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月光の騎士物語  作者: ヴェルネt.t
11/20

ボルドー騎士団

「羽化が始まったわ…」

シュナーベルが囁くように言った。

「ああ、もうすぐだ。」

ヨルムドも頷き、口角を上げる…


ポントワの城から戻って来た二人は、ここ数日、サナギの羽化を待っていた。「その時」がいつ訪れても良いように毛布を持ち込み、昼夜問わず研究室に引きこもっていたのだ。

「寝ている間じゃなくて良かったわ。何度もうたた寝をしてしまっていたから…」

「うたた寝という程度ではなかったようだが…」

「え?」

「いや…何でもないよ。」

瞳を瞬かせているシュナーベルに視線を移してヨルムドは言った。

交代で「寝ずの番」をしようと決めたものの、品行方正な王女に徹夜は負担が重く、すぐに眠ってしまう彼女の寝顔を見守りつつ、ヨルムドが夜通し監視を続けたのだった。

「あなたと一緒に観ることが出来るなんて、まるで夢のよう…」

観察のために移動させた長椅子で寄り添いながら、シュナーベルは言った。

「ほんの少し前まで、私はこの部屋で独りぼっちだった…お城にいるのが辛くて逃げてばかり…あの日ポントワ城にいたのも、「ボルドーから月光の騎士が来る」とエレナがはしゃいでいたからだったの...」

「エレネーゼ姫が?」

「ええ、エレナは私が貴方に憧れていることを知っていたから、あえてそう見せていたのだと思うわ。」

…なるほど。

ヨルムドは納得した。確かにエレネーゼは自分が入城してすぐに接触を図ってきた。シュナーベルよりも前に、自分の存在を強く印象付けようとしていたのかも知れない。

「逃げたのは良くないことだけれど、そのおかげでエレナより先に貴方に会えた…微笑むヨルンを見ることができたのよ。」

「あの時は、職務を離れていたからね…」

「出会いは偶然でも、とても嬉しかった…エレナも知らない素敵な笑顔を独占できたんだもの。」

「そんなに貴重なものではないが…」

「いいえ、とっても貴重だわ…」

腕を絡ませるシュナーベルの手をヨルムドはそっと握った。

全てが王子の企てだったとしても後悔はない...この「成り行き」は自分にとってとても望ましい結果だったのだから。


「ああ、なんて素晴らしいの。」

シュナーベルは瞳を潤ませて歓喜した。

透明になった蛹から成虫が姿を現し、少しづつ畳まれた羽が広がり始める...ビロードのような大羽が、ついに美しい形状へと変化しようとしていた。

…美しい。

ヨルムドも心を打たれた。

一つの生命が生まれ変わる瞬間...理屈は知っていても、こんなにも長くつぶさに観察したのは初めてだった。

「ちゃんと飛べるかしら...」

「まだわからないが、そう信じよう。」

二人は囁きながらその瞬間を待った。

枝の先へとゆっくり進み、羽をわずかに震わせる...すると、その体がふわりと浮き上がった。

「あ...」

シュナーベルは思わず声を上げた。

「飛んだわ...ヨルン」

「ああ、完璧だ。」

ヨルムドも笑顔で頷いた。

室内を元気に羽ばたく紺碧の蝶...

シュナーベルとヨルムドは顔を見合わせ、同時に立ち上がった。

やがてカーテンに止まったのを見計らい、シュナーベルがそっと手のひらに納める...

ヨルムドは扉を開け、廊下からエントランスへと誘った。

「さあ、行きなさい...」

屋外に出ると、シュナーベルは言った。

「...元気でね。」

手を開くと、蝶はすぐに飛び立った。

紺碧の羽を輝かせ、広い世界へと旅立って行く…

…私にも、あなたのような羽があればいいのに。

シュナーベルは思った。

羽があれば、重い足を引きずらなくて済む...あの子のように、自由に羽ばたくことができる…

「シュノー...」

沈んだ様子のシュナーベルを見て、ヨルムドは言った。

「今夜か明日には父上が到着する...知識を持った配下の騎士を連れて来るそうだ。治療をして、必ずボルドーに行こう。」

「ヨルン...」

「ハルトが君を乗せたくてうずうずしているぞ。」

ヨルムドの言葉に、シュナーベルは笑顔を浮かべた。

優しくて頼もしい婚約者...羽は無くても、彼が希望を与えてくれる...

