第14話 明かされる陰謀、試される覚悟
ラダマンティスとペルセウスが戦闘を始めた頃、異空間ではミノスとアイアコスがその様子を見ながら会話していた。
「ラダマンティスの奴……えらく帰りが遅いな。アイツなら人間なんて軽く嘲笑して捻っておしまいなはずだろ……」
「ラダマンティスが口にしていたペルセウスとやら……かなり腕が立つのかもしれないな」
「確かに……以前俺が戦った際も……俺の角を折って、未だに痛むほどの傷を付けやがった……んぁ、何だテメェ」
二人が話していると、黒いローブの男が気配もなく二人の元へ近付いてきた。
「一体何の用だ……?」
『私もそろそろ動く……それを伝えに来た』
「動く?どうするつもりだ?」
ミノスから投げられた質問に対して男はローブの裾を少し捲り上げると、その腕には彼らへ譲渡したはずの黒いギアが装着されていた。
「き、貴様……我らのスポンサーでは無かったのか!その話は嘘だったとでも言うのか!」
『落ち着け……君達三幹部がペルセウスに手こずっている事はこちらでも把握している。故にこうして私が動く事に決めたんだ』
「つまり、貴様も前線へ出ると?」
『そうだ……私としてもこの状況は少々静観し難いと感じていてね……』
「ハン、そのいけ好かねぇ物言いは未だに気に食わねぇが俺らヴァイラスの……プルトーネ復活が早まるなら背に腹は代えられねぇ」
ミノスは珍しく苦虫を噛み潰したような表情を見せつつも反論する事なく仮面の男の言った事を呑み込んだ。そして側にいたアイアコスも無言で目を閉じ、彼に難色を示す事はしなかった。
「セヤァァァア……ッ!」
『フン……やはりその力、あの男に通ずる何かを感じますね……』
「えっ……あの男って……ぐっ……!」
『ここまで私を追い込んだ褒美に10年前の事故の真実……その一端を話して差し上げましょう』
「事故の……真実……!?」
『元々私達ヴァイラスは平行世界に存在するコンピュータウィルスの一種でしてね……人間達はそんな私達を異星人と勘違いし、交流を試みた……』
〈セフンソーラーズ·プロジェクト〉の事だね……まさか、そんな前からヴァイラス達はこの星に来てたって事なの……?
『私達がウィルス体と判明した途端、人間達は私達との和平交渉を決裂させ、宇宙へと追放した』
「そんな……じゃあ、キミ達は……復讐が望みでホシガシアを襲撃したの!?」
『あれは宣戦布告のようなもの……それで大人しく私達の要求を聞き入れていればよかったものを……無駄に抵抗など考える方がおかしいとは思いませんか?』
……確かにラダマンティスの言う事は理解できる。でも、脅すにしても声明発表だけで十分だったはずだ……どうしてそんな事が出来ないんだよ……!
