表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】さよなら火葬場  作者: Ru
── 第4章 ──

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/111

24-01 ミック・リー

 いつまでも止まない音に、そろそろと手を動かす。目の前で、ぴく、と引き金の指がひきつるのが見えた。首を振る。とっさに言った。


「も──元妻から、通話が入った。せめて最後に、話をさせてくれ」


 せいぜい悲壮感を漂わせて懇願する。別の男から、信じられるか、と硬い声が飛んだ。


「どうせ嘘だろう。さっさと投降しろ」

「頼む。少しでいい。嫌いで別れた女じゃない」

「なにを企んでいる。逃げられっこない」

「本当に、数分でいいんだ!」


 混じり合う罵声とおれの弁明に、銃を構えた男はひどく苦い顔をした。


「……早くしろ」


 ため息交じりに吐き捨てる鷹の目の男。予想よりあっさり認めたことにおれは驚く。それは他の男たちも同じだったようだ。どよめき、そして鋭い声。


「小隊長! なぜ──」

「それ以上喋るな。これは、命令だ」


(──小隊長?)

 ひく、と眉が動く。どうやらこの三人は、単なるゴロツキではない。なんらかの〝隊〟のようだ。そして鷹の目以外の男たちは、どうも無自覚に口が軽いらしい。奴にとっては苦労の種だろうが、おれにしてみれば幸運だ。


 その辺りをおくびにも出さず、感謝する、と引きつった笑みを作る。そしてそっと手首に触れると、耳に手を当てた。やあ、とわざとらしく呼びかける。


 この通話で、なんとか時間を稼ぎつつ、あわよくば助けを求めたい。そんな思惑は、しかし、いともあっさりと打ち砕かれた。


『──バイオライフは嘘だね?』

「っ……!」


 唐突きわまりない切り出しに、おれはぐっと息を呑む。なにを返せばいいか判断できないうちに、〝依頼人〟は畳み掛けてきた。


『調べてみたら、どいつもこいつもインフィニティじゃないか。なぜ嘘を? 火葬料金を上乗せしたかった? ああでも、コース料金に入っているんだったかな』


 うまく返事ができない。冷や汗をかきながら、ひたすら視線をさまよわせる。状況は変わらない。退路は見つからず、銃口は前後からおれを狙っている。通話相手に助けを呼べる雰囲気もない。


 消音器付きの銃を握る男が、いぶかしむように目を細めた。通話相手がリディアでないとばれたら、撃たれる。おれはわざとらしく肩をすくめ、いやあ、と笑いを浮かべた。


「その件に関しては、ちょっと行き違いがある、としか言えないな……」


 急にフランクになった語り口を、しかし依頼人は不自然がらなかった。そんなことはどうでもいい、とばかりに話を続けてくる。


『安置室にリボンを置いて出たのは失策だったね』


 遠回しに棺を開けたことを咎められ、おれは顔をしかめた。低く声をひそめる。


「……入ったのか」


 火葬場は施錠されていたはず。業務用の電子錠をハッキングしたのだろうか。しかし依頼人は、おれの思考を先読みしたように低く笑った。


『回りくどい真似などせずとも、IDならすぐに手に入る』

「まさか──」


 うちの鍵を開けられるIDの持ち主など、ひとりしかいない。リディアの顔が脳裏をよぎる。すうっと足の裏が冷たくなった。


 さっきの通話、彼女の様子はおかしかった。なにかあったのか、と尋ねたときの硬い声。おれはなぜあのとき、もっと深く事情を聞かなかった。


「……無事なのか」


 かろうじてささやいた声は、ひどく掠れていた。おかしそうに、喉の奥で笑う声が聞こえてくる。


『リディア・スミシーなら健在だよ。今のところはね』

「なにをすればいい……」

『物わかりが良くて助かるよ。なに、正直に答えてくれればいいんだ。棺を開けて、それから君はどうした?』

「どうって、あちこち整えて、それから──」


 途端、電波の向こうで笑い声。それはひどく歪んでいた。


『回りくどいな。いくらもらった? いつ接触を受けた』

「なんのことだ」

『正直に、と言ったろう。何も知らないリディア嬢が、どうなってもいいと?』

「ち──違う、そうじゃない」

『君の返答次第では、リディア・スミシーも道連れだ』

「だから──」

『無駄口は嫌いでね。まっすぐ答えろ。死体を、渡したんだろう?』

「違う! 奪われただけなんだ! さっき取り返した!」


 思い切り叫んでから、気付く。まずい。

 さっと男の方を見る。すべてを察した鷹の目が、冷え切った銃口と共におれを見つめていた。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