第10話 星光の狂戦士
―星ヶ崎電脳研究センター……その地下に存在するラボへ足を運んだ冬真は、部隊長のIDカードを利用して中へ入り、そこにいたタカヒロにある頼みをする事にした。
「自分も戦う為の力がほしい……ね」
「俺はまだ高3の身ですが、サイバーフォースの部隊長を任されているんだ……何とかならないか、タカヒロ博士」
「確かに……ペルセウスが無事に稼働出来たけど、アレのユーザーは不明……キミはそこに責任を感じてるからここへ足を運んだ、そうだろ?」
「……はい、俺はサイバーフォースの部隊長として……組織の為に全力を尽くしたいんです!お願いします……!」
「OK、キミの気持ちは受け取った……私の方でも出来る限りの事はしよう。だが1つだけ伝えておこう……力は得るだけでは何の価値もない代物に過ぎないよ」
「博士、それって……」
「分かったならさっさと出てく……ここはキミのような一端のコマンダーが来る場所じゃない!」
こうして冬真はタカヒロ博士とペルセウスに匹敵する力を譲渡すると、半ばラボから追い出されるような形で出ていった。
『ソウカ……コルヴォガイッタカ……』
「申し訳ありません、プルトーネ様。ですが、次の手は既に打ってあります故、どうか静観して頂けませんか?」
『ヨカロウ……ダガ、シッタイガカサナルヨウナラソノトキハワレモウゴク……イイナ?』
「承知致しました……では、私はこれにて」
それと時を同じくしてヴァイラス側でも小さめではあるが、新たな影が動き出そうとしていた……
「えー……今日からこのクラスに1名、転校生が入る事になりました。では、早速自己紹介をしてもらいます」
「犬上冬真です……よろしく」
「それでは犬上の席は……あそこだ。鷲宮の隣だ」
「鷲宮……はい、ありがとうございます」
僕のクラスに……昨日の夜会ったばかりの男の子が転校してきた。暗くてよく分からなかったけど、今こうしてみると……またしても僕が仲良く出来るのか不安な雰囲気出てるなぁ……
とまぁ、こんな感じで犬上君が転校してきたから、僕は生徒会の副会長として彼に構内を案内しながら自分がいつも落ち着ける場所である屋上庭園に来ていた。
「わざわざ案内してくれて悪いな、鷲宮」
「ううん、気にしないで。これは僕の仕事でもあるんだ」
「仕事……か……」
「犬上君……?何かあったの?」
「……隠してもバレるものはバレるか。そうだ……俺は今、焦っているのかもしれない」
「焦ってる……どういう事?僕で良かったら、話を聞くよ」
僕が優しくそう言葉を掛けると、犬上君は諦めたように大きく深呼吸をすると、口を開いて自分の中にあるものを吐き出すように話し始めた。
「俺は以前、サイバーフォースの部隊長をしていると言ったな。俺は最近、ペルセウスの存在を知って……彼に憧れと嫉妬、その2つの感情を抱いたあまり、いつしかその力を欲しいと願うようになってしまったんだ」
「……そっか。それで、犬上君は何かしたの?」
「タカヒロ博士という組織でも謎の多い研究者の元を訪ね、そこでコイツを貰ったんだ」
犬上君が僕に見せたのは僕が普段右腕に付けてるものと色だけが違う同じギアだった。
「犬上君、それって……!?」
「ペルセウスが使用しているギア……アステライザーだ。俺もこれがあれば、もっと多くの市民を守れる……そう思っていたんだが、現実はそこまで甘くなかったよ」
「……」
「俺は震えているんだ……もしこれを使用して、システムに食われるような事があったりしたら……俺は今の地位を失い、叶えたい夢も理想の自分すらも……壊してしまうんじゃないか……そう考えるようになってしまったんだ」
「そんなの……当たり前だよ」
「何……!?」
「実はさ……犬上君が言うペルセウスって、僕なんだ。僕もタカヒロさんからコレを貰って、少し前から戦ってる……でも、少し前までは怖かったんだ。この力は実は自分の命を奪うんじゃないか……ってさ」
