第15話 10年前の亡霊
第15話 10年前の亡霊
「ぐぁっ……!」
『何度やっても結果は同じだと何度言えば分かる……君とてサイバーフォースの分隊長なら、己の戦力くらい把握していてもらいたいものだ』
「認めない……他人から盗んだ力を振りかざしてイキり散らかすような奴なんて……!」
『粋がっているのは私では無く……キミの方だろう?』
「何だと……!?」
冬真が起き上がった直後、謎の男は間髪入れずに彼の腹部……というよりは鳩尾辺りに軽くエネルギーを纏わせたパンチを至近距離で叩き込んだ。冬真はその攻撃が決定打となり、吐血するような声を発しながら崩れ落ち、変身が解除されると同時に意識を失ってしまった。そしてそれとほぼ同じタイミングで夏輝が到着した。
「犬上君……彼に何をした!」
『厄介な野良犬にお灸を据えただけですが』
『夏輝、気を付けろ……あれはメサイアシステム、言うなれば私が開発した変身システムの起源にして頂点……身の危険を感じたらすぐに逃げるんだ、いいね』
タカヒロさんがこんなに焦ってるなんて……それに、僕や犬上君のシステムのプロトタイプだなんて……いや、怖気づく前にまずは犬上君を助けなきゃ!
『彼を助けるつもりですか?』
「当たり前の事聞かないでよ!それに……僕だってもうそんなに長くは戦えない。だからここは退かせてもらうよ」
『ふむ……そうですか。折角手にしたこの力……存分に試せる相手と出会えましたが、機を改めろと……いいでしょう。戦闘データは取れましたので、私としてもここは一度身を引く事としましょう』
そう言うと黒いアーマーの戦士は一瞬にしてその場から居なくなってしまった。僕はすぐに変身を解除しながらボロボロで口元が血で真っ赤に染まっている犬上君へ駆け寄り、そっと背中に背負うとなるべく早めに歩いて保健室へ連れて行った。
「犬上君……何でこんな無茶を……」
「彼はサイバーフォースの分隊長の中でも特に期待されているみたいでね……恐らく、それが無意識のうちに彼の首を絞めていた……かもしれないね」
「……気になってたんですけど、サイバーフォースってどんな組織なんですか?」
「警察では手の出しようのない存在……ヴァイラスが犯罪に関わった際に出動し、これを速やかに鎮圧する組織さ。元々ペルセウスもサイバーフォースで運用予定だったよ」
「そうだったんですね……じゃあ、どうして犬上君はそんな危険な任務に出る組織に……?」
「元々彼の父親は警察官だった……身の危険を二の次に考える程、熱くて危ない……ね」
「……」
「彼の父はキミの父親……翼博士と共に未知の脅威を追う中で、彼を守った果てに……殉職した」
ヴァイラスを見つけた……そしてそれが明るみに出るのを防ぎたい奴らのやり口として……口封じに殺されたんだね……
「私も彼の訃報を聞いた時は悲しかったよ……彼は警察官でありながら、私の研究にも協力してくれていたからね」
「そうですか……つまり、犬上君はそんな父さんの後を……」
「そうだろうね……でなきゃこんな姿になるまで戦う真似はしないはずだ。やはり、キミ達のシステムには安全装置を組み込んでおいた方が良かったのかもしれない……」
タカヒロさんはパソコンの画面を僕に見せてきた。そこには、変身時に光るクリスタル部分に変身を解除する何かのプログラム……のような物が記されていた。
「私は案外、キミ達を甘く見過ぎていたのかもしれない……キミ達の行動力は私の想像していた域を軽く超えている……このシステムはキミ達に過大な負荷をかけるという欠陥こそあるが、不要な戦闘で傷付くよりはマシだと結論付けていたが……その負荷もまた、心配の種となる……私はここの養護教諭も請けもっている関係で下手な事が出来ない」
タカヒロさん……普段はあんなにノリノリなのに、実はそうやって前線で戦う僕らの事を第一に考えてくれてたなんて……
