第9話 光が繋ぐ出会い
「ヤァァァァッ……!」
『ハァァァアッ……!』
僕とコルヴォの攻防は激しさを増していき、現在はどちらかが集中力を切らした瞬間に勝敗が決まってしまうと言っても過言ではない程緊張が走っていた。
『不思議な気分だ……貴殿とは明確な敵対関係にあるというのに、胸の内側から燃えている……!これが宿敵との決戦故の緊張というものか……!』
「僕もだよ……絶対に負けられないはずなのに、もう心のどこかでこの戦いを楽しんでる自分がいる……だからこそ僕は……!」
『拙者は……!』
「ここで引く訳にはいかないんだ!」
『ここで引く訳にはいかぬ!』
僕とコルヴォの剣によるぶつかり合いは次第に互いの思いのぶつけ合いへ発展し、それに比例するように勢いも技の鋭さも上がっていった。そして気付く頃には肩で息をする程に追い込んでいた。
「はぁ……はぁ……」
『ハァ……ハァ……貴殿、名は何という……?』
「……鷲宮夏輝……だよ」
『鷲……フフ、そうには見えない程優しき雰囲気が出ているが、いざ剣を構えれば……らしくなれるじゃないか……』
「そんな……僕はまだ、がむしゃらに戦ってるだけの人間だよ……」
『謙遜するな……貴殿からは微かながら可能性を感じた……いつの日か必ず……己が見たい未来を掴める……そんな可能性をな。だが、拙者は影に生ける存在故に貴殿の首を撥ねねばならん……!』
「……こんな形じゃなかったら、もっと違う結末を迎えれたのかもしれない。僕だって、今倒れるつもりは微塵もない……だからこの一撃で決める……!」
『来い……夏輝!』
残っていた余力の全てを乗せた僕の刃は同じく出し惜しみしないと言わんばかりに勢いを付けたコルヴォの攻撃よりも僅かに早く届き、彼の腹部を静かに斬り裂いた。
『見事だ……夏輝……拙者が取り込んだ人間は返す……貴殿の未来、良いものになることを願っている……』
コルヴォは付けられたばかりの傷口から紫色の光の粒子を放出しながら膝から崩れ落ちつつ消滅していき、その場所には剣道着姿の少女が倒れていた。
「……貴方は確か、今年度の生徒会の」
「はい……副会長の鷲宮です。倒れていたみたいなので、ここまで運んできました」
「ありがとうございます……実は私、放課後の事を何も覚えてなくて……」
そうだよね……あんな化け物の中に取り込まれてた、なんて知ったら辛いだろうな。
「そうだ、もう日が落ちてだいぶ経ってるから家まで送っていくよ。このまま一人で帰すのはちょっと……って思うからさ」
「わ、わざわざ気を遣わなくても……」
「このくらいさせてよ……生徒会の副会長なんだからさ」
涼葉さんには後でしっかり謝ろう……前に一度事情は話したけど、だからって全部を許して貰える訳じゃないからね。
僕はその後、ゆっくり起き上がった御剣さんに肩を貸しながら彼女の歩くペースにあわせて家まで送り届けると、御剣さんの母親に軽く頭を下げた後、急いで自宅へと向かった。
自宅近くの大通りまで戻ってきた所で僕は不意に同い年くらいの男の子に鋭い声で呼び止められ、思わず足を止めて彼の方を向いてしまった。
「こんな時間に何で学生がうろついてるんだ……まぁ、オレも学生だけどな」
「えっと……君は?」
「オレは犬上冬真……この町のサイバーフォースの部隊長をやってる。お前こそ誰だ?」
「ぼ、僕は鷲宮夏輝……見ての通り、星ヶ崎高校の3年生で今は生徒会の副会長をやってるんだ」
「なるほど……見た感じ、変な事してた訳じゃ無さそうだし、同い年だから咎める気はないけど……真っ直ぐ帰れよ。呼び止めて悪かったな」
冬真と名乗った子はそう言うとフードを被るとそのまま大通りの隅の方……街灯の光があまり行き届いていない道の方へ歩いていった。少し気になったけど、これ以上涼葉さんを待たせたくないので引き続き家まで走った。
