48-02 フレアスタック攻略
「ッ……!」
とっさに引き金を引いていた。
激しい破裂音とともに、ぱっ、と激しい血しぶきが飛ぶ。ミックのすぐ後ろでどさりと何かが倒れ込む音。
あ、と覗き込もうとするおれを、ミックが無理やり引っ張った。
「足を止めるな!」
「だが──」
「おまえが撃ったのは肩だ。動脈に当たっていなければ問題ない、あとは祈れ」
「く……っ」
悔恨じみたものを振り切って走った。背後を守るミックが低く、助かった、とささやく。おれは無言でうなずいた。
金属製の階段を鳴らす高い音が、上層へと近付いていく。狭い歩廊に駆け込むと、ミックが言った。
「ここが最後の踏ん張りどころだ。次の歩廊が最上部。ケイジはおそらくそこにいる」
うなずく。だが、最後の砦というだけある。階段の脇や塔の裏側から、ぞろぞろと男たちが湧いて出てきた。とん、とミックと背がぶつかる。背後から、ちっ、と舌打ちする音が聞こえた。
「……ミック。あと何発残ってる」
「七発だ。貴様は」
「一発」
「わかった。それはケイジ・ニューマンに取っておけ」
「だが」
見たところ敵の数は八人。一人につき一発使っても、一人分足りない。
おれの言いたいことなどわかっているだろうに、ミックは大丈夫だ、としか言わない。胸元で構えた銃を握りしめ、彼は不敵に笑った。
「要は、貴様さえ上に着けばいいんだ」
「おい。くだらないことを考えるなよ」
「わかってる」
そう言いながら、ミックは走り出した。おい、と止める声など聞こえていないかのようだ。
大柄の体躯が走り、たくましい脚がひるがえり、数人をまとめてなぎ倒す。おれはせめてもの援護をしようと、彼の漏らした敵を引きつけた。
おれの背後から飛びつく男に向かって、ミックが猛禽のように食らいつく。彼の手元が破裂音とともにぱっ、と光って、そのたびに男がひとり、また一人と倒れていった。
だが──限界というものはある。
ミックの引いた引き金がとうとう、がちん、がちん、と空の音を鳴らした。鋭い舌打ちの音、おれの背後で激しいもみあいの気配。ミックのナイフが飛んでいく音。
助けに入りたいが、おれはおれで必死だ。二人がかりで挟み撃ちにされ、組み付かれそうになるのを飛んで避ける。乱戦なだけあって滅多な発砲がないのだけが幸いだが、もはやそんなことは言っていられない。
背後で、ぐうっ、とうめき声が聞こえた。目の端に捉えたミックが、がくん、とその場に崩れ落ちた。
「ミック──」
反射的に銃を抜いて、しかし。
「撃つな」
血まみれのミックが吠えた。鋭くつり上がった目が、雄弁におれを見つめる。それだけは取っておけ、と。
その目が、階段の方をすっと見た。包囲は崩れていた。今なら──行ける。だが。
「俺は──いいから──」
「っ……馬鹿を言うな!」
反射的におれは、走っていた。階段のほうではなく、囲まれたミックの方へと。
飛び蹴りをかまし、倒れた男の体を振り回して、覆いかぶさる敵を背後から投げ飛ばす。
そうして引っ張り出したミックは、太腿から血を流し、ばかな、と言うような目でおれを見ていた。
「なにして──」
「おれの台詞だ、馬鹿野郎」
「馬鹿は貴様だ! せっかくのチャンスをドブに捨てやがって」
さっと背中を合わせ、周囲を確認する。敵の頭数はまだまだ残っている。残った武器は銃弾が一発だけ。ミックは負傷している。
(くそっ、ここまでか)
だが、最後まで諦めるわけには──
そう思ったとき。おれたちを包囲していた男の一人が急に倒れた。
彼らがどよめく。囲いが崩れる。床をすべる赤いポインター。男たちの身体の上を、赤い点がすうっ、とさまよっていく。
ぱっ、と血しぶきが散り、もうひとり倒れた。なにが起こっている。
驚くばかりのおれの手を、誰かがぐっ、と引いた。ミックだった。階段に一番近い男のこめかみを、ミックが銃の底で殴りつける。追い打ちのように脇腹を蹴り飛ばし、あいた隙間を突破した。階段を走る。
「ミック──今のは──」
「……あの、愚図ども。戻ってきやがった」
口調こそ苦々しかったが、彼の口の端が持ち上がっている。それでわかった。例の部下たちだ。
「なんだ。やっぱり、いい上官だったんじゃないか」
「軽口を言ってる暇があったら、走──ッ!?」
激しい爆発音。空気に衝撃が走った。
地面が揺れる。な、と言いかけた言葉が消え、足元がぐらつく。ミックがおれの手を掴む。畜生、と毒突く声。
「ケイジの野郎、こんなところで──狂ってやがる」
「なにが、起こって」
「崩れるぞ、いいから走れ!」
手を引かれ、もつれる足をなんとか動かす。ぐらぐらと足元がおぼつかない。なんだ、と思ってちらと振り向く。
途端、背後で階段が爆発した。なっ、と足がすくむ。ミックが怒鳴る。止まるな、と叱咤され、慌てて走る。
足元がぐらつくのも当然だ。今のぼっている階段が──次々と爆破されていく。追いつかれそうになる。止まったら死ぬ。おれは顎を上げ、犬のように荒い呼吸を繰り返し、ミックに引きずられるまま、ただ走った。
だが。最上部を目前に、とうとうおれの真下で爆薬が炸裂した。金属が折れるやかましい軋み。崩れていく足場。足元がゆわん、と大きく傾いて、バランスが取れない。
そのとき──どん、と胸元を激しく突き飛ばされた。視界がぐるんと転がり、ばきばきと金属が崩れる音。咳き込む。顔を上げる。
「あ──」
落ちる階段の向こうに、ミックが取り残されている。
とっさに伸ばした手、しかし、彼はおれに向けて叫んだ。
「行け。貴様のしたいことをしろ」
たのむ、待ってくれ。
そう叫び返す間すらなく──最後の爆破の衝撃が、おれを激しく吹き飛ばした。




