12-02 検問をゆくのは
おれは俯いて、なんとか丁寧な言葉を選ぼうとした。
「すまないが、急いでいる。検問には協力しているんだ。早く終わらせてもらえないだろうか」
警官は眉を持ち上げて顔をしかめた。
「急ぎって、なんの用事だ。死体を焼き捨てるお仕事か?」
「私用だ」
「じゃあなぜ許可証を持ち歩く?」
「それは──仕事の帰りだからだ」
「へえ。どこで」
「悪いが守秘義務がある。故人と依頼人の名誉に関わることだ」
はっ、と警官が嘲った。
「有機資源をあの世に持ち逃げする、愛のない人間に、名誉なんてあるのかね」
「──……っ」
耐えろ。
何度も心中でそう唱え、おれは手を握りしめる。深呼吸を繰り返す。苦し紛れに手の甲を指先で三度叩くと、なんとか鼓動が落ち着いた。
おれはゆっくりと顔を上げ、協力は惜しまない、とつぶやいた。
「だが、おれ一人が検問の時間を奪いすぎれば、他の市民の方に迷惑をかけてしまう」
ちらりと後ろを見やる。続く車列はますます長くなっていた。つまらなさそうに警官が目を細める。
「だったら、後ろ暗いことは全部ここで吐いていけ」
「そんなもの──」
「あるだろ、条例違反の一つや二つ。それで目をつぶってやるって言ってるんだ」
福祉点数稼ぎか。どこまでも下種な連中め。
おれは歯噛みすると、さっき路上で汚い言葉を使った、と低く言った。
「場所は」
「第七区画のはずれ。フィーニク火葬場の近くだ」
「第七? 住宅街じゃねえか。なんで火葬場が」
すわ違法開業かと目を鋭くする彼らに、違うとため息をつく。
「法改正前からあるんだ。代々続いてる」
「なんだよ。使えねえな」
最近点数悪いってのに、と愚痴めいたつぶやき。治安回復が商売の連中にとっては、世に悪事がはびこる方が都合がいいのだろう。
おれは黙って認証を開き、火葬場の住所を送った。数秒もしないうち、視界の隅から減点の通知が滑り込んでくる。ビー、と小さな警告音。
『福祉点数がマイナスになっています』
また税金が増えたようだ。ため息を押し殺したそのとき、遠くからサイレンの音が迫ってきた。なんだ、と警官たちが顔を上げる。検問待ちの車が次々路肩へ寄っていった。
ダッシュボード、燃料メーターの横に緊急車両通過アラートが光る。ハンドルが回転して、おれの車も路肩へ寄っていく。ミラーを覗けば、遠くに救急車が見えた。
けたたましいサイレンの音がみるみる大きくなる。検問の警官たちがばらばらと道をあけた。近づく車両。
真っ赤な光を撒き散らし、救急車が通り過ぎる。サイレンの音程ががくんと低くなる。その背後にぴったりつけて──一台の車が追走していった。
「な……っ!」
(あれは──)
ものすごい勢いで走り去った二台。救急車の後ろ、緊急を知らせるランプを点灯させ、猛烈な速度で走るのは間違いない。
白いフテラ、第四世代、風に震える長いアンテナ。
(犯人たちの車……!)
「協力はした! もういいだろう!」
「あっ、おい待──」
怒鳴りつけ、アラートが消えるのと同時に発進させる。タイヤのこすれる派手な音。背中にGがかかる。
作動しかけた自動運転を叩き切る。おれはハンドルを強引に握ってアクセルをベタ踏みした。
みるみる検問が遠ざかっていく。あっという間に豆粒のようになった警官たち、彼らが映ったミラーから視線を離すと、ぐっと目元に力を込めた。
なんとか、見失わずに済んでいる。救急車のサイレンが聞こえるから、多少離れても大丈夫だろう。おれは数台隔てて奴らを追った。
大半の車が避けていく中、このまま追跡すると気付かれるかもしれない。だがナンバーは覚えた。念のため、視界のスクリーンショットも取る。デバイスから大きくシャッター音が鳴った。
(他に今できることは……)
浅くなる呼吸で考える。
途中で二台ばらばらになられると面倒だ。だが、検問はかなり大掛かりだった。おそらくは街中に張り巡らされている。あの追走用緊急ランプは救急車側から許可がないと点灯できない。救急車もグルだ。検問が敷かれている間は、二台が離れる可能性は低かった。
サイレン音をしばらく追いかけて、高架に乗ったのを見届ける。噛み締めた口元から、ようやくかすかに息が漏れた。
ここら一帯の病院は把握している。救急車が入っても不自然でない病院で、この高架を通るのは一箇所だけ。
(レーマー大学附属病院……)
奴らの行き先はそこだ。
唾を飲み込むと、ぎっとハンドルを握り直す。おれは頭の中で最短ルートを思い浮かべると、高架には乗らずに下道を曲がった。




