目が覚めると……
どのくらい寝たのだろうか。
近くでサーッとカーテンが開く音がする。
どうやら朝が来たようだ。
そろそろ起きないとな。
若干の眠気がまだ残りつつも、のそのそと起き上がり、近くにある白い紐を強く引く。
すると、アーム式の蛍光灯がシーリングライトの白色光で部屋を照らした。
「……」
完全には起きていない為、まだ視界はぼやけている。
ただ、視界に入るのは殺風景なフローリングの6畳部屋と、いつもと違うような光景だった。
「……」
見慣れぬ部屋にあるのは、かなり大きいダブル用のベッドと着替えの入っているだろう茶色のタンスに本棚1つ、最近よくCMで流れている自動調整可能の白いエアコン。
どうやら、窓はないようだ。
「……あれ?」
俗に言う広めのサービスルーム。
もちろん僕の部屋はこんな殺風景なものでは無い。
部屋こそは狭いが、ちゃんと窓はあるし、部屋の色も緑を基調としている。
30万はしたハイスペックのデスクトップPC、漫画、しまいには好きなアニメのポスターが貼ってあった。
「一体、ここは……」
何処、なんだ?
昨日の記憶を呼び起こす。
柚の家で夕食をご馳走になって、家に帰ったら、風呂に入って、少しゲームをして、それからベットの上で横になって──。
先から先の記憶が一切ない。
無理に思い出そうとすると、頭がズキズキとする。
一体何があったんだ?
そしてここは?
記憶を取り出せず、ベッドの上でボーッとする。
することは何もない。
枕元に置かれた時計は午前の7時を示していた。
「えっと……」
頭痛がする頭を抑えてながら、ゆっくりとベットから離れようとする。
だが、それは敵わなかった。
ガチャリと金属の音。
足元から聞こえてきた。
「ん?」
バサッと掛けられていた布団を退かす。
すると、足首に付けられた黒い何かが目に入った。
「……は?」
何これ?
気持ち悪っ。
抜け出そうと、ぶんぶんと足を振ってみる。
だが、黒い何かはジャリジャリと音を出すだけで一向に取り外す事はできない。
それどころか、よく見てみると、その黒い何かは僕の足元とベットの足を繋いでいた。
「……えっ?」
これ、手錠じゃん。
そう気がついてから数秒後。
僕は完全に目が覚めた。
冷たい何かが背中を通り越す。
「……」
見知らぬ部屋。
空白の十数時間。
足につけられた手錠。
「やばっ……」
どうやら、僕は誘拐されたらしい。
***
「抜けろ……抜けろ……」
手錠を上下左右に大きく動かす。
だが、そんな事をしても抜けるはずがない。
ただ、黒い鎖がジャリジャと音を立てるだけだ。
爪を使ってみるが、効果はない。
近くにあったペンでこじ開けようとする。
だが、これも無意味だった。
「何で僕なんだよ……」
身代金要求なら、もっと良い人がいるはずである。
それこそ大企業のご子息とか。
ただの一般家庭。
それも母子家庭である僕を狙う必要がない。
もしかして、僕か母に恨みがあるのか?
可能性は0では無い。
だが、それにしては待遇が良すぎる気もする。
「どっちみち、真実は犯人のみが知るって事か……」
そう決め、手錠の解除を再開する。
その時だった。
ピタッ……。
スリッパでフローリングの廊下を歩いているような音。
足音だ。
近くで聞こえてくる。
ピタッ……。
ピタッ……。
徐々に大きくなっていく足音。
こっちに向かってくるように聞こえる。
このまま通り過ぎてくれればいいけど……。
祈る。
神様とかは特に信じていないが、祈る。
だがその願いはむしなく、そこで足音は止まった。
「……」
犯人はこの部屋に入るみたいだ。
まずいッ!
もし脱出するのがバレたら大変だ。
僕は布団を手に取ると、颯爽と横になった。
ガチャリとドアノブが回され、扉がゆっくりと開く。
「やあ……」
陽気な声で、犯人が姿を現す。
僕を誘拐した犯人。
その正体は──。
「目覚めたかい? ケンくん」
「えっ?」
幼馴染だった。
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