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【完結】さよなら火葬場  作者: Ru
── 第7章 ──

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42-01 マイ・ホーム

 辿り着いたのは、昔の我が家だった。ダイニングに座らされる。十年前の定位置。リディアはキッチンでコーヒーを淹れている。頭はまだかなりぼんやりしていた。


 LDKを見回す。十年前からなにも変わっていなかった。なつかしいテーブル、壁に飾られたリツキの絵、大きなソファ、昔のままの映話機、ふたりで買った花柄のカーテン。


 キッチンを抜けて、リディアがカップを二つ持ってくる。対面に座ると、彼女は自分とおれの前にかちりとカップを置いた。


「疲れたでしょ。少し休んで」


 手の仕草でコーヒーを勧められ、手をのばす。リディアの目がやわらかく細められ、こんなときだけど美味しく入ったと思うわ、と静かな声。


 カップを持ち上げて、しかし指先の震えがひどい。仕方なくカップをおろした。リディアがどうしたのと小首をかしげる。


「手が震える。例の薬のせいかな」

「……そう」


 わずかな沈黙。もやもやと白んだ頭。おれは口を開いた。


「防衛省とはどういう関係だ」

「関係というほどのものはないわ。彼ら、あの映画館で私を保護してくれたの」


 リディアはさらりと言う。でもねと続く声。


「彼らもあなたを狙ってるって聞こえたから。大人しく保護されるふりをして、突入の隙を狙ってあなたと逃げたの。たぶん今頃、映画館は大乱戦なんじゃないかしら」

「早々に逃げ出して正解だったな」

「そういうこと。……ねえ、冷めちゃうともったいないわ。薬を抜くためにも、水分は取ったほうがいいんじゃない」

「……いや、今はいい」

「もう。せっかく手でドリップしたのに」


 頬をふくらませるリディアに、おれは気を取り直して尋ねた。


「警察は防衛省の味方、とはどういうことだ」

「私も小耳に挟んだだけよ。強引に警察を使って人海戦術に出たのに、あなたは見つからなかったとかなんとか。まあ、軍と警察は繋がりが強いから。手先のように使うことも、できなくはないわね」

「そう、か……」


 まだなにかが納得できない気はしたが、頭がひどくぼんやりしてうまく考えられない。

 ほら、とリディアがカップを指す。


「放っておくと酸っぱくなっちゃうわ」

「ああ──」


 生返事をしながら、考える。なにがおかしいんだ。もやがかかった思考の向こうに、たしかな違和感。記憶をさぐり、考える。


 そのとき、ふと思い浮かんだ。


『警察は防衛省の味方よ。今なら見逃してくれる』


 だが、あのとき。路上にはリディアとおれしかいなかった。つまり。


(リディアは警察から、防衛省側の人間と認識されている──?)


 顔を上げる。彼女は困ったようにおれを見つめていた。やわらかい声が、そっと語りかける。


「あの旧式のコーヒーメーカーよりは、おいしく入ってるわよ? 難しい話なら、一息入れてからのほうがいいと思──」

「リディア」


 強引に言葉をさえぎり、呼びかけて。おれは小さく息を吸う。


「なにを入れた?」

「……」




 

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