昼休みになると、いつも後輩がやって来る
学校に到着し、何事もない日常が始まる。
朝学に朝礼。
そして授業。
何の変哲もない光景だ。
キーンコーんでカーンコーン。
チャイムが鳴る。
昼休みだ。
教室で授業を受けていた生徒たちが一斉に廊下を飛び出る。
そして、一気に食堂へと駆け上がって行った。
「今日も騒がしいな……」
そんな事を思いながら、階段を降りる
向かう先は校庭。
そして、その奥にある雑木林だ。
いくつかの木々はがビッシリと並んでおり、人がほとんど来ることがない。
僕のお気に入りの場所だ。
ついこの間までは、緑で輝いていた木々だが、今は黄色くなっており、地面には落ち葉が絨毯のように敷き詰められていた。
「さてと……」
ポケットから文庫本を取り出す。
ほとんど音がしないこの場所で、本を読んだり、音楽を聴いたりする。
最高だ。
物語も佳境に入り、一気に面白くなる。
そんな時だった。
「先輩!」と頭上から陽気な少女の声が響いた。
彼女だ。
いつも昼休みになると僕の所にやって来る1人の少女。
「……なに?」
「こんな場所にいたんですね? 随分と探しましたよ!」
「あ……ごめん」
バタンと本を閉じる。
目の前にはあざいとい笑いを浮かべていた1人の彼女がいた。
水樹 有希。
僕の1つ下の後輩だ。
桃色のロングヘアを一本結びで纏めている。
今では元気100%の彼女だが、出会った当初は今とは全く違う性格だった。
今が陽なら、当時は隠。
隠の中でも相当の隠だ。
彼女と出会ったのは2年前。
僕が所属していた今亡き文芸部に、彼女が体験入部をしに来たのが最初の出会いだった。
当時は驚いたものだ。
柚と他愛もない雑談をしていたら、いきなり扉が開き、有希かがやって来たんだから。
その時の有希は前髪で目が隠れており、引きこもりでもしていたのかと言うほど、周りに不気味な印象を与えていた。
「あれ? ゆーちゃんはいないんですか?」
ゆーちゃん。
僕の幼馴染である柚の事だ。
有希が入部した時点で、部員は僕と柚の2人だった他、すぐに仲良くなった。
「今日は生徒会だって」
「ふーん」
意味深な笑みを浮かべる有希。
「えっと……どうかしたの?」
様子が変だから、声を掛けてみる。
すると彼女は大袈裟に手を振り「いやっ! 何でもないですよ?」と笑った。
「あっ、そう……」
「はい」
ニコッとする彼女。
こうして見てみると、本当に変わったんだなと実感する。
今の有希に、当時の根暗だった面影はない。
本当に同一人物なのかと思うほどだ。
「それで……何の用?」
「暇そうでしたので、来ただけですよ?」
暇か。
第三者から見れば、暇人に見えるのか。
でも、実際はそんな事はない。
「暇ではないよ」
「そうですか?」
「ああ」
本を開き、読書を再開する。
彼女と話していたものだから、どの場面だったか忘れてしまった。
パラパラと前のページに戻る。
するとその時だった。
「先輩って……彼女作らないんですか?」
そんな後輩の呟きが僕の耳に届いたのだ。
「……」
またか。
時々だが、有希はこうやって「彼女を作らないのか」的なことを訊いてくる。
ついこの間まではこんな事をなかったのに……。
今朝の柚と言い、今の有希と言い、そんなに僕の彼女の有無が気になるのか?
少しイラッときた僕は思わず言ってしまった。
「彼女ね……誰かがなってくれれば良いんだけど……良い人が居ないんだよな」
「じゃあ、彼女は欲しいんですか?」
「まあね……例えば、君とかは──」
ここで、僕は失言に気がついた。
あっ……言ってしまったと。
冗談だと伝える為に、顔を上げると、そこには顔を赤くしていた後輩の姿があった。
「大丈夫?」
「あっ……何でも無いです」
そう言って、有希は立ち上がると、「用事が出来たので」と告げ、颯爽に走り去ってしまった。
「……用事?」
さっきまで暇だって言ってたのに……。
何か出来たのだろうか。
「まっ、いっか」
この本の返却日がそろそろだ。
それまでに読み終えないと。
人差し指で挟んでいたページを開く。
「今日中に読み終えるかな?」
ちょっと厳しいかもな……。
そんな事を呟きながら、読書を再開した。
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