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【完結】さよなら火葬場  作者: Ru
── 第3章 ──

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20-01 脱出

 屋外へ派手な風穴を開けたものの、おれはそちらには向かわなかった。優先すべきはハルカだからだ。


 小さく咳き込む音がした。壁にめりこむ車の下、男が倒れていることを目の端で確認する。頭を振って、降り掛かった細かな破片をはらうと、おれは跳ねるように立ち上がった。走り出す。


 もう正体を隠すつもりはなかった。病院内を強引に走り抜ける。途中で男の連れらしい二人を蹴り飛ばし、階段に駆け込む。七階まで一気に駆け上がった。


 リネン室のドアを跳ね開ける。ばしん、と大きな音。扉の向こうで看護師がぎくりと立ちすくんだ。おれは彼を突き飛ばし、リネンをかきわけ死体を探す。


 シーツや枕が並ぶ中、奥にいくつかマットが立てかけられている。ひとつだけ不自然に太く巻かれたマット──あった。


 突き飛ばされた看護師が、ようやくよろよろ立ち上がった。通報のためか、手首に手をやろうとしている。それを放って、マットを開く。


 ハルカは果たして、そこにいた。ごろりと転がり出る死体に、看護師が喉の奥で悲鳴を上げる。その声が高いものになる前に、おれは細い身体を抱き上げて駆け出していた。


 弛緩したなきがらを抱きしめ、廊下を走る。まっすぐに階下を目指そうとした時、さっき蹴り捨てた二人組が追ってきた。慌ててターンする。


(くそ、鬼ごっこか……!)

 たった二人とはいえ、見る限りこいつらも相当鍛えている。鷹の目ほどではないのが、まだわずかな救いだった。


 静かな病棟内に、おれと追跡者の足音が激しく鳴り響く。さすがにここでは銃は使えないらしい。それなら、距離さえ保てばなんとかなる。


 おれはハルカを抱いて、階下に向かってひたすら逃げた。エレベーターは使えない。密室で一緒になったら逃げられないからだ。それに乗り合わせを避けたところで、降りたら待ち構えていた、なんてこともありうる。


 まっすぐに下を目指すつもりが、追われて逃げてを繰り返すうち、何度も上がったり降りたりするはめになっていた。どれだけの扉を開けたかわからない。その中には立入禁止の区画も多かった。トビー青年のデバイスがなければ、とっくに捕まっていただろう。


 勢いよく階段を駆け下りる。腕の中の身体はつめたく冷え切っていて、段を降りるたびに垂れた腕がぶらぶら揺れた。しっかりとした重みがあった。


 十年前と同じシチュエーション。でも今の方がもっとシビアだ。それなのに、いや、だからだろうか。不思議なくらい現実感がない。全身のリミッターが外れたようだった。


 ようやく二階へ辿り着こうというとき、さらに階下から荒々しい足音がした。慌てて二階へ出ようとすると、廊下の両サイドからも追手が迫っている。鷹の目の男もいた。


「これだから、タフな男は嫌いなんだ……!」


 悪態をつき、即座に引き返す。下には降りられない。だがこいつらは合わせて三人。下にひとり、二階にふたり。つまり上はがら空きだ。戻ることはできる。


 階段を三段飛ばしで駆け上がりながら、心臓が破裂しそうだった。どうせなら十年前、心肺機能も入れ替えておけばよかったと心底思う。外れた脳のリミッター、しかし肉体には確実に負荷がかかっていた。


 階段を上り、角を曲がりかけては引き返し、上がったり下りたりを繰り返し、なんとか追手を撒く。結局、四階まで逆戻りしてしまった。


「……っは、はあっ、はっ、は……」


 いくら脳が騙されていても、これ以上は物理的に保たない。身体限界を、心底痛感する。とにかく身を隠して、一分でいい、息を整えなければ。


 ハルカを抱いたまま、無理な姿勢で手首を叩く。館内図を見るとすぐそばに薬品保管庫があった。医師ですら認可が下りないと入れないだろう部屋。だが。


 製薬会社の青年の顔が思い出される。極秘の新薬サンプルを運んでいた、という発言。

(このデバイスなら──)

 人目がないことを確認し、薬品保管庫の前に立つ。脚に力を込めたまま、おれはそっと認証に手を押し当てた。盛大なエラー音を覚悟する。


 いつでも走り出せるようにと身構えるおれをよそに、しかし聞こえてきたのは小さな電子音と、錠が回る軽い音だった。


(開いた──)

 慌てて身を滑り込ませる。ドアが閉まると同時に、自動でロックがかかった。


 まずはハルカを床に寝かせる。左右に視線を走らせ、もっとも近い棚に手をかけた。動かすことを想定していないのだろう。棚は相当に重く、おれが動かすたびずっ、ずっ、と床に深く傷を残していく。


 ようやく棚でドアを塞ぐと、おれはふうっ、と息を吐いた。と、ちょうど目の高さに、ひとつの瓶がある。そこにはピンクのマジックで、〝極秘〟とでかでか書かれていた。


(これは……)

 思わず手首を見る。このデバイスは相当活躍してくれた。これがなければ、おれはとっくにあの世行きだったろう。


 デバイスを見て、薬瓶のサンプルを見て、考え込む。瓶の隣には、ずいぶんと厳重な警報のついた金庫があった。こんなところに入っていたらどうしようもなかったが、この瓶はむき出しで放り出されている。回収は──たやすい。




 

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