「おもてなしの準備をしなくては。王都に入る前に、ぜひポントワ城に立ち寄って頂きたいわ。」

「ブラドル殿下にその許可は頂いてある...手配はすでに済んでいるよ。」

ヨルムドはそう言うと、シュナーベルの身体を抱き上げた。

部屋に戻り、帰り支度を始めねばならない...

『曙光』配下の騎士団を迎え入れるには、それなりの配慮が必要なのだ。



「いい加減にせぬか、エレネーゼ!」

ユリウスは声を上げた。

昼下がりに顔を合わせた国王一家の団らん...その場での出来事だった。

「シュナーベルの結婚は、私と王妃で以前から決めていた事だ。シュナーベルの一存ではない。」

父の厳しい嗜めに、さすがのエレネーゼも萎縮し、推し黙る...

姉とヨルムドが婚約し、結婚を間近に控えていると知ったのは数日前、二人がすでにポントワ城に行ってしまった後だった。

「なぜシュノーばかり特別扱い?他のお姉様は心ならずのお相手と結婚をした...お兄様だってそうでしょう?王家に生まれた者は、結婚相手を自分で決めることは出来ないのに...!」

「エレネーゼ、口を慎みなさい。」

クロウディアがすかさず叱った。

「ブラドルの話まで持ち出すなどもってのほかです!」

ブラドルは渋面で隣にいる妃に視線を移した。エフィル妃は黙ったまま静かに目を伏せている...

「エレナ...少し外で話そう。」

ブラドルは告げた。

自ら立ち上がり、不機嫌なエレネーゼを誘い出す...初夏の花々が咲き乱れる庭園に出ると、眩しい日差しが二人を出迎えた。

「ここに座って。」

エレネーゼを木陰のベンチに座らせると、ブラドルも隣に着く。深く溜め息を吐き、話を始めた。

「お前の不満も解らなくもない...」

妹の瞳を覗き込みながら兄は言った。

「確かに、シュノーの婚約は特別だ...それは認める。」

「お兄様...」

「...だが、その理由をお前は知っているだろう?」

「,,,もちろんよ。」

エレネーゼは素直に答えた。

足の不自由なシュナーベルに、他国の王族は興味さえ示さない。健常であればこそ子々孫々の繁栄に繋がる...誰もがそれを望んでいるのだ。

「このままではシュノーはいずれ居場所を失う...メルトワの王女であるという以外に、何がしかの「地位」が必要なんだ。」

「それがヨルムドとの結婚だというの?」

エレネーゼは応酬した。

「彼は何の地位もない、ただの騎士だわ。」

「いまはそうだが、我が国にとって「月光」はいずれ重要な存在となる...あの者の持つ知識と、騎士としての才覚は稀にみるもの。シュノーの夫となれば、僕にとって義弟となり、生涯の片腕となってくれるはずだ。」

エレネーゼは眉をひそめた。

…ヨルムドが欲しかったのは、むしろお兄様のほう?

シュナーベルが「月光の騎士」に以前から焦がれていたのは知っていた。

…けれど、まさかお兄様までもが興味を持っていたなんて..

