第4話 その名はペルセウス
―ノイズが走る異空間では、黒いロングコートを着つつ、顔もフードを深く被って隠していた青年が異質な外見の人型の存在と会って話をしていた。
「何だお前は……どうやってここを見つけた?」
『私はハッキングが得意でね……君達が巣食っているサーバーを特定する事など、朝飯前だ』
「ほぉう……で、何の用だ?」
『私は君達にプレゼントを渡しに来たのだ……遥か遠くの銀河からやって来たんだ。友好の印として受け取ってもらいたい』
そう言うとコート姿の男性は持ってきていた黒いアタッシュケースを取り出すと、その中に入っていた2個のガジェットを見せた。
「これは……人間達が新たに用意したというギアとやらか?」
『その通りだ……これがあれば、現実世界でも活動が可能となる。それだけではない……これには君達が持っているウィルスを拡散させる事すら出来る。その力、是非とも役に立ててみてほしい』
「ふむ……確かに我らの目的には適っている……いいでしょう、ですが貴方を完全に信用した訳では無いという事だけお忘れのないように」
そう言うと白い仮面を着けた青年は男からアタッシュケース毎ギアを受け取ると、近くにいた2名と共に更に暗い渦の中へ消えていった。
「えぇっ、新型ギアが強奪された上に横流しされた!?」
「私も今朝ラボへ出向いた際に職員達から聞いたんだが……私としても無視出来ない状況だ」
「それで、例の物はどうなってるんですか?」
「それなら安心してほしい。物自体は既に完成している……が、肝心のシステムの中枢を担うサイバービーストの方がどうも見つからないんだ」
「えっ……」
やっぱり最初に僕の体に入り込んだ後に僕の体から離れたのかな……
「奴さえこの中に封じ込めれば、君の望む力を引き出す事は可能なんだけどねぇ。とにかく、これは君に一度預けておこう」
タカヒロさんに呼ばれて保健室に来た僕はそこで彼から研究センターで今朝起きた騒動の事、そして昨日約束した〈戦う為の力〉について少し説明された後、腕時計に近い形をした物を渡された。
「何というか……リアライザーともサテライザーとも似つかないデザインですね」
「そう……これはアステライザーと言って、これまで通りカードライズシステムを採用しつつなるべくコンパクトに仕上げてみたんだ。これは元々私がサイバーフォース用に持ち込もうと考えた物なんだけどね」
「い、いいんですか……そんな代物を僕がもらっても」
「君が望んだんだろう?さて、私は少し席を外すよ……私の技術を盗んだ愚か者を探して徹底的に拷問してやらないと、腹の虫が収まらないんでね。それじゃ、失礼するよ」
それだけ残してタカヒロさんは保健室を出ていった。とりあえず僕も貰った物をブレザーの内ポケットへ隠しながら教室へ戻った。
「夏輝、一昨日は大丈夫だったか!?連絡が無かったからずっと心配してたんだぜ!」
「ごめんね……実はあの後少しだけドジっちゃって気絶してさ……その後も色々あってさ」
「なるほどな。けど、お前が無事にこうして学校に来てるだけで俺は嬉しいよ」
「ありがとう、蝉沢君。蝉沢君こそ、一昨日は大丈夫だったの?」
「おうよ!誘導員の手伝いはバッチリ出来たし、そしたらそのリーダーらしい人から簡単な感謝状貰ったんだぜ!」
「そっか……じゃあ僕達揃って大活躍だったんだね!」
「だな……けど暫くはホシガシアは休業するみたいだし、暇潰しする場所に大きい制限がかかったのは痛いなぁ」
「あはは……」
僕と蝉沢君を始めとして、教室内に賑やかな雰囲気が溢れていたその時……理科室などがある東棟の方から不意に爆発のような音が鳴り、直後に黒煙が少しずつ昇り始めていた。
「ホシガシアの次は東棟ってか……お、おい夏輝、何処行くんだよ!」
