第12話 赤き星の騎士
「ハァッ……!」
『……』
「ヤァァッ……!」
『……フフッ』
こっ、攻撃が……当たらない……な、なんで?
『今貴方は、何故自分の攻撃が当たらないのか、と考えましたね?』
!?……なんで口にしてない僕の考えが読めるんだ……まさか、この死神って……!?
「鷲宮……俺も加勢するぞ!トランスオペレーション·ベルセルク!」
僕に少し遅れる形ではあったけど、犬上君は何とか落ち着きを取り戻してベルセルクに変身すると早速死神の背後へ回って蹴りを繰り出した……が、それは死神ではなく僕の方へ当たってしまった。そしてその瞬間……僕は死神が持つ力の正体に感付いてしまった。
「貴方……星と繋がる力の所有者、ですよね?」
『ふむ……その根拠は?』
「さっき僕の攻撃を全てギリギリのタイミングで躱していた。そして今、当たってもおかしくなかったはずの犬上君の攻撃が僕に当たった事……それは全て、僕ら二人の行動を先読みしていたから為せた事……」
『お見事です……私もこの力を得た時は驚きましたよ。こんな力が自分に眠っているなんて……そう思った途端、その力を完璧に己のものとしたいという欲に駆られた……そう、このようにね』
死神は姿を消した次の瞬間、僕らが防御するよりも遥かに早い速度で攻撃を仕掛け、結果として僕達はかなり後ろへと吹き飛ばされ、何なら柵にぶつかってしまった。
「おい、鷲宮……あの死神の力について何か知ってるのか?」
「うん……僕には昔から未来予知に近い能力があって……戦ってる時もたまに相手の動きが全部みえる時とかがあるんだ」
「つまり……今奴が仕掛けた攻撃は……」
「僕達の動きを全て見た上で、僕達の防御が間に合わないタイミングを縫って仕掛けたもの……だね」
『さて……こんなところで剣戟をしていては、下にいる者達に見つかって大変でしょうし、場所を変えるとしましょうか』
そう言うと死神は自分の足元から影を泥沼のように広げ、僕や犬上君……そして側にいた生徒を飲み込んで一面赤い空と黒い地面が異質な雰囲気を放つ空間へと飛ばした。
「……あれが翼の息子……オレの力を与えるに相応しい奴かどうか、ちょっと見てやるか」
そして、彼らの気付かぬ所でもう一つ、不思議な動きがあったが……当然今の彼等はそれを知る由も無かった。
『貴方達は私に刃を触れさせるなど出来ません……ペルセウスの言う通り、私には力があるので……クックック』
「んだと……そんなもんで俺らの手が止まるとでも思ってんのか!」
「ダメだよ犬上君……闇雲に突っ込んだら!」
「知るかぁぁぁあ!」
『弱い犬ほどよく吠える……ならば強く賢い蝙蝠は……黙らせるまで』
「はぁ?何言って……」
次の瞬間に死神が取った行動は……拘束だった。しかもただ拘束するのではなく、完全に無力化した上でジワジワと体力を削っていく……そんな感じに見えた。
「こんなの……すぐにでも……!」
『その呪縛は私特製の物でね……君のような目障りな存在には丁度いい。私が彼の力を測り終えるまでそこで大人しくしてなさい』
「ぐぁぁあつ……!」
「犬上君……うわっ!?」
『フフフ……貴方の相手は私ですよ。なぁに……すぐに会わせてあげますよ。天国でね!』
この死神……左手で拘束を維持しながら右手で鎌をこんな軽々と操るなんて……この前の牛みたいなヴァイラスとは……格が違うって言うの……!?