「...じゃあ、お姉様とヨルムドはメルトワに残るのですか?」

「それはシュノーがボルドーに行き、勉強を終えてからになるだろう。」

「ボルドーに?」

「そうだ。」

ブラドルは頷いた。

「シュノーはそれを望んでいる。薬学を学び、未来ある子供達の師となるために。」

「...でも、お姉様が居なくなったら...お兄様は寂しいのではなくて?」

「僕が寂しい?」

「だってお兄様は、子供の頃からシュノー姉様とばかり遊んでいたわ。」

「エレナ...」

「私はいつも置いてけぼりだった...あの時だって、バスケットをあげたのはお姉様にだけ...私にはくれなかった…私、ずっと待っていたのに。」

「...いったい何のことだ?」

ブラドルは当惑した。エレネーゼが何を言っているのかわからない...

「お菓子の入った花カゴ...舞踏会のおみやげよ...」

「舞踏会...?」

泣き顔になる妹に困惑しつつ、ブラドルは子供の頃の記憶を辿った。

菓子を入れたバスケット?.舞踏会のみやげ?

「あっ」

ブラドルは思い当たった。

舞踏会に行けず泣いていたシュナーベルのために、飾られていた花と、テーブルの菓子をありったけ詰めたバスケット...持ち帰ったその「花カゴ」を、シュナーベルに贈ったことがあった...

「...だが...あの時お前は、舞踏会の場にいたではないか!」

「...違う、その後のことよ...私が行かなかった時も、ブラッドは何もくれなかったじゃない...私には一度も。」

「は...」

ブラドルは呆然となった。

…まさか、そのことを恨んでシュノーに当て擦りを始めた?

「ああ、エレナ...」

ブラドルは子供のように泣きじゃくる末の妹を抱き寄せた。

「他意はなかった...断じてだ。」

「兄様...」

「シュノーもお前も大切な妹...私が至らなかったことは謝る…これからは気をつけると誓おう。」

「…私にもバスケットを下さる?」

「もちろんだとも。シュナーベルの婚儀の時には、お前のためにとっておきの花カゴを作ろう...持ちきれないほどの特大のやつだ。」

「...特大の?」

「それで許してくれるかい?」

エレネーゼは顔を上げた。赤く腫れた目で兄を見つめて頷いた。

「いいわ。」

エレネーゼが抱き着いて来るのを受け入れる...ブラドルは苦笑しながら天を仰いだ。

…妹達の仲違いの理由が、まさか僕自身にあったとはな。





白い外套をまとった銀髪の騎士が、馬を降りて地に足を着ける...

騎士団がポントワに到着し、次々に馬を降り始めると、ヨルムドは彼らを出迎えるため足早にエントランスを離れた。

「父上。」

歩み寄ってエルナドに手を差し伸べる。父は無表情のまま息子の手を握り、わずかに目を細めた。

「事情は把握している...話は後だ。」

言葉少なに告げ、エントランスに立つシュナーベルに視線を移した。

「あのお方がシュナーベル王女か?」

「はい。」

ヨルムドが頷くと、エルナドは即座に歩き始めた。シュナーベルの前で立ち止まり、その場に膝を着いて跪く。

「ボルドー騎士団長、『曙光の騎士』

エルナド・エストナドと申します。お招きにより馳せ参じました。」

「ようこそメルトワへ、エストナド卿。」

シュナーベルはボルドー語で言った。

「私はシュナーベル、この国の第五王女です。」

「お目に掛かれ光栄です、姫君。」

「お会いしたかった…ヨルムドのお父様...」

シュナーベルがゆっくりと前に歩み始めると、ヨルムドがその体を素早く支える...その所作を、エルナドはつぶさに見据えた。

…報告通り、姫君のお身足は思うように動かないようだ。

「ヨルンはお父様にそっくりなのね?」

「いつもそう言われる。」

シュナーベルが小声で囁くと、ヨルムドも小声で答えた。シュナーベルが初めて見るエルナドは驚くほどヨルムドに似ていて、端正な顔立ちのうえ、とても威厳に満ちた騎士だった。

「私はまもなくヨルムドと結婚します...お父様とはこれから親族の縁を結ぶのですから、どうぞ身分のことはお忘れ下さい。騎士団の皆さんにも、是非、遠慮なく滞在して頂きたいと伝えて下さい。」

流暢なボルドー語と流麗な面差し...

