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【完結】さよなら火葬場  作者: Ru
── 第3章 ──

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14-01 潜入

 少し遠くから入口を見やる。やる気のなさそうな中年男性が、警備窓口に座っていた。


 しばらく観察していたが、ソーシャルゲームでもしているのだろう。彼はデバイス操作に夢中だ。たまにちらりとID照合ランプの色を見るくらいで、顔などは確認せずほとんどの人を通している。これなら、さっと入れば問題ないだろう。


 おれは大股で歩み寄り、窓口でIDをかざした。ポン、とグリーンのランプがつく。そのまま中へ行こうとして、しかし。


「──ただいま戻りました。どうぞ、休憩行ってください」


 交代で、若い警備員がやってきた。中年がデバイスから顔を上げ、おう、と笑って立ち上がる。若者は制帽に手をあて、おれに会釈すると椅子に座った。

 薄青い瞳が照合画面を確認する。すぐに微笑みがおれを見た。


「……すみません。ちょっと待ってくださいね」


 腰を上げる警備員。心臓が、嫌な感じにぎくりとする。彼はにこやかに窓口から出てきた。さりげなく入口ドアを塞ぐ位置に立たれ、穏やかな微笑み。これは──まずいか。


「このIDの持ち主であるトビー・ブラウンとあなたは、別人と見受けられますが。どういうことでしょう?」


 動揺が沈黙を呼ぶ。さっき見ていた限りでは、照合機に、顔写真の表示はなかったはずだが。その疑問に答えるように、警備員はうっすら目を細めた。


「彼とは顔見知りで。世間話くらいはする仲なんです」


 くそ、運がない。どくどくと心臓が鳴る。おれは平静を装って、頬を苦笑の形にした。


「やあ、トビーがいつもお世話になっているようで。ぼくは同僚のイアンと言います」


「ご同僚……ですか」


 ええ、と頷き、ちらりと照合機を見やる。


「うち、取引先病院に出入りする専用のIDがひとつあって、部署内で使いまわしてるんです」


 堂々と嘘をついた。そんな馬鹿な、という顔をされ、おれは表情を切り替えると大きなため息をつく。


「要は管理費をケチったんですよ。ほんっと下らないですけど」


 わざと思い切り吐き捨てるように強調する。警備員の瞳に、かすかな興味が宿った。彼はちら、と左右を見回し、声をひそめる。


「……それ、まずくないですか」


「……めちゃくちゃまずいです」


 顔を近づけ、同じ声のトーン、同じ表情で返した。ついでにちょいちょい、と指先で手招きする。彼が近付いたのを見て、さらに声を低くした。


「実はシステムと経理の仲が悪くて。システムは頭を下げたくないんでしょうね。どこでもあるじゃないですか、そういうの」


 ひそひそと、〝げんなり〟をにじませて囁く。すっかり信用したらしい。警備員はうわあ、という顔をした。おれはひょいと身を離し、ため息まじりに肩をすくめる。


「馬鹿みたいですけど。でもぼくの立場じゃなにも言えないんですよね。しがない中途採用二ヶ月目なんで……」


 ああ、と納得の表情をされた。だから顔を知らなかったのか、と思ったらしい。そういうことです、とばかりに頷く。困ったように笑ってみせた。


 おれは口元の笑みはそのままに、不意に眼差しの奥に真剣さをにじませる。唐突に声のトーンを落とし、冗談半分、残りはかなり本気、という声音を作って、言った。


「あの──ぼく、いずれ出世して改革に乗り出すので」


 いきなりの真摯な声に、警備員は目を丸くする。おれの表情をじっと見た彼が引き込まれたことを確認し、すとん、と肩の力を抜く。目元をやわらかくする。


「……なので、今のところは黙っててください」


 最後にそれだけを苦笑交じりにささやき、そっと微笑んだ。ぱちぱち、とまばたく警備員。わずかな沈黙ののち、ぷっ、と彼が吹き出した。


「あなた、面白い人だなあ」


「そうですか?」


「本気で自社に革命を起こす気でしょう」


「ばれましたか」


 しれっと言う。彼はますますおかしそうにする。


「ははっ、二ヶ月目の人がする顔じゃないですよ」


「ひどいなあ」


 おれは指先で頬をかくと、照れたように笑ってみせた。警備員も肩を揺らし、くすくすと笑う。その顔に警戒心はもう見られなかった。




 

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