第11話 裏で動くのは影のみならず
―星ヶ崎高校にて冬真がベルセルクとしてヴァイラス撃破を成し遂げた頃、
「ふぅ……無事にペルセウスとベルセルクが起動出来た事、本当に良かったよ……それに、これで私の最初の研究にも一段落付いた……おや?」
「余韻に浸っている所を申し訳ないな……タカヒロ」
「ノンノン、こんなの私達の間じゃ日常茶飯事じゃないか。キミが気負う必要は無いだろう……バサラ」
「ハハハ……相変わらず、研究のみに没頭している訳ではないとでも言いたそうな口振りだな」
「確かにそうしたいんだけどね……翼博士の予言……その悪い方が現実になってきてる今、そうも言ってられないのさ」
「なるほど……しかし、お前の発明にはいつも驚かされるな。あんな年端も行かぬ子供達がこれだけの戦果を上げるとは」
「問題は、現在開発中の3号機だよ……」
「まだ何か作るつもりかい?」
「あぁ……今度はペルセウスと同等かそれ以上の出力を出せる機構とそれを人間でも比較的ノーリスクで動かせる機能の両立を目指しているんだ」
「お前らしい発想だな……さて、俺の方でもそろそろ、アレを復活させようかな」
「そうだね……私達の行動範囲が狭められるより前に何としても、ね」
―星ヶ崎高校
「イェーイ、夏服だぁーっ!」
「蝉沢君、ずっとこの期間を待ってたもんね」
「おうよ!かく言うお前も夏服じゃねぇか。てか、天川さんはどうしたんだよ?」
「天川さんなら先に学校行ったって連絡があったよ」
「部活があるにしては……えらく早出だな」
「少しでも多く練習したいんだよ。新人戦でエキシビションを任せられたんだから」
「そりゃ練習時間確保したくなるな……俺が仮にその立場だったら俺もそうするはずだし」
今日から5月……制服の衣替え期間が始まったから思い切って夏服にしてみたんだけど……もう冬服で行こう、なんて気にはならない程暑い日が続いてるのが現状なんだよね……
「あ、夏輝君……おはよう!ごめんね、朝早くから先に来ちゃって……その……どうかな、私も夏服にしたんだけど」
「うん、よく似合ってると思うよ」
本当は可愛いって言いたいけど、僕らが許嫁な事がバレたらまずいから……これは家で言ってあげよう。
「それだけ?」
「えっと……うん。もしかして、ダメだった……?」
「……別に」
やっぱりダメっぽい……この様子じゃ家までは待ってくれなさそうだし、後でバレないように伝えよう。
昼放課になった僕は同じクラスの犬上君に呼ばれ、屋上庭園に来ていた。
「用があった所に呼び出すような事をして悪いな。実は、お前に一つ話しておきたい事があるんだ」
「話しておきたい事……分かった、必要なら他言無用は守るよ」
「ありがとう……以前にも言ったと思うけど、俺はサイバーフォースの部隊長だ。だから、俺は基本的に組織からの指示で動く……つまり、裏を返せば独断で動く事は出来ない。そこで……組織と契約していないお前の力を借りたい」
「え……」
「もちろん、お前が一般人で争いを好まない性格なのはよく理解してるつもりだから無理強いはしない……だか、お前が協力してくれると心強い」
確かに僕はこれまでにも「一般人」という言葉を免罪符にして自分から戦う事を躊躇ってきた……けど今はもう迷いは捨ててその道に行く事だって……!
