表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】さよなら火葬場  作者: Ru
── 最終章 ──

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/111

48-02 フレアスタック攻略

「ッ……!」


 とっさに引き金を引いていた。

 激しい破裂音とともに、ぱっ、と激しい血しぶきが飛ぶ。ミックのすぐ後ろでどさりと何かが倒れ込む音。

 あ、と覗き込もうとするおれを、ミックが無理やり引っ張った。


「足を止めるな!」

「だが──」

「おまえが撃ったのは肩だ。動脈に当たっていなければ問題ない、あとは祈れ」

「く……っ」


 悔恨じみたものを振り切って走った。背後を守るミックが低く、助かった、とささやく。おれは無言でうなずいた。


 金属製の階段を鳴らす高い音が、上層へと近付いていく。狭い歩廊に駆け込むと、ミックが言った。


「ここが最後の踏ん張りどころだ。次の歩廊が最上部。ケイジはおそらくそこにいる」


 うなずく。だが、最後の砦というだけある。階段の脇や塔の裏側から、ぞろぞろと男たちが湧いて出てきた。とん、とミックと背がぶつかる。背後から、ちっ、と舌打ちする音が聞こえた。


「……ミック。あと何発残ってる」

「七発だ。貴様は」

「一発」

「わかった。それはケイジ・ニューマンに取っておけ」

「だが」


 見たところ敵の数は八人。一人につき一発使っても、一人分足りない。

 おれの言いたいことなどわかっているだろうに、ミックは大丈夫だ、としか言わない。胸元で構えた銃を握りしめ、彼は不敵に笑った。


「要は、貴様さえ上に着けばいいんだ」

「おい。くだらないことを考えるなよ」

「わかってる」


 そう言いながら、ミックは走り出した。おい、と止める声など聞こえていないかのようだ。


 大柄の体躯が走り、たくましい脚がひるがえり、数人をまとめてなぎ倒す。おれはせめてもの援護をしようと、彼の漏らした敵を引きつけた。


 おれの背後から飛びつく男に向かって、ミックが猛禽のように食らいつく。彼の手元が破裂音とともにぱっ、と光って、そのたびに男がひとり、また一人と倒れていった。


 だが──限界というものはある。


 ミックの引いた引き金がとうとう、がちん、がちん、と空の音を鳴らした。鋭い舌打ちの音、おれの背後で激しいもみあいの気配。ミックのナイフが飛んでいく音。


 助けに入りたいが、おれはおれで必死だ。二人がかりで挟み撃ちにされ、組み付かれそうになるのを飛んで避ける。乱戦なだけあって滅多な発砲がないのだけが幸いだが、もはやそんなことは言っていられない。


 背後で、ぐうっ、とうめき声が聞こえた。目の端に捉えたミックが、がくん、とその場に崩れ落ちた。


「ミック──」


 反射的に銃を抜いて、しかし。


「撃つな」


 血まみれのミックが吠えた。鋭くつり上がった目が、雄弁におれを見つめる。それだけは取っておけ、と。

 その目が、階段の方をすっと見た。包囲は崩れていた。今なら──行ける。だが。


「俺は──いいから──」

「っ……馬鹿を言うな!」


 反射的におれは、走っていた。階段のほうではなく、囲まれたミックの方へと。

 飛び蹴りをかまし、倒れた男の体を振り回して、覆いかぶさる敵を背後から投げ飛ばす。


 そうして引っ張り出したミックは、太腿から血を流し、ばかな、と言うような目でおれを見ていた。


「なにして──」

「おれの台詞だ、馬鹿野郎」

「馬鹿は貴様だ! せっかくのチャンスをドブに捨てやがって」


 さっと背中を合わせ、周囲を確認する。敵の頭数はまだまだ残っている。残った武器は銃弾が一発だけ。ミックは負傷している。


(くそっ、ここまでか)

 だが、最後まで諦めるわけには──

 そう思ったとき。おれたちを包囲していた男の一人が急に倒れた。


 彼らがどよめく。囲いが崩れる。床をすべる赤いポインター。男たちの身体の上を、赤い点がすうっ、とさまよっていく。

 ぱっ、と血しぶきが散り、もうひとり倒れた。なにが起こっている。


 驚くばかりのおれの手を、誰かがぐっ、と引いた。ミックだった。階段に一番近い男のこめかみを、ミックが銃の底で殴りつける。追い打ちのように脇腹を蹴り飛ばし、あいた隙間を突破した。階段を走る。


「ミック──今のは──」

「……あの、愚図ども。戻ってきやがった」


 口調こそ苦々しかったが、彼の口の端が持ち上がっている。それでわかった。例の部下たちだ。


「なんだ。やっぱり、いい上官だったんじゃないか」

「軽口を言ってる暇があったら、走──ッ!?」


 激しい爆発音。空気に衝撃が走った。

 地面が揺れる。な、と言いかけた言葉が消え、足元がぐらつく。ミックがおれの手を掴む。畜生、と毒突く声。


「ケイジの野郎、こんなところで──狂ってやがる」

「なにが、起こって」

「崩れるぞ、いいから走れ!」


 手を引かれ、もつれる足をなんとか動かす。ぐらぐらと足元がおぼつかない。なんだ、と思ってちらと振り向く。


 途端、背後で階段が爆発した。なっ、と足がすくむ。ミックが怒鳴る。止まるな、と叱咤され、慌てて走る。


 足元がぐらつくのも当然だ。今のぼっている階段が──次々と爆破されていく。追いつかれそうになる。止まったら死ぬ。おれは顎を上げ、犬のように荒い呼吸を繰り返し、ミックに引きずられるまま、ただ走った。


 だが。最上部を目前に、とうとうおれの真下で爆薬が炸裂した。金属が折れるやかましい軋み。崩れていく足場。足元がゆわん、と大きく傾いて、バランスが取れない。


 そのとき──どん、と胸元を激しく突き飛ばされた。視界がぐるんと転がり、ばきばきと金属が崩れる音。咳き込む。顔を上げる。


「あ──」


 落ちる階段の向こうに、ミックが取り残されている。

 とっさに伸ばした手、しかし、彼はおれに向けて叫んだ。


「行け。貴様のしたいことをしろ」


 たのむ、待ってくれ。

 そう叫び返す間すらなく──最後の爆破の衝撃が、おれを激しく吹き飛ばした。




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