕生日...クロウディアも喜んでいる…さあ行こう、母の部屋へ...」
「母上に会えるの?」
「もちろんだ。」
ユリウスは穏やかに微笑んだ。王子の手を握り、螺旋状の階段を一緒に登る...ようやく会える喜びに、ブラドルの心が踊った。
「母上!」
王妃の間の扉が開かれると、ブラドルは勢いよく部屋に飛び込んだ。視線の先にクロウディアの姿が見える...ブラドルを見ると、母は腕を広げて王子を迎えた。
「…ブラドル!」
温もりに包まれ、ブラドルは思わずベソをかいた。嗚咽が止まらず、母の胸に顔を押し付けて泣き続けた。
「寂しい思いをさせてしまったわね...」
クロウディアは涙声で言った。
「あんな事があって、貴方をすぐに抱きしめてあげなくてはいけなかったのに、それができなかった...本当にごめんなさい。」
母は姿勢を下げ、ブラドルの頬にキスをした。髪を何度も撫でながら、力一杯抱きしめた。
「あなただけでも無事で良かった...あなたはメルトワの希望、かけがえの無い宝よ。」
「母上...泣かないで…」
ブラドルも母を抱きしめる…優しい投げかけに、クロウディアはさらに嗚咽を上げて泣くのだった。
「クロウディア...」
ユリウスがクロウディアに手を差し伸べる...手を添えて立ち上がらせると、抱きしめつつ落ちつかせた。
「ブラドルに真実を告げる...良いな?」
「...はい、陛下。」
囁き合い、二人は同意した。
そして、澄んだ瞳で見上げる王子の背を優しく押しやり、奥の部屋に行くよう促した。
明るい日差しの入る風通しの良い部屋...そこは寝室で、天蓋のベールに包まれた小さなベッドがあった。ブラドルは近くに歩み寄り、ベールを避けて、そっと中を覗いた....
「そこにはシュノーがいた…ベッドに横たわり、瞼を閉じて眠っていた。僕は驚き、喜びに包まれた。誰も教えてくれなかったシュノーの行方が、ほんの近くにあったことを、その時初めて知ったのだ。僕は嬉しくて泣いた...子供ながらにシュノーはもういないのではないかと思っていた。何もかも自分のせいだと自分を責めていたし、そのことを思うとずっと怖くて堪らなかった。」
…シュナーベル様はご無事であったのだ。それは現在が証明している,,,なのに何故この方はこんなにも嘆いておられるのだろう?
素朴な疑問...ブラストの胸が騒いだ。
「シュノーに手を伸ばそうとしたが、その手を父上が掴んだ。床に膝をつき、僕の顔を覗き込むと静かに告げた。
「息子よ、今から見るものは、そなたをこの先も苦しめることになるだろう…だが、決して目を背けてはならぬ。その目に焼き付け、教訓として、深く心に刻むのだ。」と…そして、母がシュノーに掛けられた毛布をそっと剥いだ時、僕は悲鳴をあげた...シュノーの...あまりの悲惨な姿...」
「殿下...!」
ブラストは馬を降り、ブラドルに歩み寄った。息が激しく乱れている...このままでは危険だ。
「しばし御休憩を...」
ブラストは進言し、ブラドルを一度馬から下ろした。従者に簡易椅子を用意させ、手を添えて腰を下ろさせる。
「すまぬ...少し心が乱れた。情けないな…これからという時に...」
「是非もないことです。お辛い経験をなさったのですから...」
ブラストは慰め、ブラドルのヘルムを外すよう従者に指示した。ヘルムを脱ぐと王子の顔が現れる...その顔は青く、血色が優れなかった。
「脈を拝見させて頂きます。」
手袋を外して脈を診る…脈拍も早い。
「そなたが医者であることは幸いだ...エレナが惚れるのも頷ける...」
ブラドルは口角を上げて言った。
「光栄です、殿下。」
ブラストが短く応えると、王子は深く頷き息をついた。落ち着きを取り戻し、呼吸を整える...
「僕が解放された後、逃亡の際の人質としてシュノーは連れ去られた…存命は絶望的と家臣の誰もが考え、囁き合ったのも無理はない。幼い王女は何の取り引きにも使えない。逃亡の足手まといになるだけだ...ところが、二日後の夕刻、シュナーベルは発見された...東に向かう道の脇に、ボロ布の様に捨てられ、血まみれの状態で見つかった...」
「...なんですって!」
ブラストは声を上げた。抑揚の縛りなどどこかに吹き飛び、ブラドルの瞳を見つめる。
「…ベッドに横たわるシュノーの足は不自然に曲がり、折れていた...月日が経ち、多少なり傷を癒してはいたが、それでも目を背けたくなるほど痛々しい状態だった...」
「では、シュナーベル様のお身脚は...」
「生まれつきではない…あの日からシュノーは思う様に歩けなくなった…ひとりで立ち上がることも、走ることもできなくなった。僕はシュノーの人生を台無しにし、自由の翼を折ってしまったのだ。自分だけが平然と生きているなど許されない...不遇に苦しむ妹を見るたび罪を感じ、贖罪をせずにはいられなかった....故に僕はあの男に向かわねばねならぬ...“魔境”に潜むネメシスを引きずりだし、報いを受けさせ、全てを終わらせなければならぬのだ。」
ブラドルは決然としながら告げた。その面には、激しい憎しみの感情が滲み出ていた。
…ネメシス…ユリウス王の弟にして魔窟に巣食う『真の敵』───
ブラストは森の奥に視線を移した。真実はあまりに残酷...王子は実の伯父である者を討ち、復讐を果たそうとしている...過去の清算をもって、罪人の首をシュナーベルに差し出そうとしているのだ。
…確かに穏やかではいられない。
王子がヨルムドに伝えなかったことは正解だった。彼が真実を知れば、結婚の幸福より、復讐を優先するに違いなかった。
…本来のブラドル殿下はお優しい方…そうでなければ、メルトワの姫君達が、“ああ“も素直なわけがない。
結婚式でのシュナーベルを思い出す...頬を染め、ヨルムドに寄り添う幸せそうな笑顔...
…殿下が心からの笑顔を取り戻すことを望んでやまない。
つづく
.