「いいよ……僕も戦う。僕だってペルセウスに変身する力がある。天川さんを……皆を守る為の力がある……だから、ヴァイラスから目を背ける訳にはいかない。守る為に……戦う」
「鷲宮……お前……」
「今まで戦ってきた中で考えたんだ……守るって行動は義務付けちゃいけない。自分の気持ちで動かなきゃ……本当に守りたいものは守れない……そんな風に思うようになったんだ」
「そうか……それがお前の本心だって言うなら、俺は止めはしない」
「ありがとう、犬上君」
そうだ……僕はもう、ヴァイラス達とは切っても切り離せない関係なんだ……退路があったとしても……そこへ逃げ込む気はない。それに……僕に眠ってる力と向き合いたいんだ……父さんが調べようとしてた力と……
―その頃、生徒会室ではベルセルク覚醒の際に影で不穏な動きをしていた青年がもう一人の青年から質問を受けていた。
「聞いたぞ……黒い何かを御剣に渡したって」
「おやおや……それにお気付きとは、なかなか見る目があるじゃないか。して、ご要件は?」
「それ……オレにもくれないか?」
「ほう……そこまでバレているとは。貴方は確か……父親が探偵でしたね。いいでしょう……どういうつもりで、何故それを求めるのか……問う気はありません。さぁ、こちらを」
青年はそう言うと黒いギアを取り出し、自身の秘密の一端を知ったもう一人の青年に渡した。するとその青年は黒いギアから放たれた光によってその姿をヴァイラスへと変化させてしまった。
「ペルセウス……ベルセルク……これは私からの果たし状です。今度もこれまで通り倒せるか、見せてもらいますよ……」
ヴァイラスに変貌した青年を鼻で笑いながら青年は自身の影の中へ沈むように消えるのだった。
「こ、校内にヴァイラス反応……!?なんで急に!?」
「さぁな……だが、止めるしかない」
「でももうすぐ授業が」
「授業と日常、どっちが大事だ!」
「それは……」
なんでここで言葉を詰まらせてるんだ……迷わないって決めたじゃないか……!
「……行って、二人共。先生には私が上手く誤魔化すから」
「す、涼葉さん……い、いいの?」
「私は夏輝君の秘密を知ってるんだよ?だから……皆の日常、ちゃーんと守ってね」
「……分かった。急ごう、犬上君!」
「恩に着るぞ、会長……さぁ、屋上庭園へ急ぐぞ!」
「うん……!」
わざわざあんな事を引き受けてまで僕達を行かせてくれたんだ……絶対負ける訳にはいかない……!
僕達が反応をキャッチした場所……屋上庭園に向かうと、そこには何処か正気を失ったような雰囲気の生徒が立っていた。そしてその側には……黒いローブを纏って宙に浮いている……宛ら死神のような風貌の何かもいた。
「刻屋君に何をした……!」
『おや……ペルセウスが駆け付けたと思ったら、ひ弱な人間が二人現れるとは。なるほど……そういう事でしたか』
「スカしてないで答えろ!そして今すぐそいつを解放しろ!さもなくば……討つ!」
『アッハハハ……これはこれは……怖いですねぇ。そもそも彼は自分から私の元へ来たんですよ?それを変に解釈するのはやめて頂きたいですねぇ』
「恍けるな!お前達の動きはサイバーフォースでも徐々に尻尾を掴んできてるとこでな……」
僕が憤りを募らせるよりも先に横にいた犬上君の怒りが爆発し、制服のポケットから小型の銃を取り出して死神の方へ銃口を向けていた。
『血気盛んな犬程よく吠え、弱い生物はいない……そちらのキミは何故叫ばないのです?人間とは誰かの為に怒り、我を忘れて滅ぶ生き物でしょう?』
「……確かに僕も横にいる彼と同じ気持ちだよ。だけど……貴方には怒りを通り越して呆れすら感じたよ」
「鷲宮……?」
「この前ホシガシアで戦ったヴァイラスは……危ない考えを持っていながらもちゃんと僕らの事を分かってた。けど……貴方はまるで分かってない……分かる気もない癖に……偉そうな事を言わないで」
『ふむ……ミノスのあの怪我はやはり、ペルセウスに付けられたものでしたか。まぁ、彼も人間同様感情のままに全てを投げ打つ愚者ですから……さて、そちらの御仁が噴火しそうですし、そろそろ始めましょうか……彼をかけた……ゲームを』
「人の命を遊びに使う人に……慈悲は……無い。トランスオペレーション·ペルセウス」
僕はなるべく相手に悟られないように静かに怒りの炎を燃やしながらその姿をいつものようにペルセウスへと変えた。