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第3話 180度変わった日常

「僕と天川さんがこの家で暮らす!?」

「うむ……君は記憶が曖昧かも知れないが、先程は私を含めて娘の事まで助けてくれた。君のその勇気を見て思ったのだ。君なら私の娘を任せられると」

「あ、あの時は僕も無我夢中だったから……」

「ハッハッハ……その口振り、やはり君は(つばさ)博士の息子なんだな。そうやって何かある度に自分を下げて物を言う……だが、私はもう決めたのだ……娘も君を気に入っているみたいだし、君にとっても悪い話では無いだろう?」

「……それは……」


 と思ってると天川さんの父さん横に座っていた天川さんがニコニコしながら僕の方をじっと見つめていた。どうやらこの様子だと下手な返事は全部却下されそうだ……


「分かりました。ここは元々僕の両親が進学した僕の為にって用意してくれた家で、基本的に好きに使っていいって言われてるから……」

「そうか……その感じからして、返事はOKという事でいいんだね?」

「は、はい……僕なんかで良かったら……」

「そうか……話が早くて助かるよ。それじゃ、後は二人で仲良く話し合って決めてくれ。私はこれにて失礼するからね」


 そう言い残して、天川さんの父さんは足早に僕の家から出ていった。そしてそれを合図に僕の家にはこれまで感じた事のないレベルの緊張感が走った。そもそも僕は異性の友人どころか知人すらまともに居なかったから、尚の事この状況に対する的確な対処法が何一つ分からない……


「あ、あの……やっぱり迷惑だったかな?急にこんな話を持ち出すなんて」

「い、いや……そんな事ないよ。寧ろ……ありがとうって、言いたいかも」

「えっ……」

「僕、昔からこんな感じで地味さ位しか取り柄がなかったから……こんな僕と仲良くなろうとしてくれた事が本当に嬉しいんだ。だから、ありがとう……天川さん」


 僕がリラックスしながら自分の今の気持ちを正直に伝えて軽く頭を下げると、何故か彼女は不満げに頬を膨らませていた。


「天川さん……って、何だか距離を感じるよ?これから一緒に生活していく……未来のお嫁さんなんだから、もっと親しみを込めて……涼葉って呼んでよ」

「えっ……そんな、僕なんかが天川さんを下の名前で呼ぶなんて」

「私だけ夏輝君呼びは不公平だし、私は嫌だよ!それに……生徒会の仲間で、クラスメイトだもん……ね?」

「でも、それじゃあ周りの目線が……」


 僕が慌てふためいていると涼葉さんは僕にぐっと顔を近付けてきながらジト目で見つめながらより不満さを滲ませていた。


「……分かった、僕なりに頑張ってみるよ……涼葉……さん」

「決まりね。あはっ、何だか今のでギュッと縮まったね……私達の距離」


 涼葉さんの顔と雰囲気、そしてその顔から放たれた言葉の謎の重みに負けた僕は絞り出すように彼女を下の名前で呼ぶと、彼女は一気に明るさと笑顔を取り戻し、さらに言葉を付け加えた。


 これで一難去った……と思っていた僕だけど、現実はやはりそこまで甘くは無い訳で……僕のその一難は次の日まで引き摺る事になった。



「おはよう、なっくん!朝ご飯、一緒に食べようよ」

「な、なっくん……!?それってもしかしなくても……僕の事だよね?」

「うん!ここって私となっくんの家でしょ?だから……もっと呼びやすい名前で呼んじゃおっかなって……ダメ、かな?」

「……い、いいよ。天……涼葉さんが呼びたいように呼んでくれれば。けど、流石にその呼び方を学校でするのは控えてほしいかな」

「うん、なっくんがそう言うなら学校では夏輝君って呼ぶね!」

「何か気を遣わせちゃってごめんね……って、この卵焼き、凄く美味しいよ!」

「でしょ?私、こう見えても料理は得意なの!後、味噌汁はお目覚めにいいって聞いた事があるから作ってみたの」

「僕の家の冷蔵庫、そんなに食材無かったはずなのに……やっぱり凄いね、涼葉さんって」

「凄いのは……なっくんもでしょ?」

「いや、僕は本当に平凡が取り柄で……」

「昨日のなっくん……かっこ良かったのになぁ」


 頬を赤く染めながら言った涼葉さんのその一言で僕まで一気に顔が赤くなって、その上体もかなり熱くなってしまった。そして心の何処かでは昨日僕の身に起きた事を別の誰かが知っていたという事実が分かった途端、これから先で待つ不安を感じた。