「鷲宮……お前……」
「僕から1つだけ、言わせて……僕と違って、犬上君はサイバーフォースの一員で、隊長なんだよ?もっと自信を持ってもいいと思うんだ……一般人の僕に比べたら、ね?」
悔しいのは僕の方だよ……僕もサイバーフォースに入って……胸を張って皆を守れるようになりたいって思ったよ……なんて、本人の前じゃ言えないよ。
「鷲宮……ありがとな。お前のその言葉が貰えただけで、俺は頑張れそうな気がするよ」
「なら、話した甲斐があるよ……!?犬上君、危ないっ!」
「何っ……!?」
僕らが話している間にヴァイラスが出現し、会話を遮る形で襲いかかってきた。僕はその際に犬上君を軽く突き飛ばした所をつかれてヴァイラスからの攻撃を受け、左肩から出血を伴う怪我をしてしまった。
「鷲宮……!」
「ぐっ……」
「……俺がやるしかない。俺が……お前に代わって、アイツを討つ……!」
『Wait……確かにキミにもペルセウスと同型のアステライザーを渡した。けど、渡してから数日経ってもキミは起動出来なかったじゃないか』
「確かに俺は数回のテスト全てに失敗し、体力もかなり奪われたと感じている……だが、これしきの事で退くくらいなら……変身に失敗して死んだ方がよっぽどマシだ!」
犬上君の叫びに応えるかのように彼のアステライザーの手首側にある円状のカバーパーツが展開した。
『Oh……なんてこった……こんなタイミングでギアが起動するなんて……よし、キミに新たな起動コードを教えよう!『トランスオペレーション·ベルセルク』と叫んでみてくれ……今のキミなら成功するはずだ!』
「……トランスオペレーション·ベルセルク!」
犬上君がそう叫ぶと、開いた円状のパーツの中心から赤い光が稲妻のような形で溢れ出し、彼の体を包み込みながらアーマーへ変化し、その姿を僕の変身後の姿……ペルセウスとは異なる荒々しい獣と騎士が混ざったような姿へ変わった。
『Amazing……!それこそが私の開発していたアステライズシステム2号……ベルセルク!ペルセウスがスピードとバランスに特化した戦士とするなら、ベルセルクはひたすらに攻撃重視で攻め落とすバーサーカーといったところさ』
「なるほど……攻撃は最大の防御……といったところか。だったらその力……存分に使わせてもらう!」
『グァァ……!』
「ハァッ……!」
変身に成功した犬上君の強さは凄まじかった。徒手空拳に近いスタイルで相手のヴァイラスを瞬く間に追い詰め、校庭まで吹き飛ばされる頃にはかなり弱っていた。
『おっ、その様子だと……ヴァイラスはかなり弱っているみたいだね。なら、フィニッシュだ……起動コードは『ファイナルデリート』だよ。バッチリ決めてくれよ……冬真』
「言われるまでもない……ファイナルデリート!」
〈スラッシュスターテイル〉
犬上君の掛け声にあわせて彼の両腕のアーマーの一部が分離し、そのまま狼の尻尾の形をした大剣へ変形した。
「悪いが俺に待ったはない……おらぁぁっ!」
犬上君は赤い電撃を帯びたその剣を両手で重たそうに持ちながら相手の頭上まで持ち上げて一気に振り下ろした。頭からかち割られるように攻撃を受けたヴァイラスは少しスパークが走った後、大爆発と共に散った。
「凄かったよ、犬上君!」
「そうか……これで俺も、一歩前進ってどこだな」
「……うん!」
「やれやれ……やはりウィルス体のままではあっさり倒されるか。コルヴォみたいに人間を器にしない事には勝てず、プルトーネ様復活の糧にすらならない……今回は貴方達に勝ちは譲りますが、こちらも実験は終わりました。故に……本気で行かせてもらいますよ……ッククク」
校庭の近くにある体育館……その裏に隠れていた紫色の髪の青年は黒いギアを突き出して、先程爆発が起きた場所から黒いモヤのような物質をその中へ回収し、不気味な笑みを残して去っていった。