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【完結】さよなら火葬場  作者: Ru
── 第2章 ──

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09-02 純粋な視線

 少年はまだ高揚を隠しきれない瞳でおれを見つめている。あのっ、と何度目かの呼びかけ。


「僕……シヅキさんのこと信じてますからね」


 無垢な瞳、根拠のない信頼に満ちた表情。おれはひく、と喉の辺りが動くのを感じた。きらめく目で少年が続ける。


「あんなこと、シヅキさんがするわけないです。芸能界って怖いところでしょう。きっと事情があったんですよね。誰かにはめられたんだ。でなきゃあんな──」


「──ああそうだ、聞きたいことがあってね!」


「えっ?」


 気がつけば語気を強くして、ほとんど反射的に言葉を打ち消していた。少年がぽかんとした顔をしている。浅くなった呼吸をごまかすため、とりあえずにこりと笑う。


 おれはいくつか聞いていいかな、と平静を装って語りかけた。あどけない顔がきょとんとして、何度かうなずく。


「そうだな、とりあえずは……ハルカ・シノサキという子について聞きたいんだ。知ってるかい?」


「ハルカさん……ですか? 知ってます。有名人ですから」


 有名、と繰り返す。少年はなんとも言えない表情でうなずいた。


「中等部でも知ってる人は多いですよ。その……少し癖のある人ですから」


 視線だけで続きを催促する。少年はためらっていたが、じっと見つめると困ったように肩を落とした。


「ええと、ちょっとキャラクターが……強烈、と言うか。きれいな人ですけどね」


 さっきの女子よりよほど言葉はやわらかいが、言っている内容はおおかた一緒だ。


「ときどきボランティアで中等部に勉強を教えに来てます。次はいつだったかな……」


(──次?)


 そこまで聞いて、ようやく気付く。

 さっきの少女たちもこの少年も、ハルカのことを過去形では語らなかった。当たり前のように、ハルカ・シノサキとまた会うつもりで話している。


(もしや──)


「そのハルカさんは、今どこかな」


「今日は登校してないみたいですね」


 でもさすがに、と指を折って数える少年。


「そろそろ来ると思いますよ。だいたい、二、三ヶ月に一度は来てるんで」


「……そうかい」


 生徒たちはハルカの死を知らないようだった。


 なにせ自殺のすえ火葬場送りだ。今は火葬違法化の法案が議会を通ったばかり、同校生徒の火葬なんてデリケート極まりない問題だ。


 余計なショックを与えないため、情報を伏せているのだろう。臭いものに蓋、体制側らしい傲慢なやり口だがよくあることだ。


 しかし、少年はさらりと言った。


「ちょうど高等部の先生が、来週面談に行くって言ってましたよ」


 ぴく、と指先が動く。


「……それを聞いたのはいつかな」


「え? 昨日ですけど」


 おれはゆっくりと視線を落とした。


(まさか──担当の教師も知らない?)


 いくらなんでも、それはおかしい。


 火葬許可証の逝去日が正しいかはわからない。だがエンバーミングの劣化具合を見たかぎり、ハルカは死後一ヶ月は経っている。仮になんらかの行き違いが発生したとしても、一ヶ月も情報が共有されないはずはない。


「誰も知らない……? どういうことだ」


 自然、ぽつりと言葉が落ちていた。少年が不安そうに、どうしましたかと尋ねてくる。内心の動揺を隠して笑ってみせた。


「なんでもないよ。それより、もう一つ聞きたいことがあったんだ」


 アンテナ付きの白い車を見なかったか、という本題をようやく尋ねる。

 少年はすぐさま、すみませんと首を振った。この子供から聞けることはこれくらいのようだ。


 おれは簡単に礼を述べ、他の子供を捕まえようと気持ちを切り替えようとした。


 そのとき、少年がそうだ、と声を上げた。サインでもせがまれるかと思って断りの言葉を用意する。しかしその台詞が口にされることはなかった。


 少年の視線はおれではなく、道の向こうを見つめていたからだ。


「さっきマヒナさんが、変な車の話をしてましたよ」


「マヒナ?」


 発達途上の指が生徒たちの群れを指差す。


「あの黒髪の人です。たしかハルカさんと仲がいいんじゃないかな」


 ボランティアはいつも二人いっしょだったから、と彼は言った。


(これは好都合だ)


 彼女について詳しく聞き出す。最後に条例違反のスカウトについて少年へと口止めして、おれはその場を後にした。




 

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