下駄箱の中に
後輩と別れ、午後の授業が始まる。
教科は日本史と国語と、文系科目だらけだった。
もし隣に柚がいなければ、たぶん寝ていたと思う。
やがて午後の授業も終わり、放課後になる。
柚とは生徒会の仕事がある為、まだ学校に残る事になっている。
だから、僕は1人で彼女の家に向かう予定だった。
ここで事件は起きた。
「ん?」
家に帰る為に下駄箱を開けると、そこには1通の封筒らしきもの。
取り出し、裏返してみるとそこにはハートマークのシールが貼られてある。
差出人は女の子かな?
封筒には何も書かれていなかった。
「……何これ?」
下駄箱に挟まれてあった謎の封筒。
厚みはない。
軽くふってみると、中からシャカシャカと音がした。
「……」
うーんと考えていると、後ろから「どうしたんだ?」と声が掛けられた。
声の主は、僕の友人の1人。
この学校で知り合い、今ではよくオンラインゲームで遊んだりしているほどの仲だ。
「固まってるけど……腹痛か?」
心配そうな表情をする友人。
そんな彼に、僕は「手紙があった」と単結に答えた。
「……手紙?」
怪訝そうな表情になる友人。
僕は「ああ」と答えると、彼に封筒を見せた。
「……なあ」
「ん?」
「まさかだと思うが……これ、ラブレターじゃないよな?」
恐る恐ると言った様子で訊ねる友人。
「うん……」
……ラブレターか。
友人から封筒を返して貰い、もう一度、じっと見てみる。
「……」
汚れ1つない綺麗な封筒。
丁寧に貼られたハートのシール。
中身は開けてみないと分からないが、うっすらと文字が見える。
そして、下駄箱に置かれてあったと言う事……。
その可能性的には十分にあり得る。
僕は「……かもな」と答えた。
「かもなって、随分と落ち着いているな……」
「いや、以外と困惑している」
「マジかよ……」
ドン引きしたような視線を向ける友人。
いやいや、僕だって焦っているよ?
だって、こんなの貰ったのなんて生まれて初めてだし……。
「マジでラブレターだったどうするんだ?」
「どうしようかね……でも、まだラブレターと決まった訳じゃないよ?」
もしかしたら、ラブレターに似せた果し状かもしれないし、嘘告かもしれない。
中身を見なければ、何も言えない。
「じゃあ、早く開けろって!」
大声で急かす友人。
かなり慌てているように見えた。
「分かった。 分かって……」
何で君が慌ててるんだよ。
貰ったのは僕だよ?
そんな事を思いながら、ぺりっとシールを剥がして封筒を開ける。
予想通り、中には折り畳まれた1枚の紙が入っていた。
なんの変哲も無いただの紙だ。
しかし、何だろ。
いざ、誰かから貰う手紙を見てみようとすると、ドキドキする。
心臓がうるさいな。
そっとつまんで上に引き、友人に見えないように確認をする。
先輩へ──。
今日、授業が終わったら屋上に来てください。
いつまでも待っています。
愛しの後輩より。
「……」
差出人の正体がだいたい分かった気がする。
いやいや、何だよ……愛しの後輩って。
どう見てもあの娘しか思い至らないじゃん。
こう言うのって、現場に行ってどんな相手かを期待するものじゃないの?
それなのに、どうして自ら正体バラしてんだよ……。
高揚していた気分が、一気に戻された感じがした。
「……どうだった?」
興味津々に聞いてくる友人。
僕は「屋上に来いだって」と呆れながら答えた。
「……それだけか?」
「ああ」と答えた瞬間、体が浮いたような感覚に陥った。
「何だよ、それ! どう見ても告白のシチュエーションじゃねえか、おい! クソが! なんでよりにもよってお前なんだよ!」
「……」
どうやら、彼に襟元を掴まれたみたいだ。
友人の顔が近い。
あと、うるさい。
唾、飛んでるし……。
「あれか!? 冷めてる系の方がモテるのかよ! 俺だっていつも水風呂に入ればモテるのか!?」
「それはただの馬鹿だよ……」
「うるさい! チクショッ! 俺だってラブレター貰いたいよ……せめてバレンタインのチョコでも良いからさ……」
「……」
目の前で嘆く友人。
周りの生徒たちがドン引きした視線を送っている。
主に女子。
こんなことしているからモテないんだと思う。
顔と性格は良い方なんだし……。
「クソッ!」
「……」
あと、もう行って良いかな?
いいや。 行こう。
僕は昇降口でど真ん中で嘆いている友人を放置し、屋上に続く正面階段に向かった。
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