…ヨルムドが惹かれるのも無理はない。

エルナドは安堵した。

シュナーベル王女は、叡智に富んだ女性にに違いない。

「身に余る光栄...お心遣いに感謝いたします。」

エルナドは謝意を述べると、立ち上がって一礼し、踵を返して背を向けた。

「…行って来る。」

シュナーベルに告げて、ヨルムドも後を追う。久しぶりに会う仲間たちが、ヨルムドを待ち構えていた。

嬉しそうなヨルムドの様子に、シュナーベルも自然に笑顔になった。


「今宵の宴は姫君の招きによる宴だ。職務ではない。」

エルナドが公言すると、騎士達は自身の感情抑制を解いた。

シュナーベルが是非にと願い出たためで、そのおかげで宴席は和やかな雰囲気で始まり、彼らは久しぶりの開放を得ることができたのだった。

とはいえ、王女に対する無礼が許された訳ではない。シュナーベルとの会話は理性的に交わされ、話題は主にボルドーの風土や薬学に集中した。

「素晴らしいわ...ヨルン」

シュナーベルはヨルムドに向かって吐露した。

『曙光』配下の騎士は、全員が医師か医学薬学の研究者だという。

彼らは「知識の宝庫」だった。

やがて陽が沈む時間に至るまで、シュナーベルと騎士はお互いの知識と見解をとことん話し合った。

「もう休んだほうがいい…」

シュナーベルの様子を観て、ヨルムドが告げた。

「あまり無理をすると明日が辛くなる...」

シュナーベルが虚な眼差しでヨルムドを見上げる...王女の反応は微妙だった。何か返事を口にしたものの、その言葉も曖昧だった。

…過剰摂取だ。

普段は酒など飲まないシュナーベルだったが、今夜はかなり飲んでいる…相当酔っているようだ。

「部屋へお連れした方が良い。」

エルナドも薦めた。

これ以上騎士達に付き合っていては、とても王女の身が保たない。

「行こう、シュノー…」

ヨルムドは促したが、シュナーベルの怪しい足取りを見て取ると、躊躇うことなく横抱きにして歩き始める...

