憂鬱だ……
帰り道。
僕の足取りは重かった。
いつもなら家に着いている時間だが、現在僕がいる場所は駅前のショッピングモールの前。
距離で言えば、中間地点である。
「……」
今、僕を構成しているのは憂鬱のみ。
それこそ、全身から負のオーラが漂っているような感じだった。
「はぁ……」
本日何度目になるか分からないため息。
屋上での出来事が終わってからかなり頻度が増えたような気がする。
「はぁ……」
また、ため息を吐く。
フラフラした足取りで、僕はつい先程の事を思い出していた。
予期していなかった訳ではない。
だが、あまりにも早すぎて、想像以上に体力を消費するものだった。
「黒歴史だな……」
後輩からの告白。
結果から言えば、僕は彼女に「はい」とも「いいえ」とも答える事が出来なかった。
「少し考えさせて」と言うもの。
逃げと言えば、逃げである。
「はぁ……」
今、数えただけでも3回目。
まさに憂鬱だった。
かなりの時間を使い、ようやく見慣れた我が家が見えてくる。
光はついていない。
「今日は……母さんがいないんだっけ?」
今朝、柚に言われた事を思い出す。
柚ちゃんの家でご飯を食べなさい。
そんな言葉が母の声で脳内再生された。
「……」
正直に言えば、このまま真っ直ぐベットに倒れたかった。
だが、もうそろそろ6時だ。
一般的には早いだろうが、彼女の家ではご飯の時間である。
僕の分も用意されているだろう。
「行くか……」
もう一度ため息を吐き、僕は我が家の扉を開けた。
***
柚の家で、夕食の時間を過ごしていたら、あっという間に時間が過ぎていた。
外に出てみると、辺りはもう真っ暗だ。
「じゃあ、おやすみ」
「うん。 良い夜をね」
玄関で柚とも別れ、隣にある自宅に戻る。
母さんはまだ帰っていなかった。
「はぁ……」
風呂や歯磨きを済ませて、自室に向かう。
そして、僕はベットの上でバタンと横になった。
ふかふかの世界に包まれる。
あれほど、どんよりと感じていたあの重さが嘘だったように体が軽く感じた。
だが、少し思い出すだけで嫌な気分になるほどには、まだ残っていた。
当然だ。
僕がやった事は、ただ問題を先延ばしにしただけである。
「どうしよう……」
有希を彼女にする。
その事自体に問題はない。
ただ、怖いのだ。
今まで築いてきた人間関係が崩れるかもしれない。
そんな予感がしてならない。
「考えすぎなのかな……」
ただの杞憂。
そう思えば、気は楽だろう。
だが、もし杞憂じゃなかったら?
時計の進む先は見えないし、元に戻す事も出来ない。
そして、実際に安易な予測で大失敗した事例を見た事がある。
たかが恋人の問題を大袈裟にしすぎかもしれない。
だが、その恋人問題でも死傷事件は起きている。
「難しいよな……」
仰向けになる。
視界にいくつかの埃が見えた。
「そろそろ掃除しないとな……」
そんな事を考えていると、だんだんと眠気がやってきた。
今日はぐっすりと寝られたのに……おかしいな……。
こう言う日もあるのか?
それよりも起きないと。
「んっ……」
体を起こそうとする。
しかしどうした事か。
体は全く動かない。
それどころか、眠気は強くなっていくばかりだった。
「眠い……」
一体、何が起こったんだ?
金縛り?
そんなオカルティックな事が起こったとでも?
でも、あれは全身の筋肉が弛緩していて力が入らない状態であるレム睡眠中に、脳が起きてしまい、その結果である睡眠麻痺と研究されたはず……。
じゃあ……これは?
僕はまだ睡眠すらしていない。
「……」
残った体力を使い、懸命に考える。
だが、止まる事を知らないのかどんどん眠気が僕の操縦権を侵略する。
「あっ……」
もうダメだ。
そう思った時にはもう手遅れで──。
僕はゆっくりと瞳を閉じた。
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