第2話 そして僕はヒーローへ
「な、何だよあれ……何かノイズみたいなの見えてるし……明らかにヤバいだろ!」
「……と同じだ」
「ど、どうした夏輝……何か知ってるのか?」
「さっきここへ来る前に学校で見たんだ……ここがあの化け物に壊される光景を」
「な、ななな……なんでもっと早く教えてくんないのさ……って、何でそんな妙なもん見てるんだ?」
「それは僕が聞きたいよ……じゃなくて、今は避難を……!」
『皆さん、落ちついて聞いて下さい。現在、電脳研究センターがこれらの原因究明に当たっています。皆さんは係員の指示の下、避難を!』
「始まったな……じゃあ、俺らもそろそろ……」
僕らが避難しようとした次の瞬間、怪物が周囲に紫の光を放ってあちこちにそれを拡散した事で小規模の爆発が起きた。
「……僕、ステージの方へ行くよ!あっちの方にもまだ人がいる……そんな気がするから!」
「え!?お前、何か血迷ってないか?今そんな事したらお前は……!」
蝉沢君が僕の事を心配している傍で僕はゆっくりとメガネを外してケースの中へしまった。
「メガネを外した……って事は、血迷ってるって感じじゃないんだな。分かった、俺も俺にやれそうな事をするぜ。いいか、絶対無理すんなよ!」
「そっちこそ、気を付けてね……それじゃ、また後で!」
「あぁ……ミッション開始だぜっ!」
僕はステージの裏へ、蝉沢君は誘導灯を持っている人の方へ駆け出した。
「天川、これは一体どういう事だ……」
「恐らく、衛星ステラの内部で何かが暴れ、彼らがそれを食い止めきれずにサーバー経由でここへ来たのかもしれない」
「何だと……ステラ内部の防衛プログラムはどうなっているんだ!」
「アルタイルの事なら、私も調べてみたんだが……どうも不可解な事が起きているみたいだ」
「それ以外は分からない……という事か」
矢崎と天川がステージの裏で状況を整理していると、彼らの元へ先程現れたばかりの化け物が姿を見せ、同時にその剛腕を振り下ろした。
「くっ……何て事だ。こんな怪物を招いてしまうとは……」
「だ、大丈夫ですか……お二人共」
「君は……そうか、あの人の息子か。私達はいい、娘を……助けてやってくれ!」
「娘……!?わ、分かりました……僕の友達が向こうで避難誘導の手伝いしてますから、それに従って早く避難を!」
「すまないね……君も、気をつけたまえ」
「はい……!」
なんて意気揚々と言った上で何か凄い事引き受けちゃったな……でも、今の僕は……ここで引き返すつもりはない!
怪物はステージをひたすら破壊し続けながら、来賓席やゲスト席のある方へ向かい始めた。確かにその先にはさっき正門前で分かれたはずの少女……天川さんの姿があった。
『ウガァァァア……!』
「危ないっ……!」
僕はそのまま怪物が彼女を攻撃しようとしたギリギリのタイミングで彼女を軽く突き飛ばしながら自分もその攻撃を回避した。
「鷲宮君……どうしてここに?」
「話は後……今は早く逃げて!」
「鷲宮君はどうするの……あんな化け物、どうやって相手するの!?」
「……何とかサイバーフォースの人達が駆け付けるまで時間を稼ぐよ。大丈夫、運動には自信あるから!」
「……気を付けてね」
僕は天川さんを比較的安全そうな所へ避難させつつ、僕は目の前でまだ暴れ回っている化け物へと向き直った。
『ウガ……!?』
怪物が僕へ襲い掛かろうとした次の瞬間、その怪物に直撃するような形でまた1つ別の光が現れ、そっちは大鷲によく似た姿へと変化した。
「ま、また怪物が……しかも、こっちに飛んでくる……うわぁぁあっ……!」
大鷲のような怪物は再度青い光に姿を変えると今度は僕を目掛けて飛んできて、そのまま僕の中へと入り込んでしまった。そして僕の意識は一気に遠退いていって……
「ここは……何処なんだろう?急に視界が真っ白になったと思ったら、急に何か変な所に来ちゃったし……」