「ごめん……何となくほっとけないんだ!」
僕はメガネを外していないのに体が勝手に東棟の方へ動いていた。そして教室を出て渡り廊下を通り過ぎた辺りでそのメガネも外して内ポケットへしまうと、階段を一段飛ばしながら黒煙が出ていた場所へ急いだ。
そして、いざその場所へ着いた僕の目線の先にはこの間ホシガシアで戦ったばかりの紫色の鱗や甲殻が特徴の怪物……の姿が違う個体が窓ガラスやドア等を破壊しながら雄叫びをあげていた。
さらにその場には前に僕と合体して一緒に戦ってくれた青い大鷲の怪物もいた。けど、そっちの怪物は僕が走って近付いてきたにも関わらず、紫のリザードマンのような怪物に攻撃を仕掛けていた。
「ねぇ、キミ……僕の言葉が通じるなら答えてほしい……もう一度、僕と一緒に戦ってくれないかな?」
僕がそう叫ぶと、大鷲の怪物は言葉の意味を理解したのか、リザードマン型の怪物に強烈なキックをヒットさせて屋外へ吹き飛ばし、僕の内ポケットの中……にしまってあった腕時計みたいな機械へと吸い込まれるように入った。
『wonderful!よくやったね、ボーイ……たった今こっちでもキミに渡したアステライザーが起動するのを確認した。今こそ……キミの勇気を示し、試す時だ!』
「タカヒロさん……分かりました、やってみます!」
『おっと、まだギアの起動コードを教えてなかったね。ズバリ、起動コードは『トランスオペレーション·ペルセウス』だ』
「は、はい……!」
僕はタカヒロさんからギア経由で起動コードを教えてもらうと、先程怪物が蹴り飛ばしたリザードマン型の怪物の元へ走ると、早速右腕に着けたブレスレットタイプのギアを口元へ寄せた。そして……
「ト、トランスオペレーション……ペルセウス!」
僕が少し戸惑いながら起動コードを叫ぶと、ギアの手首側にある円状のパーツが展開し、同時に光が溢れ出しながら先程中へ入った大鷲の怪物が飛び出して僕の周りを旋回し始めた。その後、僕の体は光に包まれ、怪物と合体した後に怪物と同じようなアーマーが特徴のヒーロー然とした姿へと変わった。
『これこそが私の研究の一つの到達点……ペルセウス!サイバービーストの力をアステライザーで人間が扱えるギリギリの段階まで調整して身に纏うシステム……さぁ、キミの力であのヴァイラスをデリートするんだ!』
「やっぱりあれはホシガシアの時の怪物と同じ種族だったんだ……これ以上ここで好き勝手させてたまるか!」
僕は右腕の鷲の頭を模した武器からブレードを展開すると利き足である右足に力を込めて地を蹴り、勢いよくヴァイラスに迫るとすれ違う瞬間にブレードで腹部を攻撃した。
『グルル……!』
「おっとと……これがペルセウスの力……加減を間違えると満足にコンボが決められない……」
『ルガァァア……!』
「させるかっ……!」
リザードマン型のヴァイラスは突然曲刀を出現させつつ僕に反撃を仕掛けてきたが、僕はブレードの出力を調整してこれを何とか受け止めつつ、ぐっと力を込めて押し返した。
『ボーイ、ヴァイラスは共通弱点として一定値のダメージが蓄積するとクリスタルが出現する。後はそれをデリートアタックでブレイクすれば万事解決だ。発動コードは『ファイナルデリート』だ』
「よし……ファイナルデリート!」
〈エーススタースラッシュ〉
僕の掛け声にあわせて鷲の頭の額に埋め込まれていたギアの円状のパーツが展開すると、既に展開していたレーザーブレードの刀身が巨大なAを象ったものへ変化した。僕は少しだけびっくりしつつもさっきと同じように地面を蹴るとそのままエネルギーの噴射で滑空してクリスタルを両断し、見事怪物が……ヴァイラスがガラスの割れる音と酷似した音を出して跡形もなく消えていた。