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【完結】さよなら火葬場  作者: Ru
── 第2章 ──

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20/111

10-02 マヒナ・ルル・サリヴァン

 考え込むおれをよそに、マヒナはそっと視線をこちらに戻した。諦めたほうがいいですよ、と言う。


「それにハルカは今、別のことに夢中ですから」


「別のこと?」


「──革命」


 どきりとした。青い炎が脳裏によぎる。

 マヒナは自分のことでもないのに、恥じらうように目元を染めた。


「その……彼女、ずいぶんガラサに傾倒しちゃってるんです」


 革命という単語から連想したが、やはりそうだったのか。

 黒い三つ編みを指先でいじりながら、マヒナはためらいがちに言う。


「学校をリモートにして、時間を見つけては街頭デモに行ったり、オンラインのディベートに参加したりしてるみたい。愛と革命のためだって」


 相当な熱の入れようですよ、と小さな声。


「少し前も、ガラサを馬鹿にした先生を思いっきり論破して、休学騒ぎになりかけましたし」


「……かなりすごいね」


 そうとしか言いようがない。強烈なキャラクターだと聞いてはいたが、ここまでだったとは。たしかに芸能界入りは無理だろう。舌禍のためスキャンダルを連発するのが目に見えている。


(しかし……ハルカ・シノサキがガラサに傾倒していた?)


 完全に予想外の情報だった。だったらなぜ、彼女はフィーニク火葬場にやってきたのか。


 ガラサは火葬を目の敵にしている。そのガラサに心酔しているハルカが、自分から火葬を希望するはずがない。火葬許可証の死亡者IDが重複していたことを思い出した。やはり書類はすべて偽造、ハルカは火葬を希望していなかったということか。あるいは、なんらかの心境の変化があったか。


 伝聞から考えると、彼女はずいぶん極端な性格のようだ。ガラサに傾倒していたものの、なんらかの要因でそれが正反対に振り切れた──というのも、ないとは言い切れない。

 考え込むおれを、紫色の瞳がじっと見つめている。おれは肩をすくめると、そうかい、とつぶやいた。


「やっぱり、ちょっと難しいかもね。ありがとう。そうだ、他にも聞きたいことがあるんだ」


 むしろこちらが本題だった。おれはアンテナ車について尋ねる。マヒナはきょとんとしていたが、ああ、と目をまばたかせた。


「駅に行く途中で見ました。全然違うところですけど」


「そうかい。かなり置いていかれちゃったな。詳しく聞かせてくれる?」


 うなずいたマヒナはすっとデバイスを変形させ、地図を見せた。一点にピンが落とされる。住宅街と緑地の境界だった。ずいぶん人気のなさそうな場所だ。


「ここで見ました」


「どっちへ向かったかわかる?」


「いえ……」


 マヒナが首を振る。さすがにそこまでは見ていなかったか、と思ったが、彼女は思いもよらぬことを行った。


「ずっと駐まっていましたから。どこへ行ったかはわかりません」


「え──ずっと?」


「はい。駐車許可証のランプも出てないのに路肩にずっと駐まっていて、変だなと思ったから覚えていたんです」


 忘れ物を取りに戻っても、その後もう一度家を出ても、まだそこにいたんです。そう言ってマヒナはいぶかしむ顔をする。

 おれは内心の戸惑いを隠して、安堵したような顔で笑ってみせた。


「きっとその車かな。他になにか覚えていることは?」


「ええと……そういえば、中の人は怒ってたみたいですよ」


「なにか聞いたの?」


「横を通るときに少しだけ声が聞こえて。窓越しなので何を言ってるかはわかりませんでしたけど、ちらっと見たら男の人が怒鳴ってるみたいでした。耳に手を当ててたので、たぶん通話です」


 どんどん出てくる情報に、よし、と心の中でつぶやく。おれはもう少し情報を引き出そうと、カマをかけることにした。


「男の人。もしかしてディレクターかな……目つきの鋭い人がいなかった? こういう」


 人差し指で目尻を釣り上げてみせる。マヒナがうなずいた。


「通話してた人ですね。いわゆる〝鷹の目〟みたいというか……かなり、きりっとした人でした」


「──そうかい」


 予想通り。どうやらマヒナが見たのは死体を盗んだ男たちで確定のようだ。


 しかし、家を出て、戻って、また出たときもそこにいた、とは。死体を盗んだのなら早く立ち去りたいはずなのに、なぜいつまでもそんなところにいるのだろう。


 仮に動けない事情があるのなら、まだピンの場所にいる可能性はある。さっさと追いかけた方がいいだろう。


「ありがとう。おかげで追いつけそうだ」


「いえ……あの。すみませんでした。ハルカのこと」


「構わないよ。教えてくれて助かった」


 じゃあぼくはこれで。やや早口で切り上げると、マヒナはぺこりと頭を下げた。長い三つ編みが揺れる。


 駐車場に向かうおれの背を、紫の瞳がじっと見つめている。そんな気配をなんとなく感じながら、おれは自分の足取りがどんどん早くなるのを感じていた。




 

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