「お~っす夏輝……って、うええええっ!?ななな、何で天川さんと一緒に来てんの!?」

「えっと……これは……その……」

「私、夏輝君の彼女になったから……ね、夏輝君!」

「涼葉さん……!?」


 涼葉さんと一緒に歩いて登校する……普通に考えれば男子達が全員憧れてもおかしくない状況だ。それは当然僕の親友である蝉沢君も例外なく反応した訳で……驚く彼をよそに涼葉さんはいきなり僕の事を彼氏みたいに言い始めたから慌てて説明しようとしたけど、すぐに蝉沢君に肩を組まれて凄い形相で睨まれた。


「なぁ夏輝……お前いつ告白した?いつOKもらった?昨日の昼か?昼過ぎまで一緒に居た時か?」

「それは……えっと……色々と事情があって」

「初々しいのと、俺達の友情の深さに免じて俺は深掘りしねぇけど……あんま見せつけたりすんなよ?」

「しないって!」


 朝から……しかも学校始まる前からこれって……あぁ、何かもう、頭痛くなってきたよ……



「急に呼び出すような真似をして申し訳なかったね、ヒーローボーイ」

「ヒーローボーイ……って僕の事ですか!?」

「君以外に誰が該当するっていうんだい?おっと、自己紹介がまだだったね。私はこの学校の養護教諭として赴任したタカヒロだ。ま、それは表の顔……今回君を呼ぶにあたって、電脳研究センターの博士としての裏の顔を使わせてもらったよ」


 何事もなく過ぎていくかと思ったら、昼放課に突然保健室の先生に呼び出され、そのまま保健室の奥の部屋へ来た。そしてそこで唐突にその先生の意外な一面を明かされ、僕は思わず大きく口を開けて放心しかけていた。


「さて、君は昨日ホシガシアにて紫の怪物と戦った事は覚えているかい?」

「な、何となくは……」

「奴らは調べた所、別次元の銀河から飛来した電子生命体……ヴァイラスだという事が分かった。一般のウィルスと構造が限りなく近い事以外は何も分かっていない」

「それをどうして僕に……」

「君はあの場でヴァイラスの一種と戦っただろう?その際、君の体の中に何か巨大な獣が入り込んだと思うんだが……覚えているかい?」

「少しは……」


 昨日僕が最後まで戦えたのは間違いなくあの大鷲みたいな怪物が力を貸してくれたからだ……でも、何でこの人はそれを知ってるんだろう……


「あれは人工衛星ステラを守る特殊な自律稼働型の防衛プログラム……アルタイルだ。しかし、ヴァイラスと同類のウィルスに侵された事で変異が起きたようでね……私は現在、これを捕獲して調べてみようと思うんだ」

「そういえば、アルタイルは僕の体に入り込む前に何回かヴァイラスに勝負を仕掛けていたんですけど……」

「何だって……それはいい発見だよ、ヒーローボーイ!もしかしたらアルタイルはウィルスに変異したとしても自身に与えられた役割を全うしようとしていたのかもしれないね」


 そっか……アルタイルも未知のウィルスに侵されながらも自分の役割を果たそうとしてたんだ……


「あの……お願いがあります!」

「ほう……急にどうしたんだい、ボーイ」

「アルタイルの力……僕に使えるようにしてほしいです!」

「Wait……ヤツの力は人間の手にはあまりにも負いきれない代物だ。仮に制御が可能となっても十分な力を発揮出来る確証は無いよ?」

「お願いします……タカヒロさん!」


 アルタイルの秘密……それを断片的に知らされた今、その秘密に触れた事実がある以上……僕が知らないフリなんてしたらダメな気がする……


「……分かった。私も今、サテライザーの技術を応用したサイバービーストの制御装置を開発しているんだ。君にはそれのテストをしてもらう……勿論、謝礼金は出す。どうだい、ヒーローボーイ」

「……やります、いや……やらせて下さい!」


 僕はこの瞬間、迷わずにこう答えて頭を下げた事で改めてヒーローとしての一歩を踏み出した……そんな気持ちになった。

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