08-01 ハルカ・シノサキ
火葬場から近いのはフォシン研究所だった。
近いといってもそれなりに車で走った距離だ。あまりぐずぐずはしていられない。死体がアンテナ車から降ろされる前にけりをつけたかった。
おれは適当な駐車場に車を置くと、すぐに聞き込みをはじめた。
ちょうど登校時刻らしく、制服の少年少女たちがうろうろしている。近くに学校があるようだ。
おれは何人かの生徒をつかまえて話を聞いてみた。変装のおかげか、今度は素性に気付かれずにすんだ。
中高生ではおれを知らない者のほうが多いのかもしれない。どちらにしても幸いだった。
しかし、せっかく話を聞けても収穫はまるでなかった。車なんてわざわざ見ていない、という子がほとんどだったのだ。
思春期の子供なんて自分と学校と友人といった、身の回りのことだけが世界のすべてだ。無関係のアンテナ車など意識にも留めないのは当然だった。
変装も効いていることだし、車が身近な存在である大人に聞いたほうがいいかもしれない。そう思ったとき、あのー、と声をかけられた。ぴくっと肩が跳ねる。
聞き込みのしすぎで通報されたか。とっさに無害そうな笑みをつくり、心中で言い訳を考えながら振り返る。
しかし、おれを見上げているのは警官ではなかった。
くすんだピンクのショートヘアと、青っぽいグレーのロングヘア。制服の少女がふたり。精一杯のおしゃれなのだろう、制服の袖からは透明なレースが覗いていた。
少女たちがきらきらした目でおれを見つめてくる。
「あの! 友達からスカウトの人が来てる、って聞いて」
「あたしたち、自分をモデルにして、アンダーに服とか上げてるんです!」
フォロワーも増えてきてるんですよ、と頬を紅潮させて懸命に話してくる。さっきから連発している嘘を、鵜呑みにしてやってきたらしい。
おれはかすかな罪悪感とともに、そうかい、と笑いかけた。警戒させずに話を聞くための出まかせだったのだが、ここまで無邪気に寄ってこられると、さすがに申し訳なくなってくる。
「どうりで、凝った着こなしだと思ったよ」
苦笑交じりに言えば、きゃあ、と二人は寄り添いあう。輝く目がおれを見上げた。
「ねえ、どこのチャンネルですか? オリンピア? それともTJ?」
「あー……TJだよ」
オーバーチャンネルの一つを言えば、またしても少女たちが色めき立つ。すごーい、と笑う表情は明るく爽やかだった。
おれはデバイスを変形させ、さっと名刺画面を見せた。TJのディレクターの名前が表示される。一応は本物だ。もちろんおれの名刺ではないが、一瞬見せるだけならわからない。
「ごめんねえ、本当は名刺渡したいんだけどさ。この辺、あれこれ厳しいだろ? あんまり大っぴらにスカウトできなくて。あ、大人には内緒だよ?」
やや軽薄に言ってみせる。少女たちはおれをあっさり信用し、真面目な顔でこくこくうなずいた。あまりにも素直だ。
罪悪感と、それから多大なる心配を胸に、おれは車のことを聞く。放送車と行き違った、という大嘘を、彼女たちは実にたやすく信じた。
「ごめんなさい……車は知らない。早く追いつけるといいですね」
「そっか。ありがとう」
純粋な気遣いは、愛し愛されることを当然とする人間のものだった。恵まれた無知な人間を、それでも騙している罪悪感。おれはあいまいな笑みを浮かべ、話を切り上げる準備をはじめた。
「じゃあ、ぼくはそろそろ。あっそうだ、君たち何歳だっけ? 条例があるからさあ」
だから連絡がなくてもがっかりしないでくれよ──そんな意味を込めて言うと、ピンクの少女が十五歳です、と微笑んだ。ぴく、と眉が動く。グレーの少女がはい、と手を上げた。
「あっ、あたしは十六歳になりましたよ! 条例大丈夫です」
(ちょうど、十六歳になる年頃──)
まさかな。駄目元で口を開く。
「そういえばさ、身近に青と金の目をした子いない? この辺に十五、六歳で、きれいな子がいるって聞いたんだけどさ」
きょとん、とした表情で顔を見合わせる二人。もう少し詳しく言うべきだったか、と思った瞬間、
「ああ──グラデの?」
「……!」
あまりにもあっさりとピンクの少女が言った。グレーの少女もうなずいている。
「あー……あの子、顔はきれいだもんね」
「顔はね」
「──ちょ、ちょっといい?」
頷きあう二人に割って入る。おれは改めてその子の特徴を聞いた。
澄んだ明るい青から、淡い金にかけてのグラデーションアイ。さらさらの長い髪(彼女たちいわく『グレージュカラー』らしい)、痩せた手脚、ちょっと滅多に見ないほど綺麗な顔。どれもこれも合致している。
おれは青と金の目としか言わなかった。この年頃だ、オッドアイの子ならまだ見かける。だがグラデーションアイはかなり高価で、大人でも珍しかった。それを迷わず〝青と金のグラデーション〟と答えたのだ。
(まさか──当たりか?)




