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【完結】さよなら火葬場  作者: Ru
── 最終章 ──

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105/111

53-03 愛の正体

「……っ……」


 ケイジ・ニューマンが、おれの前、真冬の冷えた夜の中で、肩を縮こまらせて震えている。胸の前に銃を抱いて、怯えたような目をして、必死に足を踏みしめている。


「大丈夫だ」


 呼びかけに、ケイジはひるんだように一歩、下がった。その背にとん、とぶつかるものがある。はっ、とケイジが振り返った。


 吊り下げられたそれは雪にまみれ、不安定に大きく揺れていた。晒された真っ白い肌、長い髪がさらさらと風になびいている。美しい少女、彼の娘のなきがら。


「は──ハルカ」


 聞こえたのは、胸の底が抜けたようなつぶやきだった。

 おれはぶら下がったハルカの死体、冷え切った頬が雪で半分白くなっているのを見つめ、そっと言った。


「彼女はここを覚えていたよ」

「え──」


 ケイジが振り向く。なにを言っているかわからない、というような目が、呆然とおれを見つめる。


「ずっと昔、おとうさんに連れてきてもらった気がする。そう、何度も言っていたそうだ」


 ケイジが息を呑んだ。くちびるの形だけで、そんな、と彼はささやく。おれは静かに告げた。


「この化学プラントは環資省の管轄で、なおかつ、十五年前にあんたが所属していたところだ」


 そんなことまでわかるなんて、図書館は便利だよな、とおれは苦笑する。ケイジが首を振る。


「連れてきて、そして一緒に見たんだろう。ハルカと──あの、青い炎を」


 ごう、と炎が鳴った。ひときわ明るく、青白いフレアが吹き上がる。青い光に照らされて、ハルカの身体が輝いている。熱がふわりと降りてくる。


 その青を呆然と見上げるケイジに向かって、おれはかすかに眉を下げ、できるだけ穏やかに呼びかけた。


「なあ。おまえはかつて、たしかに、娘を愛したんじゃないのか」

「そんな──ことは」


 否定する口元が、泣き出しそうに歪んでいる。それが答えだと思った。確信とともに言った。


「一度は愛したんだ。でも、おまえはそれを、嘘だと思って切り捨てた」

「あ……」


 うそだ、と小さな声。おれは静かに首を振る。すっと腕を持ち上げる。


「それは──ずっとそこにあったのにな」


 指差した胸元を、ケイジがゆるゆると見下ろした。彼は絶望的な目で、己を見つめていた。くちびるが開かれる。


「だったら、私は、なんのために、……」

「その問いは、おれには答えられない」


 彼の代わりに答えてあげられたら、少しは楽にしてやれたのだろうか。だが、おれは答えを持ち合わせていない。わかることなど一つしかない。だから、言った。


「あんたは信じられなかった。……それだけだよ」

「──っ……」


 ハルカ、とつぶやく声が聞こえた。

 そのあまりにもかすかな囁きは、炎と風の残響にかき消され、すぐに聞こえなくなった。




 

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