第8話 星と繋がる力
「おっ、ようやくお目覚めみたいだね、夏輝。今の気分はどうだい?」
「えっと……まだ少しだけ頭がガンガンするような気がします……」
そうだ……僕はコルヴォとの戦いの中で急に時間が止まったような感じがして……
「そうか。まぁ、無理もない……キミが気を失っている間にキミの事を少しばかり調べさせてもらったんだけど、まぁ驚く事ばかりでねぇ……」
「驚く事……って何ですか?それに調べたって、ここ保健室ですよね?」
「もちろん、私の職場の一つであり、ある事情から隠れ蓑としても使わせてもらってる保健室だ……それと、君を調べた結果が出たから見てほしい」
僕はタカヒロさんが聴診器型の機械で調べたという僕の体についてのデータに目を通してみた。そこには僕の目に隠されていたある秘密が載っていた。
「星と繋がる力……キミのファザーで私の先生だった翼博士が研究していた力で、詳細不明で発生起源も分からずじまい……故に私は調べ続けているのさ」
「そ、そうなんですか……けど、それと僕に何の関係があるんですか?」
「キミにはその力が宿っている可能性が極めて高い……キミもこれまでに何か自分の中で何か違和感を感じる事があったはずだ」
そういえば……今年に入ってからやたら予知夢を見るようになったし、さっきコルヴォと戦った時も馬鹿にされて頭にきた時に……カッとなって夢中で攻撃をしてたら相手の動きが止まってるように見えたし……
「その様子じゃ、何か心当たりがあるようだね……」
「はい……」
「とにかく、今はここで体を休めたまえ。君の体……主に脳はかなりのダメージを受けているし、体もダメージが残っているみたいだからね。あぁ、安心してくれ……担任には既に伝えてあるからね」
「わ、分かりました……ありがとう、ございます」
その後も僕は保健室のベッドでゆっくり休んで昼放課の戦闘で負ったダメージを回復させた。
『してやられた……か。拙者ともあろう者があのような若い青年に後れを取るとは……』
「件の青い戦士にやられたようですね……コルヴォ」
『ラ、ラダマンティス様……な、何故このような場所に貴公が!?』
「フフフ……貴方はご存知無いと思いますが、私達には優秀なスポンサーが付いていましてね。彼からの支援によってこのように現実でも楽に活動出来るのですよ」
『そ、そうでしたか……して、何の御用で?』
「そのスポンサーがこちらの品物を試したい、との事でしてね。良ければ引き受けてもらえませんか?」
『……承知した。未知故に何が起きるかも予想出来んが、雪辱を果たす為にも……使わせていただこう!』
校舎の裏で先の戦いの傷を修復していたコルヴォの元へ生徒に化けたラダマンティスが現れ、同時に彼へ自身が仮面の男から渡された物に酷似した黒いギアを投げ渡した。
「いいデータが取れる事を期待していますよ……コルヴォ」
そしてラダマンティスはコルヴォにそう言い残すと、怪しげな笑みを浮かべながら校舎の中へと戻るのだった。
「楽しみだと思っていた部活も……今日ばかりはちょっくらしんどく感じるぜ……」
「あはは……僕も生徒会室の冷房付けたいけど、そういう訳にはいかないから……お互い、頑張ろう」
「おう……そだな……んじゃまぁ、行ってくるわ」
「うん……終わったら連絡してね」
僕は蝉沢君と揃って暑さにすっかり打ちのめされたまま、会話を短めに済ませて各々向かうべき場所へ重い足をズリズリと引きずりながら歩いていった。
「あーっ、遅いよなっ……夏輝君。これから議長の長妻さんと3人で今度の生徒集会で発表する校内活動の原稿作るんだよ!ほら、鞄置いて席座る!」
「ごめん……蝉沢君の体調があまり優れてなかったみたいでさ……」
「じゃあ、早速始めるよ……暑いから、早く終わらせようね!」
こういう時の原稿って書くの大変なのに……今日はかなり夏日……頭だってまだ痛むのに……あれ、もしかしなくても僕って今日損しかしてないんじゃ……?