「おーそーいー!家で大人しく寝てたと思ってたのに、どこ行ってたの?」
「実は……教室に忘れ物を取りに行っててさ。そしたら帰る途中で御剣さんが倒れてたから……家まで送ってたんだ」
「そっか……ならしかないね。でも、あんまり遅くなっちゃうと心配だからなるべくこういう事になるんだったら、早めに連絡してね」
「うん……気を付けるよ」
「じゃあこの話はおしまい!ご飯にしよ、なーっくん!」
涼葉さんはエプロンを脱ぎながら笑顔で手料理を温め直し、そして皿などに盛り付け始めた。僕は一度手を洗った後でそれらをテーブルに並べ、夕食の時間を楽しんだ。
(何とかあの力はある程度までは制御出来た……けどやっぱり今の僕じゃ満足には使いこなせない。耳鳴りは百歩譲ってもまだ耐えれる可能性がある……けど、脳への負荷は……)
二階のベランダから夜空を見ながらそんな事を考えていると、後ろから先に風呂に入っていた涼葉さんが髪をまとめながらこちらへ近付いてきた。
「なーっくん、何してるの?」
「あ……えっと……考え事……かな」
「最近多いよね……私にあの事打ち明けてから……ずっとしてない?」
「……」
僕に実は人間を超える力が眠ってる……なんて言えない。お互いに隠し事は無しって約束したばかりなのに……これは……こればかりは……無理だ……!
「無理に話してくれなくていいけど、あまり抱え込まないでね」
「うん……心配してくれてありがとう、涼葉さん。それじゃあ僕、風呂に行ってくるよ」
僕は涼葉さんから少しだけ目線を反らしつつ、浴室で服を脱いで風呂に浸かった。
(ナツキ……)
「だ、誰……うわぁっ……!?」
僕はよっぽど疲れが溜まっていたのか、風呂場で目の前に突然見えた鷲の怪物に驚いたあまり、思わず声を上げてしまった。
(お前は今、何故ボクが見えているのか……疑問に思ってるだろう?)
「ボク……って事は君は……まさか……!?」
(そう……今キミが見ているボクはいわばキミが隠しているもうひとりの自分だよ)
「やっぱり……そうなんだ……でも、何で見えてるんだろう」
(簡単な話だよ……キミとボクが星の光で結ばれたから、ね)
星の光……もしかして、あの時ホシガシアで合体した時に僕の体が光ったのって……目の前に見えてる怪物が僕と繋がった証みたいなもの……なの?
「僕、キミの力も僕の中に眠ってる力も……使いこなせるようになりたい。涼葉さん、蝉沢君……長妻さん……僕にとって大切な人はたくさんいるし、この先も増えていくはずなんだ……だから、もっと僕は強くなりたい!」
(羽根は震えてる……でも、明るい未来の為に羽ばたいて……飛びたい……そうでしょ?)
「僕は涼葉さんや大切な人の為ならどんな痛みだって乗り越えられるし、怖いものも無くせるんだ!」
(そこまではっきりと自分が力をどうしたいのか言えるなら……大丈夫……キミは必ず最後まで戦い抜く事が出来るよ)
「……そうなんだ……」
(キミはもっと自分に自身を持って。そうすれば……自ずと力は使いこなせるようになるよ……だから、頑張れ)
鷲の怪物は僕とよく似た声で優しく言葉を掛けると、湯気に紛れるように消えていった。終始少しだけ怖かったけど、最後にもらった言葉は間違いなく僕の心の中で溜まってきていた黒い靄を一瞬で消してくれたような気がした。
「あ……なっくん!やっと上がったね……」
「心配してくれてありがとう、涼葉さん。僕ならもう大丈夫……また明日から、頑張ろうね!」
「……うん、頑張ろうね……夏輝君」
「それじゃあ……寝ようか」
「うん……おやすみ、なっくん」
もう、迷うつもりはない。この先どんな敵が現れても……壁を作って迷わせてきたとしても、僕は僕の思いを貫く……そして、辿り着いて見せる……僕が夢見る……未来へ!