「それでこの星の人達を攻撃していい理由には……絶対にならない!そもそもこの星に復讐する為に……あんな事故を起こして……キミ達は何も思わなかったの!?」
『虐げられた者達の中には大なり小なり憎悪が芽生える……それは貴方達人間とて同じはず。私達が貴方達に恨みを持つのは当然の結果という事です!』
「うわぁっ……!」
同じ頃、先の戦いの傷が何とか回復した冬真は傷口が開く危険性を承知で夏輝の元へ急いでいた。しかし、そんな彼の前に立ち塞がる形で仮面の男が姿を現した。
「誰だアンタ……ここはセキュリティによって校内関係者以外は立ち入り禁止なはずだが?」
『公共のセキュリティ程ヤワな壁は無い……そういう事だ』
「ならば……サイバーフォースの分隊長として、お前をここから全力で追い出す!トランスオペレーション·ベルセルク!」
『……それが噂のベルセルクか』
そう言って謎の男はローブの裾を捲し上げ、漆黒のギアを彼の方へ向けた。
「何だそのギアは……」
『今に分かる……ブレイクオペレーション·メサイア』
謎の男の緩急のない無機質な声に合わせてギア中央部のクリスタル部分から紫の光が放たれ、周囲に鎧のような物が漂った後、渦を巻きながら彼の体に装着された。
『アステライズシステム……その祖たるシステム……メシアライズシステム。性能は……身を以て知るといい』
「何だか知らないが……俺は夏輝の応援に行かなきゃならないんだ……そこを通してもらうぞ!」
ベルセルクに変身した冬真は腰を低く落としながら勢いよく飛び出し、変身を遂げた仮面の男へ殴りかかった……が、その攻撃は虚しく空を切り、そればかりか冬真の方が逆に抑え込まれてしまった。
「な……なんて速さだ……全然動きが見えなかった……」
『言ったはずだ……メシアライズシステムはキミ達のシステムの原点にして頂点、つまり……いくら最新鋭の媒体を有していても全てが無駄に帰すのだよ』
「だから……何だぁあ!」
冬真はかなり大袈裟に暴れて拘束を解きつつ、その勢いを活かした蹴りを浴びせた。
『とはいえこのシステムは致命的な欠陥を遺したまま解決される事無く封印……凍結された負の遺産でしてね』
「そんな物騒なものが何で今になって蘇ってるんだ?」
『人とは能力の奴隷……力の前では己など錆び付いて機能しなくなったブレーキと化す。故に私は内から湧き上がるこの衝動に身を任せ、そしてそれを解放した……それだけです』
「ふざけんな……!俺は能力の奴隷なんかじゃない!俺は……この力を望んで、この力を使いこなして……お前らみたいな輩を一人残らずぶっ潰す!それだけだぁ!」
冬真は両腕の装甲を分離させて大剣に変形させると、思いっ切り男へとそれを振り下ろした。
「どんな理由があったって……争いで事を収めようなんて……間違ってる!」
『何故そう思うのです?貴方は私と同じく星と繋がる力を有した素晴らしい存在……ならば、より良い手段で現状を変えるべきだとは思わないのですか?』
「僕だってそう思ってる……そう思ってるから……こうして貴方と剣を交えてるんだ!」
僕はラダマンティスと言葉の応酬を繰り返す中で未だに激しく剣と剣をぶつけ合い、互いに少しずつ消耗させていた。
『ではどうして貴方は今、私に剣を向け……剣をぶつけているのですか?それもまた争いではないのですか?』
「違う……これは……僕なりの……やり方だ!世界を変えたり争いを無くすのは難しい……出来ないかも知れないとすら思うよ。だけど、僕には帰る場所があるし……笑顔で話が出来る仲間がいる……そんな人達の大切な場所を守る為なら……喜んでこの身を投げ売ってやる!」
僕は両腕のクローを赤熱化させ、同時にラダマンティスへ突き立てた。
『グ……ヌゥ……ックク、アーッハハハ!こんな気分を味わったのは初めてですよ……私がここまで怪我をするとは……今日の所は引き下がりましょう……ただし、彼の身は預からせてもらいます。彼は私の大事なお客様なのでね』
「刻屋君……!」
ラダマンティスは一言僕にそう残すと、刻屋君を一瞬僕に見せつつその場から消え去ってしまった。
『Sorry、夏輝……疲弊している所を申し訳ないが、至急体育館へ向かってくれ』
「タカヒロさん……それって……!?」
『キミの友人……ベルセルクが Very dangerousな状況に陥っているんだ。応援に向かってくれ!』
「犬上君が……分かりました、すぐに向かいます!」
僕は軽く息を整えた後、すぐにタカヒロさんから教えてもらった通りに体育館の方へと急いだ。
……犬上君、変身してるとはいえ……大丈夫……だよね……?
僕の胸中には安心感ではなく、むしろその逆……犬上君の心配が渦巻き、それにあわせて心臓の鼓動もだんだん早くなってきていた。