見慣れない光景に、騎士全員が目を丸めた。

そのままヨルムドは部屋を出て行ってしまった。残された騎士はあんぐりと口を開け、それぞれの顔を見合わせながら言った。

「なんだ…無理強いされたのかと思ったが、全然違うじゃないか。」

パルシャが口を曲げながら言った。

「…お二人はかなり相思相愛の様ですね

…王女様はとてもお美しい方ですしし...」

シムトも頬染めながら瞼を瞬かせる。

「しかも、想像以上に「月光」の方がゾッコンだ。」

キロプスは愉快そうに笑った。隣で静かに微笑んでいるブラストに追加のエールを注ぐ…

「シュナーベル王女は愛らしく理知的なお方だ…無理はないさ。」

「冷静だなブラスト…王女様に愛される…我らには至極羨ましいことだ。」

「そういうお前だって、貴婦人達に絶大な人気があるじゃないか…ヴァイデ。」

オルデラはテーブル上の林檎に小刀を突き刺しながら言った。

「一番の堅物に白羽の矢が立った…全く、運命とは皮肉なものだ。」

不満を漏らしながら、パルシャはグラスのエールを一気に口へと流し込んだ。従兄弟であるヨルムドは、幼い頃からの好敵手だったからだ。

「くそう…先を越された。俺が奴に負けるとは…」

「あまり深酒をするな、パルシャ。」

エルナドは口角を上げながら嗜めた。

亡き妻アイシャの兄の子パルシャはロッドバルト家の嫡子。ロッドバルトの男子は血の気が多いが、それでもパルシャは冷静なほうだと言えよう。

…同じ一族でもアイシャはおとなしい性格だった..ヨルムドの.一途なところは、母親にそっくりだ。

妻と過ごした幸せな日々に想いを馳せる。幼いヨルムドを遺して逝ってしまったアイシャ…その笑顔は今もエルナドの心の支えだ。

「ヨルムドは良き伴侶に恵まれた様だよ。」

エルナドはアイシャに告げた。

「ヨルムドは君を知らないが、姫君は君に似ている。...これも血の成せる技というものだろう。」


…ぜひ、結婚の儀に出席したいわ。


耳元でアイシャの声が囁く。


…貴方と一緒に。


エルナドは微笑んだ。

どうやらアイシャも喜んでいるようだ。


「もちろんだよ…アイシャ。」


エルナドは応えた。


「息子の幸せを、二人で祝福しよう。」



翌朝、『曙光』と騎士は王都に向かって出発した。

ヨルムドも随行を申し出たものの「王女の警護がお前の任務だ。」とエルナドにと断られ、シュナーベルとともにポントワに留まることにした。

「お父様とご一緒したかったのでは?」

シュナーベルは言った。

「私はお留守番でも大丈夫だったのに...」

その言葉に、ヨルムドがシュナーベルの瞳を覗き込む。

「シュノーはその方が良かったのか?」

シュナーベルは目を見開き、首を横に振った。

「いいえ...嘘よ。」

正直なシュナーベルを、ヨルムドは笑って抱きしめた。

「国王陛下との拝謁が終われば父上は帰ってくる。シュノーの足の治療のためにしばらく滞在してくれるそうだから構わないさ。」

「良かった。」

シュナーベルは安堵し、ヨルムドを見上げて微笑んだ。

幸せそうな表情のシュナーベル...

しかし、ヨルムドの内では一抹の不安が過っていた。


「妻君は俺の治療に耐えられるか?」


昨晩、パルシャはヨルムドにそう吐露していた。

荒療治で有名な医学者。

有能とはいえ、パルシャに「容赦」という概念は存在しない。

…シュノーが泣くのは確実だ…

考えるだけで心が折れそうになる。

…あの冷血漢にブラストのような繊細さがあれば良かったのだが...

今はまだシュナーベルにその事実を伝えるべきではないと思った。

その時が来れば、否応なく知ることになるのだ...



「痛い…」

エレネーゼは熱に苦しみ、何度も頭の痛みを訴えていた。

昨日の夕刻から寒気を感じ、夜にかけてみるみるうちに熱が上がり始めた。

頭痛が酷く喉が痛い…

「私は…もう死ぬのね…」

あまりの苦しさに、死を感じた。

…死にたくない。

「誰か…助けて。」

涙が溢れて頬を濡らしていた。手を伸ばしてそこにいるはずの母の手を掴もうとしたが、誰もその手を握ってはくれなかった...

「口を開けて下さい…もう少し大きく。」

不意に間近で男性の声が聞こえた。

「苦いですが、我慢して飲み込んで下さい…薬が効けば痛みが徐々に治ります。」

…誰?

聞いたことのない声だった。

首の後ろを支えられ、わずかに持ち上げられる...冷たい手が気持ち良かった。

...とっても心地良い。

そう思ったのも束の間、エレネーゼは衝撃を感じて目を開いた。口の中がとんでもなく苦い...感じたこともない味だ,,,

エレネーゼは吐き出そうと手足をばたつかせた。体を押さえつける目の前の相手を激しく叩いて攻撃する。

「頑張って...」

相手は顔を寄せながら励ました。

エレネーゼは涙を流して必死にそれを飲み込んだ。たった一口でも、それは死ぬほど辛かった。

「さすがです...素晴らしい。」

全身の力が抜け、ぐったりと横たわる...

すると甘い香りがして、何かが口の中に注がれた。

「蜂蜜です...安心して下さい。」

エレネーゼは口を開け、匙を傾けている人物を直視する...

「...あなた、誰?」

エレネーゼは赤面した。

青みを帯びた灰色の瞳と優しい眼差し...

そこにいたのは、端正な顔立ちをした異国人の青年だった。


つづく






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