僕がふと目を開けて周りを見てみると、さっき僕の体の中へと入り込んだ大鷲のような怪物が僕の事を鋭い目でじっと見ていた。けど、よく見るとその怪物は右の翼の付け根辺りに怪我を負っていた。
「キミ……怪我してるの?」
『……』
「ぼ、僕は……どうすればいいの?」
『……!』
大鷲のような怪物はそっと近付いてきた僕の問いかけに対して返事をするような素振りを見せつつ、僕の周りをぐるぐると飛び回り始めた。すると怪物の体は三度光に変わって僕を包み込み、そして僕の姿を昔テレビで見たヒーローのような姿に変化させた。
そしてそれに合わせて僕の意識も次第に元の世界へと戻っていき、気付けばさっきまでいたホシガシアのイベントホール付近にそのままの姿で立っていた。
「凄い……さっきの怪物と合体したし、僕がこんな……ヒーローみたいな姿になるなんて……でもこれで僕も戦える!よし……行くぞっ!」
僕は右腕の鷲の頭をした武器から青い光弾を飛ばして牽制しながらオーガみたいな紫の怪物へと一気に接近して、今度は鷲の嘴の部分を開いたままそこから青色のレーザーブレードを展開して怪物を斬りつけた。
『ガァァァア……!』
「これ以上……ホシガシアに手出しはさせない。お前は……僕が必ず倒す!」
『グオオオオ……』
口では簡単に言えても、体で上手くやれる保証はない……けど、それでも今はやるしかない……!だからこそ……全力を尽くすんだ……!
「……そうか、あれだ!胸のクリスタルさえ壊せれば……!どんなゲームのボスにも必ず倒す為の仕掛けがある……いくら斬っても撃ってもダメージが通らないなら……コアを叩くまで!それが分かった今なら……!」
チャンスは一度きり……あの怪物はさっきから距離に応じて腕の攻撃パターンを切り替えてるけど、実際は“近ければ両腕で叩き潰す”、“遠ければぶん回し”だけ……つまり、僕の攻撃を当てるなら限界まで引き付けてソードでいくしかない……!
『オオオオ……』
「……今だっ!」
僕は怪物を狙い通りにギリギリまで引きつけると、展開していた右腕のブレードで居合斬りの要領で胸部のクリスタル部分を斬り裂いた。すると怪物の動きが一瞬で止まり、同時にガラス状に硬化しながら鈴のような音を立てて割れながら消滅した。
「……ん……宮くん……!」
微かではあったけど、天川さんの声がする……そもそも僕はあの怪物を倒せたのかな……剣を振った所までは覚えてるんだけど……
「……あ、天川さん……僕は一体、何を……?」
「この騒ぎが終わった後、ホシガシアで倒れてたんだよ!いくら呼んでも全然目を開けなかったから……心配したんだよ!」
「えっと……それは分かったんだけど、ここは何処なの?」
「何処って……鷲宮君の家だよ?」
天川さんに言われてゆっくり体を起こし、辺りを見てみると、確かに壁に星座の早見表が掛けてあったり、望遠鏡を入れた鞄が立て掛けてあったからすぐに僕の家だと認識出来た。
「生徒手帳に書いてあった住所を元にここまでタクシーで来たの。その後は運転手さんに手伝ってもらって、ここにそっと寝かせてもらったの」
「そうだったんだ……何だか悪い事しちゃったね、あはは……」
「でも、本当に鷲宮君が無事で良かったよ。だってほら……同じ生徒会の仲間だし、クラスメイトだもん」
「そっか……そうだね。後は僕一人でも大丈夫だから、天川さんはもう帰ってもいいよ」
「あー……えっと……その事なんだけど……この後少しだけ、お話の時間をもらえないかな?ここに私の父さんが来るから……詳しい事はその時に話すよ」
「へっ……父さん……天川さんの?えっ……」
何とか事態が大きくなる前に片が付いた……なんて思っていたけど、それはどうやら僕の早とちりだったみたい。そうだとして……この先で一体何が起きるんだろう……
僕の平凡じゃない日々……その初日はまだまだ続きそうだ。