「こんな痛み……すぐに慣れてやる……だから……絶対解いてやらぁぁあ!」
『喚くな弱者め!』
「がっ……!」
「犬上君……分かった、ちゃんと戦うから……犬上君をこれ以上苦しめる真似はやめろ!」
『そう言ってその願いを私が素直を聞き入れるとでも思いですか?でしたら残念……私は貴方達が言うように闇の世界から現れた死神……故にその要求は全て蹴り、そして貴方達をこの世界から永久退場させる!』
死神はそう言い放つと拘束していた犬上君を僕の方へ投げ飛ばしながら自身もこちらへ急接近し、鎌による衝撃波で二人纏めて吹き飛ばされてしまった。
「なんて強さだ……まだ満足に使い熟せてすらないのに……!」
『貴方と私は同じ力を有していますが、ヴァイラスと人間とでは力を制御するだけの器の作りが違うのですよ……』
「俺を……足手まといみたいに……扱うなぁぁあ!」
「ダメだ、犬上君……止まって!」
『噛み付く相手は……お間違えの無いよう、お願いしますよ』
「何……!?」
「い、犬上君……!」
僕は死神が振り下ろした鎌から犬上君を庇うように突き飛ばすと、彼に代わってその一撃を受けて胸部から激しく火花を散らしながら崩れるように倒れた。
「鷲宮……!」
『やはり人間というのは面白く、愚かで……実に滑稽な生き物ですね!』
「……せよ」
『はい?』
「……りけせよ……」
『何でしょう?』
「その言葉……今すぐ取り消せぇえっ!」
倒れてしまった僕のすぐ横では、死神がした事に対して怒りが頂点に到達した犬上君が鬼のような気迫と共に死神を肉迫していた。
『クハハハ……そのような単調な動きでは刃など届かないと説明したのをお忘れですか?』
「うるさい……お前は今、俺の逆鱗に2つも触れやがった……その怒りはお前には止められない!」
『やれやれ……噛み付く相手を間違えるなと何度言えば理解していただけますかねぇ……』
「ごちゃごちゃうるせぇな……オラァ!」
『クッ……しつこく噛み付こうとする所まで犬らしいとは……ですが、私の呪縛に一度でも捕われた貴方に勝ち目など無いのです……!』
「何……っ!」
それまで死神に少しずつ攻撃が当たっていた犬上君の動きが突然止まると同時に、吐血したような感じの声が漏れつつ、膝を付いてしまった。
「な、何をした……」
『私は死神ですよ……死の宣告を貴方にそっと仕込んだだけです。まぁ、呪縛を派手に解いた上でここまで愚かにも私に詰め寄るなどしなければここまでの重体にはならずに済んだかもしれませんがね』
「ゲホッ……ゲホッゲホッ……お……前……」
ドス黒いエネルギーが犬上君の全身から湧き上がると、そのまま前に倒れ込むように変身が解けながら彼は意識を失ってしまった。
「犬上……君……!」
もっと僕がちゃんと戦えてたなら……犬上君はこんな事にならずに済んだのかな……
『お分かり頂けましたか?これが貴方達の限界……例え進歩を重ねた技術を用いたとしても、扱う器が小さければ持ち腐れとなるのは明確……さぁ、お楽しみと行きましょうか……』
悔しい……死にたくない……僕はまだ……戦いたい……頼む、せめて鎌を受け止めるだけでいい……動いてくれ……僕の……体ぁぁっ……!
『……ヘッ!』
死神が僕を嘲笑いながらトドメと言わんばかりに鎌を振り下ろした次の瞬間、鈍い音と爆発を伴ってその攻撃は僕に届く事無く止まった。
『貴方……どちら様ですか?』
『はぁ?何で今からぶった斬る相手に名乗りなんてしなきゃなんないんだ?それって地球のルールか?あーあ、面倒くせぇなぁ』
僕を鎌から救った爆炎……その中から現れたのは、赤い半袖のシャツとクリーム色のズボンを履いた青年だった。青年は大あくびをしながらそんな事を口にしつつ、右手を真上に掲げた。そして……
『ソウルブレイク·マーズ!』
と一言叫んだ途端、さっきと同じ勢いで爆風を発生させつつその姿を真っ赤な炎のような形をした鎧の戦士に変えた。
『まさか……貴方は……!』
『アンタらヴァイラスが殺しまくった……プラネットの生き残りだよ……さぁ、徹底的に焼き尽くしてやるぜ……覚悟しろ!』