「……顔を上げて下さい、タカヒロさん。貴方の気持ちはよく分かります……僕も小さい頃、父さんが何かを試す時は母さんと二人で心配してばかりでしたから」
「そう言ってくれると、安心するね……さて、先程冬真や夏輝が対峙したあの存在だが……」
「教えて下さい……僕は組織に入ってない一般人だけど、こうして戦ってる今は無関係じゃないんだ……」
僕はタカヒロさんが言い終えるより早く、彼の言葉を遮る形ではっきりそう告げながら頭を下げた。
「……OK、落ち着いて聞いてくれ。あのシステムはメサイアと言ってね……ヴァイラスを発見した直後に上層部からの指示で開発したシステム及びそれを使ったスーツさ」
ヴァイラスを見つけた直後に……って事は、10年前には既にあの戦士のシステムは完成してたんだ……
「だが、メサイアシステムには決定的かつ非人道極まりない欠陥があってね……何だと思う?」
メサイア……って聞くと、救世主って事だから欠陥は無いように感じるけど……いや、救世の意味を深く考えて裏を返せば……
「……僕らのシステム以上に装着者への負担を考慮しない何かが組み込まれてた、とか……でしょうか?」
「流石は博士の息子……その通り、メサイアシステムは脳·神経系統·筋肉……人間が扱える全ての物を一切の出し惜しみなく酷使する……そんな代物だ」
「そんな……変身したら……」
「そう……変身したら最後、その人間の命は無い」
「な……何でそんな物を……」
「私にも理解出来ない……皆の安全を守る為にスーツは存在するべきなんだ……だが、メサイアシステムは安全を守るという言い訳を付けて科学者達が揃いに揃って狂気じみた設計を組み上げた……だからそれに気付いた翼博士はメサイアシステムをブラックボックスへ封じた……」
その後しばらく話が続いた後、僕は犬上君をタカヒロさんに任せて一旦帰宅する事にした。
「あっ、なっくん……おかえり」
「ただいま……ごめんね、遅くなって」
「ううん……また怪物騒ぎがあったんだもん、気にしないで。ほら、ご飯にしよ!」
「う、うん……」
相変わらず……涼葉さんは優しいなぁ。優しいから……迷惑はかけられない。自分でも分かってる……でも、メサイアシステムの事を知った今……そしてそれが悪用されて現代に復活した事実があるなら……僕や犬上君の手で止めなくちゃいけない。
自分の部屋で部屋着に着替えながらそんな事を考えていると、さっき自分が変身した際に生じた違和感を思い出し、ベッドに座って今日起きた出来事を軽く整理する事にした。
「アレス君からもらった力……ペルセウスが赤く変化しただけじゃなくて、それまで一度も攻撃が通らなかったラダマンティスに攻撃が届いた……この力は一体……そうだ!」
僕は自室のパソコンの電源を入れてすぐに大切に保管していたメモリを挿し込んでファイルを開き、父さんの秘蔵のデータへアクセスしてみた。
「これが……メサイアシステムの全て……タカヒロさんの言う通り、とても人間が扱えるものじゃない……!?」
メサイアシステムを改めて見ると……如何に恐ろしいシステムなのかが分かった。そして、さらに調べを進めていくうちに僕はペルセウスに隠されていたあるシステムについての記載を見つけた。
「おーい、なっくんー!ご飯冷めちゃうよー!」
「……分かった、今行くよ」
僕は一度パソコンを閉じると、涼葉さんの元へ戻りが一旦夕食を取ってから、再度自室へ行って情報の整理に取り掛かるのだった。
「ペルセウスにだけあるこのシステムは一体……何なんだろう……そもそも何でペルセウスなんだろう……」
僕はこの時、父さんがペルセウスに何を託していたのか……そして何故ペルセウスがベルセルクとは似て異なる姿をしているのか……その真意を知る事となった。