「ちょっと、聞いてるの?夏輝君」
「えっ……あぁ、ごめん……少し頭が痛むみたいでさ……」
「わっ、そうだったの?私の方こそ、強く言ってごめんね!」
「ううん、涼葉さんが謝る事じゃないよ……これ全部自分の責任だから……」
間違ってない分、誰にも擁護してもらえない……今はとにかくこっちに集中を……!?
涼葉さんや長妻さんと意見交換を交えながら近日行われる全校集会へ向けた原稿作りをしていると、不意に僕の脳内にこれから起こる事……“傷を完治させたコルヴォが無差別に攻撃を仕掛ける”といった内容のイメージが流れ込んできた。
「う……っ!まただ……また、これか……!」
「ちょっと、夏輝君!?本当に大丈夫?先に帰ってもいいんだよ?」
「……ごめん、そうさせてもらうよ」
と口では帰ると言った僕だけど、流れ込んできたイメージが現実になる前にと、その記憶を辿りながら事が起きるであろう場所……体育館へ急いだ。
いざ体育館に着くと、僕が思ってたよりも早く相手は行動を始めていたようで、コルヴォらしきヴァイラスの攻撃によって既に床が荒れ、部活動に励んでいた生徒はその場にいたバスケのユニフォーム姿の蝉沢君を中心とした生徒の指示の下、避難を始めていた。
「やっぱり来たか、夏輝。見ての通り、あのカラス野郎が何かおっ始めやがったんだ……俺は皆を連れてこっから避難すっから、後は頼むぜ!」
「うん……お願い!」
『その様子からして……まだ傷は癒えていないように見えるが……?』
蝉沢君が体育館の西口から出ていった直後、姿がどこか変化しているコルヴォがやけに長い太刀の切っ先を僕に向けながらゆっくり近付いてきた。
「コルヴォ……その姿は一体……」
『先程拙者が主と慕う御方から譲り受けた力により、拙者はより高い次元の存在へと進化を果たした……先刻と同じようにはいかんぞ?』
「例えそうだったとしても……僕は膝を付くその時までは絶対に諦めはしない……!行くぞ、トランスオペレーション·ペルセウス!」
僕は柄にもない事をその場のノリ任せに言うとペルセウスへ変身しながらコルヴォへと斬りかかった。
『先程と違い拙者は扱える刃の数が減った……だが、一本の刃にかける力は増した……この意味が分かるか?』
「何……!?」
『貴殿と対等になった上で、純粋な実力の差を計れるという事だ!拙者の剣技……冥土の土産としてその身に刻むがいい!』
「そうはさせないっ……!」
刀の数が減ったとはいえ、経験の差からして僕が不利な事には変わりないのかもしれない……けど、だからって引き下がるなんて出来ない……!
僕とコルヴォの剣戟は昼放課に武道場でやった時よりさらに激しさを増し、同時に僕は次第に防戦へ徹していた。
『その様子からして、先の戦いの傷が重荷になっているようだな……だがここは既に戦の間、足を踏み入れたが最後、どちらかが死すその時まで終わりが来る事はない……!』
くっ……なんて速さだ……それにこの感じからしてコルヴォは確実に僕を殺しに来てる……今は何とか防げてるけど、これじゃあ前みたいに刀身が折れたら……文字通り僕の死で幕が下りる……どうすれば……
(星と繋がる力はまだまだ謎に包まれ過ぎている……見たところ、キミの意思で自在に発動·解除が出来るとは思えない……ただ、扱えさえすれば……キミは更なる強さと自信を得られるはずだ)
自分の意思で自由に使えないのは分かってる……だけど今は、この力に頼るしかない……頼む、もう一度でいい……僕に……力を!
僕が心の中で叫ぶと、それに応えるかのように昼放課の時に一瞬だけ感じた“周囲の時が止まるような感覚”が発生し、僕はブレードに込める力を少しだけ増やした。