36-01 トッカータ
ミックはためらうことなくジェームズの椅子に座った。すぐ傍に自分の殺した死体が転がっているというのに、驚くべき度胸だ。おれはさりげなく赤黒いものを視界に入れないように目を背けながら、対面に座った。
ゲーム盤の用意をしていると、ミックがおい、と呼びかけてきた。
「なんだ」
「俺は貴様と違って、頭を捏ねくり回すのは得意じゃない」
「そうだろうな」
「だから──俺の得意なことをさせてもらう」
その上でなら、ゲームに応じる。低く言うと、ミックはすっとリボルバーを取り出した。思わず背がひやりとして、腰を浮かせかける。しかしそんなおれを放って、ミックは淡々とリボルバーをいじりはじめた。
ばらばらっ、と音を立て、銃弾が机に散らばる。その中から一発だけをつまみ取り、節くれだった指が弾を込めた。ジャッ、とシリンダーを手のひらで回転させ、テーブルの中央、ゲーム盤の隣に置く。ミックはそれきり手を止めた。
ためらいのない目でまっすぐに見つめられ、おれは自分の喉がひりつくように乾くのを感じる。
「ロシアンルーレット……」
「ああ。駒をひとつ取るたびに、引き金を引く。ただし撃つのは相手の額だ」
これならシリンダーの中が見えても構わないからな、と続けるミックの声はあまりにも冷静だった。思わず、薄くくちびるを舐める。表情が歪んだ。
「……いい度胸だ」
五分の猶予どころじゃない。とんでもない大盤振る舞いだ。ただしリスクはそれ以上に跳ね上がったが。
「額以外を撃つのは?」
「構わない。ただし、その時点で負けだ」
「ちなみに、撃たれる直前に突っ伏したり、逃げたりは」
「その瞬間、俺は貴様を確保する」
「……だろうな」
完全に手が止まってしまったおれをよそに、目の前の男は淡々と駒を並べている。その口ぶりからは、おれはともかく、ミック自身が銃口から逃げることは絶対にない、と伝えているようだった。命を賭けるというのに、ここまで冷静だとは。
(もしや──絶対の勝算があるのか)
たとえば、リボルバーに細工がしてあるとか、さっきの回転で、弾の位置をすでに把握しているとか。
ごくりと唾を飲み込み、おれは口を開いた。
「一発ごとに、シリンダーを回してもいいか」
「むしろその方がいい。公平だ」
「……っ」
さらりと断言され、さらに頬がこわばった。どういう神経をしているんだ、この男は。それとも、シリンダーを回したくらいでは揺るがない勝算が? 唖然とする。
駒を並べ終わったミックは、顔を上げておれを見た。迷いもためらいもない、まっすぐな瞳だった。
(くそ、度胸なら奴のほうが上か)
役者の中でも、おれはプレッシャーには強い方だった。反社会的な人間があつまる火葬場で、それなりの修羅場だってくぐってきたつもりだ。だが、この男の前でそれは通用しないらしい。
「先攻はどうする」
「ダイスに聞いてくれ」
「わかった」
ミックの手から、硬い音を立ててダイスが転がる。偶数。先攻はおれだ。ダイスを見たミックは、黙っておれを促した。視線が交わり、勝負がはじまる。
小さく息を吸うと、おれは駒をひとつ手にとった。盤面を眺めわずかに考え込むと、無難な箇所に駒を置く。一方のミックはなんの躊躇もなく、即座に駒を置いた。




