表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】さよなら火葬場  作者: Ru
── 第4章 ──

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/111

23-02 カーチェイス

 薄暗い空間に、デバイスの光だけが浮かんでいる。おれはデバイスを操作して、視界に表示される車窓の風景をじっとにらんだ。


 ドライブレコーダーからの映像だけを頼りに、車を操作するのは骨が折れた。どうしても荒っぽい運転になる。だが、すでに身を隠したことをごまかすためにはしょうがない。


 ウィンドウを複数立ち上げ、前後の風景を確認しながら運転する。しばらく運転していると、どうやらアンテナ車がおれを見つけたようだ。後方に、黒い枝のようなものが見え隠れしていた。あいだに挟まった数台を抜こうと、左右にゆらゆらしている。


(あまり露骨で雑な運転をすると、点数が引かれるぞ)

 そんなことを気にする輩でもないだろうが。さっき三十点以上も引かれたことを思い出し、うなだれきったトビー青年を思い浮かべる。恨むならこいつらを恨めよ、と心中でうそぶいた。


 精度の低い運転を繰り返し、検問を避けつつ、だんだんと人気のない方へ向かっていく。できるだけ、追い詰められた末の動きだと見せかけた。ウィンカーを、出してはすぐに引っ込めてみたり、同じ道をぐるぐる回ってみたり。地図とフロントモニターとバックモニターを確認しながらの遠隔運転、しかもブラフ付きとなると、なかなか大変だ。


 しかしその甲斐あって、彼らの動きはだんだんと露骨になっていった。やや強引な動きで車線変更と割り込みを繰り返し、着々とこちらに近付いてくる。


 そして、空いた二車線の道に出ると、奴らは一気に距離を縮めてきた。モニターの中でフテラの姿がみるみる大きくなる。ウィンカーの点滅。横並びになる気配。おれはようやく、詰めていた息を吐いた。


 運転席にはもちろん誰も乗ってはいない。助手席も、後部座席もだ。ただ背後から気づかれては困るので、トビー青年の荷物でそれっぽい人影を作っておいた。


 やっとこいつが囮だと気付いたらしい。白いフテラが慌ててターンするのが見えた。対向車を押し退けるように引き返していくアンテナ車。ここからだ。


 おれはデバイスを操作し、安全装置を緊急解除する。モニターを注視しながら、勢いよく方向転換した。タイヤが派手にこすれ、車体が傾く。なびくアンテナの後ろを、今度は製薬会社の車が猛然と追いかけはじめた。


 カーチェイスと呼ぶにふさわしい行為だった。

 けたたましいブレーキ音と荒々しい運転がふたつ、冬の街を駆け抜ける。アンテナ車はうっとうしそうにおれを振り切ろうとするが、なんとか食らいつく。三十秒限定の安全装置解除を何度もかけなおし、福祉点数を湯水のように浪費して、法定速度を知らせる警告ランプを無視する。


 おれはあちこち曲がるフテラを追いかけ回し、食らいつき、後ろから何発か、派手にぶつけてやった。つんざくような警告が鳴り響く。もちろん、これも無視だ。


 とうとう苛立ちがピークを迎えたらしい。モニター越し、フテラから身を乗り出す人物が見えた。鷹の目の男だった。ものすごい形相をしている。狭い裏路地に駆け込むフテラを追いかければ、鷹の目が銃を取り出すのが見えた。


 いくら人気のあるところに誘導しても、相手が無人機なら無駄だと思ったのだろう。ぱっ、と無骨な手元が明るくなる。反動で、男の手がかすかに後ろに跳ねる。途端、がくっ、と車体のコントロールがきかなくなった。タイヤを撃たれたのだ。


 続けざまに二、三発。車体が左右に揺れ動く。完全に足を潰された、と悟ったときにはもう、鷹の目はフテラに身を滑り込ませていた。


 制御を失った車体が回転する。あっ、と思う間もなかった。斜めから壁に突っ込む。金属が潰れ、建築材が砕ける音。フロントガラスにひびが入る。もうもうと黒煙が立ち上る。


 映像が途切れる寸前、最後に見えたのは、逃げるように去っていくフテラの姿だった。

 けたたましいアラートにノイズがまじりはじめ、警告ランプの色が薄くなり、電波が途絶えたことを示すアイコンが表示される。暗闇が訪れる。それきり──無音。


 一分ほど待つ。

 しいん、とした静寂があった。おれは大きく息をつく。

 そして、勢いよく天井を蹴り上げた。ガン、と蓋が跳ね上がる音。まばゆい光が目を焼く。思わず目を細めた。ゆっくりと身を起こす。


 辺りには──ひどい黒煙と、瓦礫による埃が立ち込めていた。ハルカを抱いたまま、おれはなんとか隠れ場所──車のトランクから這い出す。


「……ひどいありさまだな」


 壁は壊れ、ボンネット周辺が完全にひしゃげていた。車体から燃料が流れ出し、今にも引火しかねない。煙もひどい。何度か咳き込んでしまった。


 上空を見上げる。濃色の煙が、まっすぐに立ち上がっている。煙とにおいで人が集まるのも、時間の問題だろう。


 幸い、彼らはおれがとっくに車から離れたと思っている。今のうちに身を隠した方がいい。

 おれは細い身体を抱きなおし、足早にその場を駆け去った。




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