48-01 フレアスタック攻略
だが──おれは無事だった。そろそろと目を見開く。
「……おまえ、は」
「本当に──無茶苦茶だ、貴様」
間一髪でおれを突き飛ばしたのは、ミックだった。なぜ、と口元が勝手に動く。答える気はないらしい、ミックは猫の子のようにおれの首根っこを掴むと、自分の背後に放り投げた。
ぐっ、と声を上げて尻もちをつく。跳ねるように立ち上がる。ミックはおれを背に庇い、当たり前のように彼らに銃を向けた。
「おい」
「うるさい」
バシュッ、と発砲音。一人の手から武器が跳ね飛んだ。集団が明らかにうろたえる。なにがしかの通信があったのだろう、ミックは鬱陶しそうに手首からデバイスをむしり、放り捨てた。
「おまえ、なぜ」
「黙ってろ。立てるなら行くぞ。走れ」
「な──っ」
手首を掴まれ、強引に引きずられる。転びそうになり、慌てて足を動かした。
もつれるように階段を上っていく。ミックが振り返りざま、何発か撃った。ぎゃっ、と悲鳴が上がり、重いものが階段を転げ落ちる音。
「おい。殺すな」
「うちの人間は、あれくらいでは死なない」
あっさりと言い放ち、また手を掴まれる。振りほどいた。ミックがぴくりと眉を持ち上げる。
「自分で走れる」
「それは良かった。いいかシヅキ・J・ロウ。狙うなら胴体だ」
「だが」
「見たところ、そいつで防弾ベストを貫通できるとは思えない。的はでかいほうが楽だ。胴体を狙って肋骨を折れ」
「──わかった」
螺旋状に巻き付く階段を駆け上がりながら、正面はおれ、背後はミックが担当する。ミックの言う通り、たしかに胴体を狙うのは楽だった。
とはいえ、確実かつ、すぐに足を止めたいなら、やはり腿を撃つほうがいい。
しかもおれの素人拳銃では、中距離以上になると狙いを定めるのは厳しかった。万が一にでも、頭には当てたくない。
「──くそ、面倒だ」
「あ、おい!」
背後の叫びを無視し、正面の数名に突っ込む。
落とすなよミック、と叫ぶと、おれは一番手近な男の頭を思い切り蹴り抜いた。脳をゆさぶられ、男はがくんと意識を失う。
ぐらりとかしいだ体が手すりを越えそうになるのを、ミックがぐっと掴んだ。気絶した体を乱雑に階下へ転げ落とし、駆け上がってくる敵を足止めする。
ミックが舌打ちした。
「突っ込むバカがいるか、無茶苦茶をするな!」
「弾が勿体ない。あと四発だ」
言いながら、ぱあん、と発砲。反動で手首がじんとする。足首を撃たれた男が崩れ落ちた。しぶとく銃口を向けようとする手を蹴り飛ばす。外の夜へと銃が飛んでいく。
「これで三発」
「……節約するしかない、か」
見たところ、ミックも装備は乏しいようだ。弾薬こそおれより多少持ってはいるが、武器はナイフと銃一丁だけ。弾もおれの銃と互換性はなさそうだ。
「もうちょっと、豪華な装備で現れてほしかったよ」
「ほざけ。手を貸すだけでも感謝しろ」
「それもそうだ」
背中を庇い合うように、階段を駆け上る。冬の風がしきりに耳をびょおびょお切りつける。雪で濡れた金属階段はおぼつかなく、油断するとすぐ転びそうになる。
背後でガン、となにかを蹴り飛ばす音。追手のひとりをミックが蹴り落としたらしい。何人かまきこんで、倒れ込むような音。これで少しは時間が稼げるか。
歩廊に駆け込み、待ち構えていた数名の塊、そのうちの一人に向けて一発。肺を狙ったつもりだったが、下にそれた。腹に銃弾を喰らった男はぐう、とうめいて崩折れる。これであと二発だ。
と、肩の上になにかがとん、と乗った。ちらと見る。銃身だった。バシュッ、と鋭い発砲音。おれの肩口から火花が光った。すぐ正面の男の手からナイフが弾け飛ぶ。
「おれを銃架にするな」
「ちょうどいい位置にあったんだ」
「せめて一言言え」
言いながらも、ミックは発砲の手を止めない。おれの銃弾が乏しいのをわかっているのだろう。ひととおり撃ち終わると、行け、と目で合図される。役割分担か。
おれは歩廊の向こうにある上り階段を目指して、走った。立ちふさがる集団に突っ込んで、拳を振り上げる。
突っ込んでくるナイフを持った腕を横から殴り飛ばし、ほぼ同じタイミングで男が崩れ落ちた。防弾ベストの胸元が、弾痕の形にへこんでいる。ミックの援護だ。
せめて男たちの装備を奪えれば良かったのだが、多勢に無勢だ、そんな余裕は微塵もない。降りかかる火の粉を払い除けつつ、上へ上へと駆けのぼるだけで精一杯だ。
おれの特攻とミックの援護でなんとか歩廊を突破する。階段へと突っ込む。だんだんと息が上がってきた。上るペースがかすかに落ちる。どん、と背を叩かれた。
「もうじき上層だ、ふんばれ」
「わかって──」
肩越しに振り返ったおれの視界、その隅で、ミックに向かってナイフがひらめくのが見えた。




