24-01 ミック・リー
いつまでも止まない音に、そろそろと手を動かす。目の前で、ぴく、と引き金の指がひきつるのが見えた。首を振る。とっさに言った。
「も──元妻から、通話が入った。せめて最後に、話をさせてくれ」
せいぜい悲壮感を漂わせて懇願する。別の男から、信じられるか、と硬い声が飛んだ。
「どうせ嘘だろう。さっさと投降しろ」
「頼む。少しでいい。嫌いで別れた女じゃない」
「なにを企んでいる。逃げられっこない」
「本当に、数分でいいんだ!」
混じり合う罵声とおれの弁明に、銃を構えた男はひどく苦い顔をした。
「……早くしろ」
ため息交じりに吐き捨てる鷹の目の男。予想よりあっさり認めたことにおれは驚く。それは他の男たちも同じだったようだ。どよめき、そして鋭い声。
「小隊長! なぜ──」
「それ以上喋るな。これは、命令だ」
(──小隊長?)
ひく、と眉が動く。どうやらこの三人は、単なるゴロツキではない。なんらかの〝隊〟のようだ。そして鷹の目以外の男たちは、どうも無自覚に口が軽いらしい。奴にとっては苦労の種だろうが、おれにしてみれば幸運だ。
その辺りをおくびにも出さず、感謝する、と引きつった笑みを作る。そしてそっと手首に触れると、耳に手を当てた。やあ、とわざとらしく呼びかける。
この通話で、なんとか時間を稼ぎつつ、あわよくば助けを求めたい。そんな思惑は、しかし、いともあっさりと打ち砕かれた。
『──バイオライフは嘘だね?』
「っ……!」
唐突きわまりない切り出しに、おれはぐっと息を呑む。なにを返せばいいか判断できないうちに、〝依頼人〟は畳み掛けてきた。
『調べてみたら、どいつもこいつもインフィニティじゃないか。なぜ嘘を? 火葬料金を上乗せしたかった? ああでも、コース料金に入っているんだったかな』
うまく返事ができない。冷や汗をかきながら、ひたすら視線をさまよわせる。状況は変わらない。退路は見つからず、銃口は前後からおれを狙っている。通話相手に助けを呼べる雰囲気もない。
消音器付きの銃を握る男が、いぶかしむように目を細めた。通話相手がリディアでないとばれたら、撃たれる。おれはわざとらしく肩をすくめ、いやあ、と笑いを浮かべた。
「その件に関しては、ちょっと行き違いがある、としか言えないな……」
急にフランクになった語り口を、しかし依頼人は不自然がらなかった。そんなことはどうでもいい、とばかりに話を続けてくる。
『安置室にリボンを置いて出たのは失策だったね』
遠回しに棺を開けたことを咎められ、おれは顔をしかめた。低く声をひそめる。
「……入ったのか」
火葬場は施錠されていたはず。業務用の電子錠をハッキングしたのだろうか。しかし依頼人は、おれの思考を先読みしたように低く笑った。
『回りくどい真似などせずとも、IDならすぐに手に入る』
「まさか──」
うちの鍵を開けられるIDの持ち主など、ひとりしかいない。リディアの顔が脳裏をよぎる。すうっと足の裏が冷たくなった。
さっきの通話、彼女の様子はおかしかった。なにかあったのか、と尋ねたときの硬い声。おれはなぜあのとき、もっと深く事情を聞かなかった。
「……無事なのか」
かろうじてささやいた声は、ひどく掠れていた。おかしそうに、喉の奥で笑う声が聞こえてくる。
『リディア・スミシーなら健在だよ。今のところはね』
「なにをすればいい……」
『物わかりが良くて助かるよ。なに、正直に答えてくれればいいんだ。棺を開けて、それから君はどうした?』
「どうって、あちこち整えて、それから──」
途端、電波の向こうで笑い声。それはひどく歪んでいた。
『回りくどいな。いくらもらった? いつ接触を受けた』
「なんのことだ」
『正直に、と言ったろう。何も知らないリディア嬢が、どうなってもいいと?』
「ち──違う、そうじゃない」
『君の返答次第では、リディア・スミシーも道連れだ』
「だから──」
『無駄口は嫌いでね。まっすぐ答えろ。死体を、渡したんだろう?』
「違う! 奪われただけなんだ! さっき取り返した!」
思い切り叫んでから、気付く。まずい。
さっと男の方を見る。すべてを察した鷹の目が、冷え切った銃口と共におれを見つめていた。




